第6話

 休み時間。

 教室の椅子に座る武志の上に美紀が馬乗りになっている。


「ねえ、何があったの?」 

 軽くキスをした後で美紀が武志に聞いた。 


「ああ、マキマキが襲われたんだ、今朝」


「あなたが居たのに?」


「いや、マキマキは俺達が彼女の家に着く前に家を出たらしい」


「ふーん、それは変ね」


「ああ変だ」


「マキちゃん大丈夫なの?」


「いや、わからねえ」

 奥野武志は天井を見上げた。


「おい、美紀、ちょっと来い」

 美紀を抱えて悶々とした奥野武志は教室から出て行った。


「ヒュウヒュウ、お熱い事で」

 奥野武志と美紀が教室を出て行くのを見ていたキャップが言った。

 そういうキャップの腕にはメガネが抱かれている。


「ねえ、なんでマキは家を先に出たのかしら?」

 メガネが言った。


「さあねえ。けど、何か訳があったんだろうね。誰かと会う約束があったとかね。恋人とかね。変な話ではなく、恋の話ってね」

 キャップがそう言った後で二人は同じクラスの男子の高木の方を見た。

 高木は青い顔をしてマサカズと加藤の話を聞いていた。


「そしたら、マキマキがブワッと俺の背中に血を吐いたんだよ。俺の襟元から背中にダラーっと血が入ってきて、これだよ」

 そう言ったマサカズの白いシャツの背中は血で真っ赤に染まっている。


「それで、マキは、マキはどうなった」

 高木は泣きそうな顔でマサカズに聞いた。


「救急車で病院に運ばれて行ったよ」

 マサカズが言うと高木は泣き出した。

 それを見てマサカズと加藤は顔を見合わせた。


「まあ、椅子に座れ高木。な。落ち着け。まだ死んだってわけじゃないんだから。ほら、放課後にみんなで病院に行ってみようぜ。大丈夫だって」

 マサカズは高木をなだめて椅子に座らせた。

 うつむいて涙を流す高木。

 マサカズと加藤はマキマキが吐いた血の量を思い出して天を仰ぐ。

 駄目かもな。


 とぼとぼと奥野武志と美紀が教室に戻ってきた。

 奥野武志と美紀はそれぞれ自分の席の椅子に座る。

 美紀はちょっと機嫌が悪そうだ。


「どうした?」

 キャップが奥野武志に言った。


「風紀委員に指導された」

 武志はそう言って頭をかいた。

 

 やりたい盛りである。

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