ハイチュー馬超4   

この辺にも異聞があるっす。

まぁ……話半分に聞いてほしい

感じなんっすけどね。


典略てんりゃくに載ってるところじゃ、

劉備りゅうび馬超ばちょうが来たことを知ると


「これで蜀は取れちまったよ!」


って喜んだそうなんすね。

で、いったん馬超を

目立たないとこに引き留め、

そこに軍備その他を支給、

ひとかどの部隊にしてから、

成都せいとの北に進軍させたそうっす。


そりゃ成都の人間もビビりますよね。

何の前触れもなしにいきなりあの馬超が、

しかも劉備軍として出現すんですもん。


成都陥落、馬超到着から

十日もしなかったそうっすよ。



あと山陽公載記さんようこうさいきにも

エピソードは載ってるっすね。


馬超、劉備からの歓待が

あんまりにも豪華だったもんだから、

しばらく劉備のこと「玄徳げんとくどの」って

呼んでたみたいなんすね。


ただ、普通主君に対しては主上だとか、

あるいは官位呼びをするもん。

この礼儀知らずに関羽かんうが激怒したっす。


「主上! この不届き者を殺したくそうろう!」


そう関羽が叫んだので、劉備、

慌ててなだめにかかったっす。


「おいおい羽、ちょい待てや。

 お前な、追い詰められたやつが、

 助けを求めてきてんだぞ。


 そういう奴が俺のこと

 あざな呼ばわりしたから

 お前らが怒ってぶっ殺しました……

 なんて、どうお天道さまに

 申し開きすんだ?」


すると、傍らにいた張飛ちょうひが言ったっす。


「あー、わかったわかった。

 じゃああれだろ、馬っころにゃ

 身をもって礼儀ってもんを

 示してやりゃあ、いい」


どの口で礼儀とか言ってんだよ

お前って感じっすよね。

あーすいません、うっかりうっかり。


ともあれ次の日の集会で、

劉備、敢えて馬超を

後から入場させました。


すると劉備の隣に関羽と張飛が、

剣を掲げて突っ立ってます。


は?!


馬超、二人の席を見ました。空席。

つまり「馬超が入ってくるから」

二人は劉備の側で武装して

待機したわけです。


きっちり劉備を「敬ってる」と

態度に出さないとまずい、

そう判断した馬超、以降は劉備を

尊称で呼んだそうっす。


またその翌日に語ってます。


「俺は、遂に敗北を知ってしまった。


 あそこでまた軽々しく玄徳どの、

 とか呼んでいたら、

 あっという間に関羽と張飛に

 殺されていただろうな」



……ってことなんですけど、

ことなんです、けーどーー!


すんません。まず言わせてください。

山陽公載記、つまり献帝けんてい周辺の

事跡を取り扱った、この本を書いたのは

袁暐えんい樂資がくしって奴らなんですが。


バカっすかね? バカなんすかね?


そもそもにしてですよ。

この段階で馬超、

劉備から爵位を得てるんです。

つまり誰が主君かはっきりしてます。

なのにあざなで呼んでたとか?

いやぁ……いやぁああああああ……。

どんだけ度を越した

傲慢さなんすかそれ。


ついでに、関羽伝思い出してください。

馬超が蜀入りした時、

関羽は荊州から動けません。

動けばあっという間に、から

攻め立てられますからね。

だから手紙でしか聞けなかったんです。

「えっ馬超とか大丈夫?」

って、諸葛亮しょかつりょうに。

そんなひとが、どうすりゃ

張飛と一緒に侍れるんです?


大体においてですよ、

人のやることなんて

やって大丈夫だからやるもんでしょう。

大丈夫じゃないならやんないです。

仮に馬超があざな呼びしてたとしても、

そこには呼べるだけの理由があった、

って考えるのが普通です。


あーもう、それに、ツッコむだけ

バカバカしいんすけどね、

関羽が馬超のこと殺したがってんの、

馬超は知らなかったわけでしょう?

ならどうして「あざな呼びのせいで」

殺されかけてた、って

馬超が悟れるんですか。


あんまりにもテキトー過ぎます。

もう読んでて腹が立って腹が立って。


袁暐とか樂資、取材が雑。

くっだらねーゴシップに釣られ過ぎ。

この手のことに喜々として

飛びついてくよーな奴らに、

つける薬なんかないっすね。




典略曰:備聞超至,喜曰:「我得益州矣。」乃使人止超,而潛以兵資之。超到,令引軍屯城北,超至未一旬而成都潰。

山陽公載記曰:超因見備待之厚,與備言,常呼備字,關羽怒,請殺之。備曰:「人窮來歸我,卿等怒,以呼我字故而殺之,何以示於天下也!」張飛曰:「如是,當示之以禮。」明日大會,請超入,羽、飛並杖刀立直,超顧坐席,不見羽、飛,見其直也,乃大驚,遂一不復呼備字。明日歎曰:「我今乃知其所以敗。為呼人主字,幾為關羽、張飛所殺。」自後乃尊事備。

臣松之按以為超以窮歸備,受其爵位,何容傲慢而呼備字?且備之入蜀,留關羽鎮荊州,羽未嘗在益土也。故羽聞馬超歸降,以書問諸葛亮「超人才可誰比類」,不得如書所雲。羽焉得與張飛立直乎?凡人行事,皆謂其可也,知其不可,則不行之矣。超若果呼備字,亦謂於理宜爾也。就令羽請殺超,超不應聞,但見二子立直,何由便知以呼字之故,雲幾為關、張所殺乎?言不經理,深可忿疾也。袁暐、樂資等諸所記載,穢雜虛謬,若此之類,殆不可勝言也。


典略は曰く:備の超の至れるを聞くに、喜びて曰く:「我れ、益州を得たりたるなり」と。乃ち人をして超を止まらしめ、潛かに以て之に兵を資す。超の到れるに、軍を引かしめ城北に屯せしむらば、超の至りて未だ一旬たらずして、成都は潰す。

山陽公載記は曰く:超は因見備の待せるの厚きを見たるに因り、備と言せるに、常に備を字にて呼びたれば、關羽は怒り、之を殺さんことを請う。備は曰く:「人の窮まりて我に歸り來たれり。卿らが怒り、以て我が字を呼びたるが故に之を殺さんとせるを、何をか以て天下に示さんや!」と。張飛は曰く:「如是くの如きなれば、當に之を示して以て禮となさん」と。明くる日の大會にて、超に請うて入らしむらば、羽、飛は並びて刀を杖し立直し、超は坐席を顧み、羽、飛を見ずして、其の直なりたるを見、乃ち大いに驚き、遂にして一にも復た備が字を呼ばず。明くる日に歎じて曰く:「我れ今、乃ち其の所以て敗れたる所と知る。人主が字を呼びたるを為さば、幾ばくにして關羽、張飛に殺さるる所と為らん」と。自ら後にては乃ち備を尊びて事う。

臣松之、按ずるに以えらく、為超の窮せるを以て備に歸したるを為し、其の爵位を受けたらば、何ぞ傲慢たるを容れ備が字を呼ばんか? 且つ備の蜀に入れるに、關羽を留め荊州に鎮せしむらば、羽は未だ嘗て益土に在らざりたるなり。故にて羽は馬超の歸降せるを聞き、書を以て諸葛亮に「超が人才の誰に比類さるべしや?」と問いたるれば、書の雲いたる所は如りたるを得ず。羽は焉んぞ張飛と立直せるを得んか? 凡そ人の行いたる事、皆な其の可なるを謂えど、其の不可なるを知らば、則ち之は行わらざりたるなり。超の若し果たして備が字を呼ぶらば、亦た理にては宜しく爾るたりなりと謂わんか。就きて羽をして超を殺さんと請わしむるに、超の聞きたるに應ぜざるは、但だ二子の立直せるを見、何の由にてか便ち以て字を呼びたるの故と知りたるや、幾ばくにして關、張の殺さるるところと雲わんか? 言は理を經ず、深く忿疾せるべきなり。袁暐、樂資ら諸もろの記載せる所は、穢雜虛謬,此の類が若し。殆ぼ言に勝たざるべきなり。




いやいや裴松之さん……

ゴシップって「そうなってほしい」

類の代物だしさ。


山陽公、魏に庇護される立場の

劉協周りの人間たちとしてみれば、

長安なんて目と鼻の先脅かしてきた

馬超に、蜀と仲良くなんて

されたくない……って思うのは、

実に自然な願いじゃないっすかね?


むしろその辺のゴシップを

残してくれてたことに感謝しようよw


「ムカつく」とか書いてないでさぁw

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る