第19話

 暫く豆乳を飲んでくつろいでいると、由香里の携帯が鳴った。


「もしもし、山本さんそんなに焦ってどうかしたの、はいいいわよちょっと待って。

「あなた、山本さんが話があるそうよ、慌ててるわスピーカー通話にするわね」

「俺ですどうしました?」

「それがですね、島村組の組長から電話が入りまして、お前らが緋村の相棒を雇ったのかとか喚いてまして、現場でもわしの土地を返せって作業員に突っかかったらしいです。なんとかなりませんか?」

「ああ、それは俺のせいです、被害が出ないように今日一日だけ事務所を休みに出来ませんか? 俺がなんとかします」

「わかりました一日だけでいいんですか?」

「はい、今日中に片付けます」

「社長もよろしいですか?」

「ええ、構わないわガラスを割られると嫌だからシャッターも締めて帰って頂戴」

「ありがとうございます、では荒木さんよろしくお願いします」


 電話を切った。


「やれやれだ、ヒステリー爺さんに電話するか」


 江口の携帯で島村に電話する。すぐに応答があった。


「俺だ、いろんなとこでヒステリー起こして騒ぐな」

「誰が契約書を偽造していつ入れ替えたんだ金庫の番号はわししか知らんはずだ」


 息を切らしながら騒いでいる。


「偽造して入れ替えたのはあんたのとこの組員だ」

「山中か? 斎藤か?」

「答える必要はない、お前は年寄りだから見逃してやろうと思ったが気が変わった、近い内に山中や江口の様にしてやろう、その日まで怯えて暮らせ

「待て、わかった。もう手を引くわずかな老後を過ごさせてくれ」

「もう手遅れだ、姫野不動産や現場の作業員みたいな一般人に迷惑をかけるじじいは許さない」

「金ならやる、いくら用意すれば見逃してくれる?」

「生憎だが金なら使い切れないほど持っている、はした金に興味はない」

「ならなにがいい? 何でもするから助けてくれ」

「言っただろ、気が変わったと」

「そこを何とか」

「ひつこいね、これ以上あんたと話しても時間の無駄だ。切るぞ」


 一方的に電話を切った、電源も落とす。


「面倒だが、今から爺さんを黙らせに行く」

「今から?」

「ああ、すぐ戻るよ。晩飯は久しぶりにレストランに行こう、待っててくれ」

「わかったわ、いってらっしゃい」


 すぐに車に乗り島村の家に向かった。少し離れた場所に車を止めて歩いて行く。入り口の門は開いていたので勝手に入る、庭の方から掛け声がするので覗くと日本刀を振り回している島村がいた。


「頑張って何をしてるんだい?」


 ビクリとしてこっちを見る。


「誰だ、勝手に入ってくるな」

「おいおい、俺の声を忘れたのか? ボケるには早いんじゃないか?」

「お前は、電話の」

「そうだ、俺だ」


 日本刀を大きく振り上げ襲ってくる、軽く避けた。刀を振り回すというより刀に振り回されている感じだ。片手で十分だろう左手をポケットに入れ右手で来いと合図する。刀を振り上げた瞬間に一気に間を詰め右フックを入れる。骨が何本か折れる感触があった。


 数メートルぶっ飛んで倒れ痙攣している、


 紐で両手足を縛り上げ頬を叩くと目を覚ました。体は小刻みに震えている。


「肋骨が何本か折れた、もう気が済んだだろう、見逃してくれ」

「緋村を江口に殺させたのも姫野不動産の親父さんを殺させたのもあんたの指示だろ?」

「仕方がなかった」


 顎にパンチを打ち始める。三十分で泣き始め失禁した、脆すぎる。またパンチを打っていく、三十分で血の涙を流し始めるブツブツ呟いている耳を近づけた。


「ブーンブーンお空は広いよブーンブーン」


 もう壊れてしまった、呆気ない。とりあえずとどめを刺す、顔を見られているからだ。


 パンチを打ち始めて十分で鼻血が吹き出した。早く帰ってレストランに行かないといけない。門から顔を出し誰もいないのを確認し車まで歩いて行く。


「緋村、仇も討ってやったぞ」


 呟いて車に乗り込みマンションに戻った。


「あら、早かったのね。あと二時間くらい待つのかと思ってたところよ」

「老人は脆すぎる、あっけなかったよ。これで事件は全て終わった。お前からの依頼もこれで終わった」

「そうねありがとう。報酬どうしましょ?」

「もう貰ってる」

「どういう事?」

「由香里と言う女を戴いた」

「キザな言い方ね」

「そうか? ともかくお前は俺の物だ」

「そうよ」

「それが報酬だ」

「わかったわ」

「じゃあレストランに行こうか」

「行きましょ」


 二人肩を並べて歩いて行った。

 レストランに入った。依頼完了の記念日だが言わなかった。カルボナーラとグラタンとガーリックライスを頼む、由香里も同じものを頼んだ。


「記念日なのに言わなかったのね」

「ああ、そんな気分じゃなかったからな」

「まあいいわ、明日にでも会社を辞めるわ、連れて行って」

「いいぞ」

「これで多少なら一人で出掛けても大丈夫かしら?」

「近所ならいいだろう」

「よかったわ」


 料理が運ばれて来る、頼んでなかったが特製ダレも付いてきた。料理に均等に入れて食べた。会計を頼んだ時に特製ダレの作り方を聞いてみた、新鮮なおろしにんにくと卵と唐辛子と自然薯だった、匂いを消すのにレモン汁を入れてるそうだ。ありがとうといい店を出た。


「特製ダレの素材は一緒だったわね、何が違うのかしら?」

「ああいう店だ超新鮮なのを仕入れてるんだろう」

「そうかもね」

「俺は昨日と今日の昼に食ったお前のスタミナ丼の方が好きだな」

「ありがとう、食べたくなったら何時でも作るわ」


 家に帰ると豆乳を飲みおかわりを持ってリビングに行き床に座ったノートパソコンを開き調べておいた緋村沙知代の口座に一億円振り込み沙知代に電話した。


「もしもし、荒木です。亡くなった緋村の仇は俺が討ちましたよ、依頼の成功報酬を沙知代さんの口座に振り込んだので明日にでも見ておいて下さい。緋村もこれで成仏出来るんじゃないでしょうか。では失礼します」


 側で聞いていた由香里が聞いてくる。


「いくら振り込んだの?」

「一億円だけさ、保険金も貰ってるから息子と二人暮らしていくには十分だろ」

「そうね妥当な金額だと思うわ、命を賭けてくれたんですもの。それにしてもあなたちゃんと敬語使えるじゃないびっくりしたわ」

「社会人を十年経験してきたんだ、使えて当然だろう」

「まあいいわ、粗暴で荒っぽい事しか出来ないんじゃ私が困るから、普段はいつも通りでいいわ。普段のあなたの方が私は好きだし」

「山本さんに電話しとかなくていいのか?」

「忘れてたわ、すぐに掛けるわスピーカー通話にするからあなたからも伝えて頂戴」


 由香里が電話を始めた。


「もしもし、山本さん事件は全部片付いたわよ」

「そうですか、全部荒木さんが?」

「ああ、すぐに片付けたよ。島村不動産も島村組も潰したから安心してください」

「ありがとうございます、明日から通常営業に戻れますよ」

「山本さん、明日事務所に行くから社長交代の準備をして待ってて頂戴

「本当に私でいいんでしょうか?」

「構わないわ、それに私が会長でしょ?」

「是非お願いします」

「じゃあ明日はお願いね」

「はい、では失礼します」


 電話が切れた


「何だか長い一日だったわ、ゆっくり湯船に浸かりましょ」

「そうだな二日ぐらいシャワーだけだったもんな」

「じゃ入りましょ」

「そうしよう」


 湯船に浸かると疲れが抜けて行くような気分だった。

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