第17話

 駅前の土地に測量が入った、本格的に動くようだ、これが島村に伝わったらどうなるのかが気になった。島村が動くまで待機してる方がいいだろうが、被害が出てからでは駄目だ。やはり俺から動かなければいけないようだ、だがどうやって動けばいいのかで悩んでいる。いまや組と言っても組長の島村と江口だけだ。資金源も絶たれている。放っておいても潰れるのは時間の問題だが、緋村の仇を取っておかねばならない。


「何を難しい顔をしているの?」

「駅前の土地が動き出した、島村と江口が何かしだす前に潰しておこうか考えてたんだ」

「そう、でももう二人しかいない組でしょ、勝手に潰れるかもしれないわ」

「潰れるのはわかっているが、緋村の仇を取っておきたい」

「そうね、あなたに託されたんですもの、でも一人は拳銃を持っているんでしょ? あなたが危ないわ」

「それをどうするかも考えていた」

「絶対に死なないで、約束よ」

「わかった、約束しよう。早速今日から動く事にする」

「わかったわ」


 豆乳を飲み干し、着替える。

 午前十時だ。

「出掛ける、夕方まで戻らないつもりだ。飯は一人で食べてくれ」

「わかった、いってらっしゃい」


 車に乗り込み暫く考えたが、江口を見張ることにした。江口の家に向かう、海の近くの住宅街だが路上駐車している車は意外と多かった、好都合だ、玄関の見える場所に停車して、雑誌を読むフリをして様子を窺う。


 十三時、まだ江口は動かない。江口の車は駐車場に停まっているので家にいるはずだ。家族はいるのだろうか? 気になり緋村のカバンから抜き出して来た資料を読み返す、三十四歳独身と書いてあるが女を囲っている可能性もある。


 十四時に玄関が開いた江口が出てくる、車に乗り島村の家の方向に走り去った。車を降りて家に近づくチャイムを押してみるが反応はない、やはり一人の様だ家をぐるっと周ってみる家の裏のドアは鍵が掛かっていない、それを確認すると素早く車に戻った。十七時少し前に江口が帰ってくるコンビニ弁当を持っていた。それを確認すると俺もマンションに帰った。


「ただいま」

「おかえりなさい」

「とりあえずトイレに行かせてくれ」


 ずっと我慢していたのだ、やっとスッキリした。


「大丈夫だったの?」

「家を見張っていただけさ」

「それならいいわ」

「明日も同じ様に見張る」

「わかったわ」

「疲れて帰ってくるだろうと思ってスタミナ丼を用意してあるわ」

「ありがたい、食べさせてくれ。慣れてない事をすると疲れるからな」


 すぐに出てきた、豚の生姜焼きも付いてくる。自分で思ってたよりも疲れているみたいだ、大きな丼ぶりのスタミナ丼もすぐに食べ終わった。


「疲れが癒されたよ、ごちそうさま」


 リビングに移動しコーヒーを豆乳を飲む、そう言えば昼前から飲まず食わずでいたのだった。豆乳をおかわりする。


 江口が出掛ける時案外ラフな服装だった拳銃は家に隠してるのだろうか? 拳銃さえどうにかできればいいのだが、タバコを吸いながら考える、とりあえず明日も見張ってから考えよう。


「また考え事?」

「ああそうだ、早く何とかしないといけないからな」

「そうね、事件が早く片付いてあなたとのんびり暮らしたいわ」

「もうすぐだ、もうすぐ終わる」


 素早く風呂を終わらせ早めにベッドへ入った。由香里も同じくベッドへ入ってくる。


「俺に合わせなくてもいいんだぞ」

「私がしたいだけなの気にしないで」


 すぐに眠気が襲ってくる、体力が落ちてるのかもしれない。


 アラームで目が覚める、スタミナ丼のお陰で疲れは取れた。由香里も起きてくる。


「元気が戻ったみたいね」

「スタミナ丼が効いてるみたいだ、うちのメニュー入り確定だな」

「今夜も作りましょうか? 簡単だしあなたが元気になるなら何時でも作るわ」

「今夜も頼むよ、スタミナ成分を三分の一にしたとこを二分の一まで戻してみてくれないか?」

「いいわよ、とりあえず朝食を食べましょ」


 俺も一緒にキッチンへ行き豆乳を飲んだ。


 食事を終えるとリビングに行き十時過ぎまで雑誌を読んで過ごした。


 十一前に昨日と同じところに車を停める。


 毎日同じパターンなら今日忍び込もうかを考えた。やはり人の出入りはない。


 また十四時に江口が一人で出てきて車で出て行った。俺はすぐに車から降りて家の裏に周ったやはり鍵は開いている、指紋が残らないように薄い手袋をはめてドアを開けて中へ入る、帰ってくれば車の音で気付くだろう、拳銃を探し始める。手当たり次第調べるが見つからない諦めかけて俺ならどうするか考えた、俺なら枕の下に隠す。江口の寝室に入りベッドを調べるが出てこなかった腹が立って枕を殴ると違和感があった枕のチャックを開き中に手を入れる、固いものに触れたそっと抜き出した、小型の拳銃が出てきた。勘が当たった事に喜びを感じ拳銃を調べる、オートマの拳銃だった、仕組みがわからないので苦戦してやっとカートリッジを抜き出す拳銃の銃弾を一つ取り出し調べてみるが良くわからないので銃弾を全て取り出しキッチンで水をかけて湿らせた、緋村が言ってたことだが銃弾が濡れてると拳銃は撃っても役に立たないらしい、念のため工具箱から持って来たパテを拳銃の穴に詰めておいた金属用のパテだから大丈夫だろう。時間がないので素早くもとに戻した、他に拳銃はないはずだ。証拠を残してないかを確認して裏口から家を抜け出した。車まで戻ると手袋を外し、時計を見る十七時になるところだった。ちょうど江口の車も戻ってくる、危ないとこだった。ため息をつき車を出しマンションに帰った。


 家に帰るとすぐにトイレに駆け込んだ、用を足し、ようやくただいまと言った。


「あなた昨日よりも疲れた顔をしているわ」

「ああ、かなり気を使ったからな、飲み物をくれないか」


 出された豆乳を飲みタバコを吸っているとやっと落ち着いてきた。


「もう食事にする?」

「ああ、食べさせてもらうよ」

「今日はちょっとアレンジしてみたの」


 出されたスタミナ丼は茶色いご飯だった、それととんかつが出てきた。


 とんかつはいい肉を使ってるのか柔らかく食べやすい。丼ぶりにも手を付ける、チャーハンだった。


「どう?白いご飯をチャーハンにしてとろろは抜いて唐辛子を復活させてみたの」

「めちゃくちゃ美味いじゃないか、唐辛子もいい感じだし癖になりそうだ」

「よかったわ」

「このとんかつもいい肉なんだろ?」

「そうよ、やっぱりお肉は高いほど柔らかくて美味しいですもの」

「今日も美味かった疲れがぶっ飛ぶよ、ごちそうさま」


 リビングに移動してタバコに火を付ける。


「明日も監視をしに行くの?」

「いや、江口の監視は終わったが、島村か江口のどちらかを潰しにかかるかもしれん」

「拳銃が出てきたら危ないわ」

「拳銃はもう使い物にならないはずだ」

「どういう事?」


 俺は今日の事を話してやった。


「凄いじゃない、すぐに事件が終わりそうな気がするわ」

「簡単にいけばいいがな」

「相手が素手ならあなたに敵わないわよ」

「上には上がいる、どんな相手かわからないからな、気を付けて行動しないと痛い目に合うのはこっちだ」

「確かにそうだけど、私はあなたが勝つ方に賭けるわ」

「じゃあ江口から片付ける事にするよ」


 とは言ったもののどこへどうやって呼び寄せるかが問題だ。唯一の接点は山中の携帯だけだ。山中の携帯を取り出し電源を入れてみる、良かったバッテリーはまだ五十パーセントも残っている、江口と島村の携帯番号が入っているか確認する、二人共載っていた。携帯が解約されてないかも確認する、大丈夫だ時報に掛けたが繋がった。電源を切ってしまっておいた。


 明日、江口をどこかへ呼び出そう、そう決めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る