第8話
アラームで目が覚める、疲れは残っていない、いい感じだ。
由香里のロングヘアーを撫でる、ようやく目を覚ました。抱き付いて来るので抱き締め返した。
今朝はパンだった、ベーコンエッグと一緒に食べた。
「何時に出掛けるの?」
「十一時前かな、帰りはわからんからこの前みたいに待たずに昼飯食えよ」
「わかったわ」
「疲れて帰るかもしれないから、スタミナのつく晩飯を頼むよ」
「任せてちょうだい」
時間まで暇だったので、由香里の本棚から数冊の小説を取り出した。読み始めたが恋愛物ばかりだった、苦手な分野だ数ページ読み元に戻した。
そうこうしてる間に時間が過ぎていく、着替えて持っていく物を確認した。
「そろそろ行ってくる」
「気を付けてね、いってらっしゃい」
車に乗り込み島村不動産へ向かった。またいい場所に駐車出来た、中の様子を探る山中の姿も見て取れた。緊張はしていないが俺がやりすぎないようにしないといけない、殺人は駄目だ。
十二時、昼休憩に入りいつも通り女性事務員から昼食に出て行く。
十三時、山中は一人で出て来る、俺もすぐに車を降りぴったりと後を付ける。路地に入ったところで一気に間を詰め腰のひねりを入れた肘鉄を後頭部に叩き込んだ、倒れる前に両脇に手を入れ廃ビルに引き釣り込む。折りたたみ式のパイブ椅子に座らせ目隠しをし、両手を力任せに縛り上げたすぐに土気色に変わって行く、両足も縛り上げ椅子に固定させた倒れないように壁際に持っていく。体を探る、胸には社長代理山中とプレートをぶら下げていた。胸ポケットから携帯が出てきた、電源を切って没収する、小さなナイフも出てきた、右足にはベルトで固定した中型のナイフが出てきた。中型のナイフはテーブルに置いた。
気が付くまでタバコを吸った、証拠を残さないようにポケット灰皿に灰を落とす、身動ぎを始めたのでタバコを揉み消しポケットに仕舞う。
山中はキョロキョロして手足が動かない事に焦っている。
「誰かいるのか、助けてくれ」
「助けを呼んでも外には聞こえんよ」
「あんたは誰だ? どうしてこんな真似をするんだ?」
ひねりを入れた右フックを叩き込むと椅子ごと数メートルぶっ飛んだ、長井の言う通り力は要らなかった。椅子を起こし部屋のカドに引きずって行くこれなら簡単に倒れないだろう、山中はえづいている。落ち着くのを待った。
山中が脂汗を流し。
「どこの組の者だ? 俺が島村組の組員ってわかってるんだろうな?」
「わかっているさ、緋村って者だ」
唾を飲み込む音が聞こえた。
「緋村って探偵の緋村か? 死んだはずじゃなかったのか?」
「化けて仕返しに帰ってきた」
「どうするつもりだ」
「奪った契約書を返して貰おう」
「あれは組長が金庫に隠している、俺にはどうすることも出来ない」
顎を狙ってパンチを繰り返す三十分程続けた、かなり脳が揺れたはずだ。
靴下などに砂を入れ殴り続けると傷も残らない拷問が出来る、嘘がつけなくなり、更に続けると心が壊れ精神に異常をきたし気が狂い発狂する。緋村が言っていた事だ。パンチでもいいだろうと思った。
「止めてくれ、吐きそうだ」
今は殴っていない、殴られてる感触が残っているのだろう。
「殴らないでくれ、気がおかしくなりそうだ頼む」
「お前らはいつもあんな手口で契約書を手に入れるのか?」
「美味しそうな物件はたまにする」
また殴り始める、右手が疲れて来たので、左手で軽いジャブを顎に入れ続ける。泣き始めたが止めない、三十分殴り続け止める。
「契約書を返せ」
「姫野不動産に雇われたのか?」
「いや、緋村の仇を取ってるだけだ」
「本当に組長が持ってる、金庫の番号は知らない。本当だ悪かった許してくれ」
「緋村を殺したことに変わりはない」
「俺達、島村不動産は関わっていない」
「江口が殺ったのか?」
「そうだ、もう許しいてくれこの事は誰にも言わないからお願いだ」
右手でまた顎にパンチを入れだす、三十分程で山中が失禁した体が痙攣している。奇妙な叫び声を上げたと思ったらニヤけ出した。
「うへへ、俺は今宙に浮いてるのか? どっちが上かわからなくなった、ハハハ」
心が壊れだした、こいつはただの使い走りだ、これ以上情報は聞けないだろう。
「拳銃は何丁持っている?」
「へへ、お金がたくさん儲かった、へへ」
完全に壊れたみたいだ。そろそろ手首も足も限界なはずだ、確認した、手は倍程膨れ上がり、紫色に変色している。もう手遅れだ足も革靴が破れる程パンパンにふくれている、両手足が壊死している、もう病院に行っても切断されるだろう。
仕上げにパンチを顎に打ち続ける、血の涙を流し始めた、それでも止めないで打ち続けると一時間程で鼻血が吹き出した、汚れるのが嫌なので打つのを止めた。
声を掛けたが反応はない、息はしている死んではいない、外が暗くなり始めている。証拠を残さないように気を付け廃ビルを後にした、事務所の前で男が一人携帯を耳に当て困惑していた。素通りし車に乗り込み家に帰った。
「ただいま」
「おかえりなさい」
飛びついてくる。
「心配してたのよ」
「大丈夫だ、かなり疲れたがな」
「リクエストの精の付くもの用意してあるわよ、すぐに食べる?」
「先に何か飲ましてくれ、喉が乾いて仕方ない」
リビングのソファーに腰を下ろし、タバコを吸った。
豆乳が出てきた一口で飲み干すと更に注がれる。今度は少しずつ飲んだ。
やっと気分が落ち着いた、両方の拳を見るが傷一つない。
「今日の仕上げに入る、物音を立てずにじっとしておいてくれ」
「わかったわ」
ポケットから山中の携帯を取り出し、電源を入れる入った瞬間に着信音が鳴り響く、通話ボタンを押して耳に当てる。
「山中さん? やっと繋がった、どこにいるんです? 探し回りましたよ」
俺は沈黙を続けた。
「山中さん? もしもし? あんた山中さんじゃないな」
「気付くのが遅いな、斎藤。事務所の前で電話してたろ?」
「何で俺の名を? あんた山中さんをどうした? どこへやった? 殺したのか?」
「まだかろうじて生きている、手足の先は切断しなきゃいけないがな」
「島村組を舐めると痛い目に合うぞ」
「聞き飽きた陳腐な脅しだな、実際痛い目に合ってるのはどちらかな?」
「とりあえず山中さんの居場所を教えてくれないか? 話は今度だ」
「ヒントだ、いつもの定食屋、廃ビル」
斎藤が何か喋っていたが一方的に電話を切って電源を落とした。
「由香里、もう大丈夫だ飯を食わせてくれ」
「すぐに用意するわ、テーブルで待ってて」
まずおろしにんにくで表面が見えない程のステーキが運ばれて来る、次にまたにんにくやいろんな食材の入った丼飯が出てきた、生卵も二つ入っている。
「安心して無臭にんにくよ、匂いは残らないわ」
ステーキから食べる、俺好みの超レアだ、にんにくも残さず食べた。次に丼ぶりに手を付ける。複雑な味だが不味くはない、体が火照ってくる。唐辛子やしょうがにとろろもたっぷり入っているようだ。
完食した。栄養ドリンクでは味わえない様な体の底から力がみなぎるような感覚に襲われる。
「どう?」
「何か力が溢れ出す感覚だ」
「私も少し食べたけどまだ体が火照っているわ、今なら何でも出来そうな感じよ」
「俺も同じだ、我が家の特製スタミナ定食だな、また今度頼む」
「メニューを覚えておくわ」
リビングに移った、コーヒーと豆乳が運ばれて来る。
テレビを付けたがまだニュースにはなっていないみたいだ。テレビを消した、そろそろいい頃合いだろう。
由香里に静かにと言うジェスチャーを送り山中の携帯の電源を入れた。すぐに着信音が鳴る。
「俺だ」
「あんた何をしたんだ、何をどうすればあんなに狂ってしまうんだ、外傷はなかったが」
斎藤は泣いていた。
「どんな様子だ?」
「手首と足首から先は壊死していて切断を余儀なくされた、それと精神が崩壊してしまっている、家族の顔もわからないし、ブツブツ呟いていたかと思えば急に笑いだしたり奇声を上げたりしている、医者は死ぬほどの恐怖を味わったんだろう、もう一生元に戻る事はないと言っていた」
「次はお前がそうなる番だ、斎藤」
「俺が何をしたって言うんだ、何でもするから助けてくれ、あんな姿にはなりたくない、お願いだ」
「助かる方法が一つだけある」
「何だ、金以外なら何でも言ってくれ。俺にも大事な家族がいるんだ三人目の子供も生まれたばかりなんだ」
「知ったこっちゃない」
「助かる方法を言ってくれ」
「山中が盗んだ駅前の土地の契約書を返して貰おう、組長の家から取って来い」
「そんな無茶な事を、それしか助かる方法はないのか?」
「ああ、それが唯一助かる方法だ、二日待ってやる」
「三日にしてくれれば何とかなるかもしれない、三日待ってくれ」
「わかった、三日後に連絡する。それまで電源は入れないからな」
「あんた名前は?」
「緋村だ」
「死んだはずじゃ……」
「切るぞ」
電話を切って電源を落とした
「由香里、もう大丈夫だ」
「こっちが緊張したわ」
「後は今電話で話した斎藤が勝手に動いてくれる、それまで待とうじゃないか」
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