香りの記憶

美遊

第1話

春、まだ浅い季節、

微かな花の香りに、母の面影を感じられる。

今年も、母に逢えた…


薄紫に染まった白き小さな華々が、

固まる様に咲き、

ほんのり甘い香りを放つ花、沈丁花…


この花の香りと共に、

亡き母は、いつも玄関先で幼かった頃の私を、幾度も幾歳も見送り、迎えてくれた


『行ってきます…』


嫁ぐ日の朝、

その香りは、一段と華やぎ、母の温もりと涙と共に有った。



母は、この花の香りが大好きだと

幼い私によく話した。


『今年も、もうすぐ咲くネ…』

春、まだ浅い季節中で、私は亡き母に、話しかける。


『行ってきます』

『ただいま』


そして…

母が私を、見送り、迎えてくれた頃の様に

私が、幼き娘に言う。

幾度も幾歳も…


『行ってらっしゃい』

『お帰りなさい』


あの頃と少しも変わらない懐かしい同じ香りの中で

母と私が重ねてきた、同じ季節と時間が流れる。



『行って来ます…』


娘が嫁ぐ日の朝、

その香りは、再び華やぎ、私の涙と共に有った。


娘は、私の温もりと、

この華やいだ春、まだ浅い季節の中で、

微かな花の香りと、

私を、覚えていてくれるだろうか。

幾歳も、幾歳も…


春、まだ浅い季節、

もうすぐ、また母に逢える。

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香りの記憶 美遊 @myus

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