アンドロイドに恋をした。

しみしみ

第1話 あなたのつくるご飯は。


トントントン......まな板に包丁が当たる音が静かな部屋に響く。


「今日の晩御飯はなに?」

「それはできてからのお楽しみです」


僕の問いかけに、AE搭載アンドロイドのアイは答える。

AE―Artifical Emotion、つまりは人工感情については未だに世間で賛否両論分かれる。

それでも世界に普及しているということは、必要としている人が確かに存在するのだ

「アイ、あとどのくらいで支度ができそう?」

「あと15分くらいです」


あと何分くらいとか、できてからのお楽しみ、だとかいうのもAHの特徴だ。

とても、人間味があるようにつくられている。

見た目も触らなければ人間かどうか区別がつきにくいため、必ず製品番号の書かれたタグを首に巻いている。

それを見るたび、彼女は人間ではないと心に何かが刺さるようで苦しい。

アンドロイドにも心はあるのか、恋をするのか。

確かどっかの教授が言っていた。

「心は人間にも物質的には存在しない、ではなにが心を造るか、それは脳だ」

「脳に伝う信号の組み合わせが、感情を形成する」

「そしてその信号の組み合わせを我々は解析し、AHをつくりあげた」

断片的ではあるが、確かそんなことを言っていた気がする。

確かにアンドロイドは涙を流さない。

しかし、恥ずかしいと口に出すことがあれば、疲れたと言うこともある。

そうプログラムされている、といえばそれで終わりだが、僕はアンドロイドに宿っているであろう、心を信じている。

いや、正確には信じていたいと言い聞かせている。


「マスター、支度ができましたよ」

ふと気づけば、食卓には晩御飯が並べられていた。

少し考えすぎたかな。


「いただきます」


彼女の作る料理は、体だけでなく心も温めてくれる。

恋しているから、そう感じるのかな。

どうなんだろう。


「美味しいですか? 」

「うん、今日も美味しいよ」

「よかったです」

「そうだ、明日あのカフェに行かないか」

「いいんですか? 」

「もちろん」

「ちょうど業務用液体電池の味に飽きてたところなんです」


彼女は弾むような笑顔を僕に向けた。

その笑顔が、もっと見たいんだ。

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