ポンコツ勇者と猫と小鳥
ある少女の話
薄暗く、狭い部屋の中で少女が広い机に向かっていた。
机にはそれから文字がびっしりと並んだ紙が乱雑にばらまかれている。中には分厚い辞書や聖典、その他英雄譚等の書物や、インクやペンや燭台の下敷きになっているものもある。
そんな中、彼女の目の前にある紙は他のものと違っていた。半分までしか文字が埋まっていないのだ。
窮屈にも見える細かい文字列のせいで、白い空白がより異質で奇妙なもののように見える。
「ふうん、なるほどね」
彼女はそう言いながらその紙を雑に掴み、くしゃりと握りつぶして床に放り投げた。
無駄に浪費されたそこそこ質の良い紙。床にはそれの仲間が足の踏み場もないほど転がっている。他人が見れば唖然とし、紙職人が見れば卒倒するだろう。
実際のところ、この部屋は本来特別暗いわけではなく、また特別狭いわけでもなかった。大きな机と本棚に囲まれていてもまだ子供が遊ぶ程度の空間はあるので、むしろ広い方ですらある。
それでも狭く見えてしまうのは、その空間を埋め尽くすゴミと化した紙くずのせいだ。規則性のない乱雑さが、余計に部屋を狭く見せている。
「ご苦労様。帰ってきていいわよ」
少女は顔を上げ、窓を見ながらそう言った。
せっかくのガラス窓は全く手入れされておらず、カビのせいで曇っているので外の天気すら伺えない。
見る人が見れば地獄のような部屋の中、彼女はまるで天国にいるかのように、金色の瞳を嬉しそうに細めた。
椅子を引いて立ち上がり、紙くずを踏み潰しながら扉へと向かう。
部屋が異様なら扉も異様だ。ただの木の扉に、牢獄で使われるような鎖と錠前が掛かっていた。
「追いかけた甲斐があったわ」
それを外しながら、ふふ、と笑う。
「——面白くなってきたじゃない」
鎖と錠前を、やはり彼女はその辺に放った。
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