第14話黄色い線の内側まで下がってお待ち下さい②


大量の機械の起動音とともに電脳空間が形成されて行く。


観戦者は誰もいない、この勝負に賭ける人もいない。


そんな見る価値のない戦いが始まろうとしている。



Dクラスのみんなは電脳空間を形成する際に発せられる光によって目を閉じていたが、機械的なアナウンスで目を開く。


【電脳空間、タイプ地下鉄ホーム、通る電車にご注意下さい】


そんなアナウンスと共に見えて来たのは、良くある地下鉄のホームで、Dクラスの僕達はどうやらホームの一番端にいるようだ。


「駅の端か、なら相手も端にいることになるのか?」


佐々木がそう呟きながらエアガンの弾を装填する。


すると、和笑がいきなり声を上げる。


「栗原くんは直ぐにみんなに回復を掛けておいて!鼓矢さんと鈴木くんと高橋くんは前衛!後衛は佐々木くんと前田くんと栗原くん!それ以外は全員真ん中に行って!地味に多々間川さんは前よりで!直ぐに鈴木くんと高橋くんで索敵を!」


和笑の声でDクラスが直ぐに陣形を組む、


前に灰が大量に飛び、鼓矢は身構えて敵を待つ。


「このまま進むよ!」





剛はムカついていた、いや、憎んでいたの方が正しいのであろう。


強い兄がいて、いつもその兄と比べられ、いつの間にか自分より下の人を殴ってストレスを発散していた。


別に剛が可哀想という訳でもないし、最低だという訳でもない、ただ単純に馬鹿なやつだと周りからはそう思われていた。





ウガァァァ!!


ドォォォーーン!!


「「「「っ!?」」」」


いきなり聞こえて来た大声と、なにかが崩れた様な音と衝撃に相手の強大さを思い知らされる。


「い、居た!ここから25mほど先の売店の影になっているところあたり!曖昧だけど!」


鈴木の忠告にDクラス全員が唾を飲み込む。


ヒュォォォォ...


ガタンガタンガタン...


地下鉄の線路に電車が通る、その時に出る風によって剛の服が揺れ、一瞬だけ場所がわかる。


「あっ!あそこよ!もうあんなところに!」


清水が甲高い声を上げる。


「ちょっ、そんな大声出したら!」


瀬木が止めるももう遅い、こちらが気づいていることに気づかれてしまった。





剛が姿を見せる。


「まず私が行くわ、佐々木、援護頼むわよ」


「...わかった」


鼓矢さんが佐々木にそう伝え、鼓矢さんは剛に向かって走る。


「出てくるのは女だけかぁ!?はっ!どんだ腰抜けだな!Dクラスは!」


その大声に合わせて佐々木がエアガンを線路の方に向かって撃つ。


そのエアガンの弾はギュインと曲がり、剛の方向を向く。




鼓矢は適当な構えを取る。


「どんな能力かは知らんが俺のパワーを上回れるわけがねぇ!!」


そういうと、身体強化型の能力特有の模様が剛の右腕に浮かび上がり剛は右腕を振りかぶる。


「佐々木!行くよ!!」


「死ねぇい!!」


その言葉の直ぐ後、地下鉄のホームに爆音が響いた。


鼓矢は足の半分を自爆させた。


いつもよりも弱く、ほとんど威力もなく、人1人を飛び越えられるぐらいの高さまでしか上がらなかった。


しかしそれでいい、剛は爆発とほぼ同時に拳を放ったが爆発で避けられてその拳は当たらない。


ここで鼓矢は考えた。


リスクはあるが一撃大きなものを撃つか、リスクはないが、小規模なものを何発か放つか、一瞬だけ考えたが鼓矢はなんとなくで一撃必殺を選んだ。


キィィィィン...


甲高い音を立てながら剛にがっちり捕まる。


が、身体強化型の力に耐えきれず、線路の方へ投げ出されてしまう。


「あっ...」


そんなあっけない声と共に鼓矢の自爆は失敗に終わる。



佐々木が使うエアガンは、色々と改造が施されており普通の物と比べると15倍ぐらいまで強化されてある。


実際、その威力で人の体に当たるとおぞましい色に腫れるか1cmぐらいまで埋まると言うとても凶悪なものになっている。


しかし、そんな弾を...


「ん?なんだ?BB弾か?」


ほぼ、と言うより無傷で受けたのだ。


能力者になると基本的に身体能力などの向上が起こる。


例えば火を使う能力であれば火に耐性を持つ様になったりとその効果は色々であるのだが、効果が被りやすい身体強化型の殆どが防御力向上の効果を持っているのだ。


勿論能力学でそのぐらいは佐々木も分かっており、防がれつつも少しはダメージがあるかな?と思い打ったのだが結果はとても残念なものであった。


「う、嘘だろ?これでもチーム最高火力のうちの数人だぞ?」


そんなことを高橋が呟く、するとここでめんどくさそうに桐条が口を開く。


「もう最悪、栗原の毒をかけてずっと逃げればいいんじゃね?それか多々間川の特攻か」


「ちょっと!」


清水が止めに入るが、その言葉がいい終わる時にはもう多々間川は剛に向かって走り出して居た。




「うわぁぁぁぁ!!!」


そんな大声を上げわざと自分にヘイトを向かせる多々間川


勿論、そんな大声をスルーできるほどの精神力は今の剛には無く、チッと舌打ちをしながら足に力を入れて前にジャンプするようにギュインと前に行く。


勿論ほぼ無能力者と変わらない多々間川は反応出来るはずもなく


ただ無情に裏拳を肩に決められ、線路へ投げ飛ばされる。


その時の多々間川の表情は笑っており...


剛はいきなり黒い靄に包まれ、多々間川の飛ばされた方向と逆に吹っ飛ばされたのだ。


両者ともに線路に落ちる。


それに剛が落ちた所はさっき鼓矢が落ちた所、その隙を狙って自爆をする___


ことは無かった。


「っ!?」


剛が線路に落ちたと同時に左腕を能力で強化し、右側に寝返りを打つような形で思いっきり殴る。


その拳は電車を殴っていた。


グォォンっ!!


電車が脱線し、反作用で剛は吹き飛ばされホームの上に転がり込む


しかし電車はその程度では止まらずそのまま鼓矢は引かれてしまう。


グチャァ!と不快な音を立てる、その瞬間にピロンと言う機械音が鳴り、鼓矢の電脳空間での死を鮮明に伝える。


「ぐっ、任せろ!桐条!あれやるぞ!」


「分かった!」


橋本と桐条が互いに頷き合い、橋本が左手を前に構える。


「はぁぁぁぁ...」


「くそッ!」


剛の方もこちらが何かしようしているのを見てこっちに向かってくる。


「っ!派生能力!!『台無しwhite ink・black campus』!」


そう叫ぶと左手から超大量の灰が爆発のように飛び出す。


しかしその代償なのか、左腕に巻きつくように螺旋状の切り傷が出来ておりその場所から黒色の何かが垂れてきている、僕のスキルで徐々に止まってきてはいるが、


「んっ!?」


剛は驚き一歩下がる、直ぐに桐条が叫ぶ。


「全員さがれぇ!!」


その直後、


ドガァァァァン!!!


爆発が起こる。


「灰を使った粉塵爆発...成功してよかった、だけどまだ油断はできないッ...」


そう呟いた橋本の声を聞きながら煙が晴れるのを待つ。


するとこには、紫色のHPゲージが半分まで削れた光景だった。


その影響なのか剛の頭からは血が垂れている。


「てめーら、殺す...」


そう言うと、今まで青色だった身体強化系特有の模様が、紫色に変わる。


「こ、この土壇場で能力効果上昇!?」


その誰かわからない叫びは僕ら全員の心情を表していた。


剛は右手の人差し指を紫色で染め、高橋に向けて5mほど離れたところからを放つ。


その瞬間暴風が吹き荒れ、高橋の頭が変な方向にメシャッ!と言う嫌な音を出しながら曲がる。


「なっ...」


次の瞬間、僕達は紫色に染まった右腕のパンチの衝撃波で吹き飛ばされていた。


試合結果、勝者、Cクラス 剛



【試合が終了したため、電脳空間を削除します】





その音と共に僕らの視界に映るものはまだ見慣れない教室のものだった。


「全員、財布を俺に渡せ、いいな、全部だぞ?」


そんな言葉が僕らの耳に届く。


流石にあそこまで完膚なきまでに打ちのめされ逆らう奴は居ない。


全員が前のボロボロの教卓の上に財布を置く。


「...チッ」


剛は黙って財布の中身を確認すると舌打ちをしながらD棟を去っていった。


僕らは物凄いどんよりとした空気になりながら家に帰る準備をし始めた。


この間、僅か5分である。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る