第1話 〜一章〜MEVIUS BOX 8㎜ ショート

〜7年前〜


高3の夏。

皆んなが受験勉強に励むこの時期、そこそこの成績の俺は指定校推薦を狙ってた事もあり、ほとんど勉強なんかせずダラダラ過ごす毎日。

推薦を取れなかった事を考え、勉強はしなきゃいけないのだろうが、なんせここはまあまあなバカ高だ。そのせいで余裕すらある。


親に無理矢理登録された学校の補講の為に学校に来る夏休み。

だが、お決まりの使われていない部室でサボるという日課。

漫画見たいに屋上でサボるなんて事はまずない。現実、そんな青春は皆無なのだ。


我ながら一応学校に来るんだから偉いと思う。

なんだかんだ悪くなりきれない性分なのだ。


中途半端でカッコ悪いやつだと思う。自分が誰よりも良く分かっている。


親に反抗する勇気もない。

真面目に何かに打ち込む根性もない。

趣味とゆう趣味もない。


これがアイデンティティってやつなのか、誇れるものが何もない空っぽの自分に嫌気がさしつつそれでも何かを行動に移すこともできずにいたある日、腹が減ったので部室を出、裏門からコンビニに向かおうとした途中、学校から匂ってはいけない匂いがした...

気がした。


それがアイツとの出会いだ---


普段ならきっと気にも止めていなかっただろう。なんせ面倒事など専らごめんなのだ。

でも退屈な毎日に嫌気がさしていたのがピークだったのか、何かに吸い寄せられたのか、ただただ興味本位だったのか、、、そこにどんな人物がいるのかなんとなく気になったのだ。


匂いのする方に歩を進めると、部室棟脇階段のあたりから匂いがキツくなってきている事が分かった。

階段を登りきり部活用用具倉庫の前に立ち少し躊躇いながらドアを開ける。

そこには、、、---

ただ真っ暗で埃っぽい世界が広がっているだけだった。


どうやらここが匂いの元凶では無かったらしい。

ドアを開けるというのにちょっとした勇気を使った俺は小心者なのか、少々気疲れし、諦めてコンビニに向かおうかと思い階段を降りようとした。

その時、1人の人物を目の端に捉えた。


匂いの元を見つけたのだった。


彼女は階段の柵を越えたところにいた。

左足を立て、もう片方はあぐらをかくみたいにしながら座っていた。

左手には白い短い煙が出ている棒状のモノを持ちその腕は立ててある片足に置かれていた。


正面からみたらパンツが見えるだろうとそんな下世話な事を考えていたなんて口が裂けても言えないがそんな事を思った記憶がある。


現実世界にも青春の場所があるんだと少しロマンチックな事を思いながら、自然と足は階段の柵を越えていた。


そこは屋上とは違ってそこまで高いわけでも、広いわけでもなく、柵もない、端にいくと簡単に落ちてしまいそうなところだった。

それでも屋上でサボるなんて漫画の世界の話だけだと思っていたので、心が踊ったのは確かだ。


そんな気持ちを隠しながらゆっくり足音を立てないように近づき、彼女の後ろ姿に話しかける。


「それ見つかったらやばいんじゃねーの?」


彼女は驚いた様子もなく、ゆっくりと振り返り呟いた。


「なーんだ先生じゃないんだ。」


は?と思った。

そこは先生じゃなくて良かったと思うところではないのだろうか?

頭おかしいのか?

というのが彼女の第1印象だった。


大概の高校ではそうだろうが、学年カラーがある。今の3年の代は青色だ。彼女の踵を踏まれた上履きをチラッと確認し、質問する。


「君俺とタメだろ?今大事な時期なんだから気をつけた方がいいんじゃねえの?風のせいか下まで匂ってきたぜ」


「それは悪かった。でも別に止める気はないよ気づかれてもいいの。」(むしろ気づいて欲しいから。)


最後の方は風のせいでよく聞き取れなかったがむしろ気づいて欲しいって聞こえたような気がした。


喋り口調はところどころ男っぽく、でも見た目は可愛いかった。

髪を染めているわけでもなく、化粧が濃いわけでもない、こんなものを吸うようには見えない黒髪ロングの几帳面に揃えられた前髪を少し右に分けた普通の女の子だった。


だからこそ俺はそのギャップに凄く惹かれたのかもしれない。

初対面の相手に話しかける性格ではなかったはずだが、彼女とは話してみたくなった。


「隣座っていい?」


「臭いつくからやめときな」


これはやんわり断られたのだろうか?


いつもだったら素直に引くところだが何故かここを逃したらこの子とは一生話せなくなるような気がして食い下がる。


「全然気にしないから。なんなら一本頂戴」


「あんた吸わない人だろ?それにこんなもの吸うもんじゃない」


吸ってるやつが何を言ってんだと思いつつ、かっこつけたことを見破られて恥ずかしくなった。

それを誤魔化すように勝手に隣に座る事にした。


「止めた方が言ってるのに...」


彼女は横目でチラッと俺の動きを確認しながら言う。でもその口調は拒絶する様な雰囲気はなくどちらかというと楽しそうに聞こえた。

のは俺の自惚れだろうか。


「それいつから?」


「ん?タバコのこと?」


「そう」


「いつだったかな〜初めては高1かな?」


「そんな前からか。おいしいの?」


「質問攻めだな。」


彼女は微笑みながら、吸い終わったタバコを床に擦り合わせて消しながらその場に寝転んだ。


「こんないい場所があったんだな」


「そう思う?ここ本当にいい場所なんだよね」


彼女は本当に嬉しそうに話した。


「ここでボーッとしてるとさ、何にもない空っぽの自分を忘れられて落ち着くんだよね」


自分と同じような事を思っている彼女に俄然興味が湧いた。


自分も同じ様に寝転んで空を見上げる。


青い空を薄い雲が生暖かい風にのってかなりの速さで流れていく。

どれくらいそうしていただろうか。

彼女は立ち上がり、


「じゃあ私は行くね。」


と言い、俺の返事を待たずすっと軽い身のこなしで階段の柵を越え階段を降りて行ってしまった。


服に残るかすかなタバコの匂いを感じながらなんとも言えない気持ちが体中を支配した。


その気持ちにはっきり気づくのはもう少し後になってからの事だった。



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