よーするに

 王子が拍子抜けしたように、

「なんだかぁ、簡単に勝てちゃいそうだねぇ」

 しかし大魔王は、

「ふふふふふ。そうはいかん。貴様らの負けは決まっているのだ」

 姫騎士さんが、

「負け惜しみを」

 しかし わたしは、

「いえ、こーゆーセリフを言う場合、なにか策を残してあると考えた方が良いと思います」

 大魔王は、

「聖女の言うとおりだ。貴様らが来るのを指をくわえて待っていたわけではない。私の勝利を完全な物とするための作戦はすでに終了しているのだ。ただ、わたしは その起動を命じれば良いだけ」

「それはなんです?」

「世界の中心に巨大な塔を建てた」

 そういえば賢姫さまが報告していたような。

「それがどういう物なのか、教えてやろう。貴様らだけではない。世界中の人間どもにな」



 大魔王は世界中の上空に、自分の姿を写した。

「聞け、人間どもよ。貴様らに選択肢を与える。

 私に愛を捧げよ。私はこの世で最も美しく、そして最も強い存在。それ故に、全ての愛は私に捧げることが真の愛。真の愛に生きるか、それとも偽りの愛で死ぬかだ。

 世界の中心に巨大な塔を建設した。それは、私に愛を捧げた物は生存するが、私に愛を捧げることを拒んだ物は、死を与えるという効果を、世界中にもたらす。

 真の愛か、偽りの愛か。

 今、選ぶのだ」



 ……

 なんというか、

「ちょっと! なんですかそれ! よーするに自分を愛しろって強要してるだけじゃないですか!」

「だからなんだ!? 私を愛していない者に生きる価値などない!」

 この男!

 マジで言ってやがる!

「塔は起動させません! その前に貴方を倒します!」

「もう遅い。塔のカウントダウンは始まっている」

「なんですって!?」

「あと三分で塔は起動する。世界中の人間どもよ! さあ!選択するのだ! 私を愛するか!? 死を選ぶか!?」



 世界中の声が聞こえる。

「「「いやだぁあああー!!!」」」

「あんな 醜男 愛するなんて どーいう拷問だよ!?」

「好きになるわけ無いわよ! 気持ち悪い!」

「ありえねーだろ! ダメ人間丸出しじゃねーか!」

「愛されたいなら少しは健康に気を遣うでしょ!」

「正気じゃないわよ! あんなの愛するなんて!」

「殺せー! あんなのを愛するくらいなら いっそ殺せー!」

「あんなの愛するより死んだ方がマシだ!」

「死んでも好きになったりしないわ!」

「「「絶対嫌だぁあー!!!」」」



 世界中の人間が拒否していた。

 しかも人間だけではない。

 魔物たちの声も。



「冗談じゃねーぞ! 大魔王さまの正体あんなのだったのかよ!」

「あんなキモい奴に仕えてたのか俺は!」

「種族的にもありえねーくらいのキモさだろ!」



 魔物からも物凄い拒絶の声。



「「「塔を破壊しろー!!!」」」

 世界の中心の近くにいた魔物、そして人間。

 全てが一丸となって塔を攻撃し始めた。

 世界史上初めて、全ての人間と魔物が一つになり、同じ目的のために戦っていた。



 しかし大魔王は笑みを浮かべ、

「無駄だ。塔には私の魔力が込められている。貴様ら雑魚では破壊できん」

 わたしは大魔王に叫ぶ。

「このままでは世界が滅亡します! 人間だけではありません! 魔物です! 今すぐ塔を停止させてください!」

「停止などするものか! 私を愛さないならば 全員死んでしまえ!!」

 こいつ、マジで言ってやがる。



 世界中の人間と魔物が塔を破壊しようとしている。

 だけど、カウントダウンは進んで行くのに、塔は無傷。

「さあ、あと10秒だ」

 残り10秒で世界滅亡。



「9」

 塔は破壊できない。


「8」

 大魔王を倒しても意味は無い。


「7」

 逃げ場はない。


「6」

 生き残る者はいない。


「5」

 でも こいつに愛を捧げるなんて まっぴら。


「4」

 もうすぐ世界が終わる。


「3」

 残りわずか。


「2」

 あと一呼吸で。


「1」

 あと一瞬で。



 キュドン!



 終わった。



 世界が滅亡した。



 ……果たして、世界は本当に滅亡してしまったのか?



 悪友はお茶をすすり、

「うん、だから世界が滅んでないのは知ってる。わたしたち こうして生きてるし」

「そうなのよねー。結果が分かってるから、盛り上がらないのよねー。ここ、けっこうクライマックス的で普通なら盛り上がるところなのに」



 ホントに結果が分かってると盛り上がらない。

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