真の姿

 大魔王 秘密のお部屋を出たわたしたちは、大魔王のいる玉座の間へ到着した。

 しかし、いきなり正面に出ることはしなかった。

「みなさん、少しの間、待機していてください」

 わたしたちは物陰に隠れて、様子を伺う。

 大魔王は優雅にくつろいでいたが、腕時計を見ると、

「おっと、そろそろ時間か。聖女が来る前に飲んでおかなくては」

 と、部屋の脇に置いてあった瓶に手をかけようとした。

 そこにわたしは、

「姫騎士さん、あの瓶を破壊してください」

「わかった」

 姫騎士さんは光の矢で瓶を砕いた。

「なにっ!?」

 明らかに動揺する大魔王。

 そこにわたしたちは前に出る。

「待たせたわね、大魔王。二回戦目よ」

 大魔王は忌々しげに、

「おのれ、聖女め」



 こうして大魔王との戦いが始まったわけなんだけど、

「おかしいでござる。以前ほど強くないでござるよ」

「確かにそうだ。俺たちだけでも対等に戦える」

 兄貴と中隊長さんは、大魔王が弱くなっていることに、拍子抜けしているほどだった。

「ふふふ、やっぱり。これは大魔封陣の魔法の効果だけじゃないわ。さっき破壊した瓶の中に入っていた飲み物に秘密があるの」

 王子が、

「秘密ってなんだい?」

「まあ、もうしばらく待って見てください。アレの効果は長続きしないから、もうすぐ効果が切れるはず」



 なんて わたしたちがやっていた頃、魔兵将軍と精霊将軍VS隠密将軍と執事の戦いは、決着が付いた。

 執事の首が転がっており、隠密将軍は仮面は半分が破壊され、膝を付いて息切れしていた。

「まさか短期間でここまで強くなるとは」

 魔兵将軍は隠密将軍に語る。

「おまえの負けだ。そして おまえが負けたからには、大魔王も負ける」

 精霊将軍が怪訝に聞く。

「それはどういう意味だ? 隠密将軍が負けると、大魔王も負けるとは」

「隠密将軍と大魔王が、なぜ同じ顔なのか、その理由に僕は気付いている。聖女さまも気付いておられたようだが、ハッキリ言おう。

 大魔王の あの美貌は偽りだ。

 大魔王は変身薬を飲んでいるんだ」

 変身薬。

 魔法薬の一種で、別の人間の体の一部、例えば髪の毛や爪など、そう言った物を混ぜて飲むと、その人に変身できるという物。

 以前、オッサンが失われた少年時代を取り戻そうと使ったことがある、しょーもない薬だ。

 精霊将軍は変身薬と聞いて察しが付いた。

「つまり、大魔王は隠密将軍の姿に化けているだけだということか」

「そういうことだ」

「では、大魔王の本当の姿とは……」

 隠密将軍は歯ぎしりをしながら、

「その姿を、今頃 聖女たちは見ているだろう。そして恐怖するはずだ。大魔王さまの本来の姿に」



 そして、わたしたちのほうでは、大魔王が戦いのさなかに苦しそうにうめき声を上げ始めた。

「うぐぐぐ……」

 姫騎士さんが、

「なんだ? なにが起こっている?」

「みなさん、見てください。大魔王が本当の姿になります」

 わたしは大雑把に変身薬について説明した。

 兄貴は、

「つまり、大魔王は隠密将軍に変身していただけでござるか」

 王子が、

「ってことはぁ、大魔王の姿はぁ……」



 大魔王の真の姿。

 それは、七つの龍の玉を集めるマンガに登場した、ドドリアとザーボン第二形態を足して二で割らなかったような姿。

 百五十キロは超えていそうな ぶくぶくの脂肪に、皮膚はガマガエルのよう。

 それも種族的な問題ではなく、たんなるニキビの類い。

 よーするにデブなぶ男。

 っていうか予想以上に気持ち悪い。

 大魔王は怒りを押し殺した表情で、

「おのれ、よくも私の本当の姿を見たな」

「予想以上に気持ち悪かったです」

「黙れ!」

「でも、それ どー考えても自業自得でしょう。貴方の秘密の部屋 見ましたよ。あんな体に悪いジャンクフードばっかり食べていれば、そうなります」

 そう、大魔王は生まれつきだとか、種族的な問題ではなく、不摂生がたたって化け物みたいな体になっただけ。

「黙れ! 私は我慢するのが嫌いなのだ! 好きな物を好きなだけ食べて何が悪い!?」

「それは貴方の勝手ですけど、でも不健康になるのは自覚しないと」

「くそう! 貴様ら皆殺しにしてくれる!」

 とか言って戦おうとしているけど、デブな体ではまともに動くのも大変。

 中隊長さんと兄貴に殴られて、

「ブヒィッ!!」

 吹っ飛んだ。



 なんだか しょーもない秘密が明かされて続く……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る