ヤムチャする

 闘いが始まったわけなんだけど、非戦闘要員である わたしは みんなの邪魔にならないように、隅っこで体育座りでポツーン。

 でもって 隣にオッサンもポツーン。

「なんていうか、わたしたち 相変わらず戦闘に入ると疎外感 半端ないですよね」

 雷光破裂ライトニングバースト

「そうですね。みなさん活躍できて うらやましいです」

 竜斬破ドラゴンブレイブ

「オッサン、すごい魔法 憶えたんじゃありませんでしたっけ。それ使ったらどうです。活躍できますよ」

 光羽刃!

「いやぁ、竜鬼って人ですね、魔法を跳ね返す盾を持ってるじゃないですか。あれがどうもですね」

 電磁誘導弾レールガン

「ああ、跳ね返されちゃうと、こっちが危ないんですね」

 風神召喚!

「っていうか、消滅しちゃいますです」

 五鬼合力破!

「え! そんなヤバイ魔法なんですか?!」

 ドドドォーン!

「自分でも怖すぎて使えないです」



 なんてオッサンと話していた わたしのほうは盛り下がりまくりだったけど、みんなの闘いは盛り上がりまくりだった。

 やることがないので簡単に解説を。



 中隊長さんVS竜鬼。

 竜鬼は名前からして分かるように、中隊長さんと同じく、竜神の力を持っている。

 なんか魔法を跳ね返す盾を持っている。

 竜鬼は盾を構えて、

「ふむ、こちらと戦ったのはあまり得策ではなかったか。竜戦士は魔法があまり得意ではないのだな」

 しかし魔法での牽制ができないので、中隊長さんは剣を命中させることが出来ないでいる。

「クッ! あの盾さえなければ とうに倒せているはずなのに」

 どうにも魔法反射の盾が邪魔のようで、中隊長さんは思うように戦えていない。



 勇者VS獣鬼

 獣鬼は兄貴と同じ獣神の力を持っている。

 だけど全体的に兄貴より獣鬼のほうがパワーが上のようだ。

「へっ。魔王様を倒したことがあると言うから戦ってみたが、聖女の仲間の中じゃ一番パワーが弱いようだな」

「初めは拙者が一番強かったはずなのに、このままではヤムチャするになってしまうでござる。どうすればよいものか」

 危機感を持ち始めた兄貴。



 精霊将軍VS魔鬼

 こちらは魔神の力。

「さすがは将軍の一人。なかなかの手練れですね」

 丁寧な話し方をする魔鬼。

 しかしその闘いは熾烈を極め、もの凄い魔法を連続で放ち、精霊将軍を攻撃している。

「なんという威力だ。破邪の力を宿しているだけのことはある」

 魔鬼は闘いの経験が浅いおかげで、経験の多い精霊将軍は攻撃を読めているみたいだけど、その威力は一撃でも喰らったら終わりだ。



 姫騎士VS戦鬼

 巨体の戦鬼は、姫騎士さんと同じ戦神の力。

「オオオッ!」

 その巨体で小柄な姫騎士さんを圧倒している。

「巨大な男が小柄な男を組み伏して 無理矢理は 定番で 五体の造魔が仲間同士で グフフフ……」

 こんな時だというのに妄想を膨らませている腐った姫騎士さん。



 魔兵将軍VS闘鬼

 魔兵将くんと同じく、闘神の力を持っている闘鬼は二本の剣を繰り出している。

「炉歩徒がなければ戦えないと聞いていたが、そうでもないようだな。この力は炉歩徒だけではない」

「くっ、その剣、特殊な魔法を施しているな」

 かすっただけで炉歩徒の装甲に亀裂が入る。



 さて、みんな同じ力を持っている者同士で戦っているんだけど、なんというか全体的にこちら側が押されている感じだ。

 これ、なんとかしないと負けるかも。

 なにかいい方法はないか……

 あ、そうだ。

「オッサン、精霊将軍と最初に会ったときのこと 憶えていますか」

「憶えてますですけど」

「あれをやりましょう」

 わたしはオッサンに簡単に作戦を伝えた。

「なるほど。わかりましたです」

 わたしはみんなに大声で叫んだ。

「みなさん! 目を閉じて 耳を塞いで!」

 みんなは迷わずにわたしの指示に従い、目を閉じて耳を塞いだ。

 そしてオッサンは魔法を使った。



 バパパンッ!パパンッ!バババッ!パンッ!ババンッ!パパパッ!バンッ!パバッ!バパンッ!パバパンッ!バパバッ!バンッ!



 無数の破裂音と無数の閃光が五鬼の周囲で発生した。

「グオッ!」

「ヌゥッ!」

「ガァッ!」

「ウォッ!」

「アァッ!」

 やった!

 まともに見て聞いてしまっている。

 あれなら目と耳が当分機能しない。

「オッサン! 今です!」

「わ! わかりましたです!」

 オッサンは究極破壊魔法を発動させた。

時空破壊スペースタイムディストラクション!」

 時間と空間を破壊する魔法。

 物質に作用するのではなく、時間と空間に作用する。

 時間と空間が破壊されれば、その中に存在する物質も巻き添えになって破壊される。

 どんなに防御力が強固でも、時間と空間ごと破壊されれば意味はない。

 ズドドドドドォーン!

 とてつもない轟音が響き渡り、そして魔法の余韻が消えたとき、五体の造魔の姿はなかった。

「やった!」

 完全に仕留めた!

 勝利ビクトリー



 と、思いきや、なんか粉塵が晴れると少し離れたところに造魔たちの姿が。

「いつの間にあんなところに?!」

 それに目と耳が効かない状態でどうやって?

 その答えは六人目だった。

 もう一人現れた造魔の姿に私は叫ぶ。

「魔王!」

 魔王が五鬼を助けたのね。

 その魔王は悠然とわたしたちに言った。

「聖女たちよ。おまえたちをここで倒すのは俺の本意ではない。それに大魔王さまも、おまえたちが来るのを大魔宮殿で待っている。

 ここに俺の兄弟である五鬼を差し向けたのは、ザコをふるい落とすためだ。

 大魔宮殿は大魔王様の聖域。それを力なき者が汚すことは許されない。大魔宮殿に立ち入ることが出来るのは、強き者だけだ。

 今、倒れている者たちに大魔宮殿に入る資格はない。

 そして、立っているおまえたちだけが大魔宮殿へ迎え入れられる。

 いいな。俺たち、そして大魔王様は、大魔宮殿でおまえたちが来るのを待っている」

 そして魔王が空間移動の魔法を使うと、魔王と五体の造魔の姿が消えた。



 魔王たちが去って行った後、わたしたちは城の兵士達を呼び、けが人の治療などに当たった。

 大魔宮殿への出撃部隊で残ったのは、わたしたち たったの七人。

 こんな少人数で出撃しなくてはならなくなった。

 って言うか、なんか話が どんどんシリアスになっていくんだけど。

 このままじゃ命の危険が。

 ヤバイ。

 死にたくない。

 どうする?

 どうすりゃいい?



「どうすればいいのー!?」

 わたしが立ち上がって叫ぶと悪友が、

「うっさい。闘いも終わって、大魔王も倒して、あんたも生き残ってるでしょ」

 わたしは静かに座ると、

「まあ、そうなんだけどね。っていうか、この話 終わった後だから、ホントどうやっても盛り上がらないわね」



 全然 盛り上がらないですね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る