チョー 久し振りぃー

 出撃の朝を迎えた。

 大魔宮殿へ出撃するメンバーの簡単な紹介をしよう。

 まず聖女であるわたし。

 竜戦士の中隊長さん。

 勇者をやってる童貞オタク兄貴。

 戦乙女の姫騎士さん。

 聖闘士となった魔兵将くん。

 精霊将軍。



 そして他のメンバー。

「「お嬢さま。お久しぶりです」」

 故郷の国でわたしの護衛をしていた、ツインメスゴリラ。

「お嬢様、ザコ散らしなら私たちどもにお任せくださいませ」

「お嬢様の勝利の道、私たちどもが斬り開いて見せましょう」

 相変わらず頼もしい。

 惚れ惚れするほど男らしい女性だ。



 姫騎士さんの国から、元女騎士隊長。

 出番が少ないから憶えてないかもしれないけど、姫騎士さんの剣の師匠で、わたしたちが出会った時に、姫騎士さんが疎開していた下宿の人だ。

「久し振りだね、姫騎士さま。あたしも参戦させて貰うよ。久し振りに大暴れさせて貰うからね」

 姫騎士さんも嬉しそうで、

「隊長が来てくれて心強い」



 南の国からは、武闘大会での決勝トーナメントのメンバー。

 聖騎士。

 闇騎士。

 魔術師。

 武道家。

 格闘家。

 大力士。

 鞭打使。

 南の王さまが嬉しそうに、

「この者達を正式に騎士に取り立てましてな、この戦いが初陣というわけです。

 皆の者、期待しておるぞ」

 と八人に期待をかけていた。



 他の国からも様々な人たちが集まっていた。

 北の国からは魔法戦士隊。

 軍事大国からは銃士隊。

 東の国からは武術の達人たち。

 聖王国からは白魔法に長けた人たち。

 大魔王との決戦を前に、強い人たちが集まり、わたしは喜んだ。

 いやー、これなら私が戦う羽目になることなんてないでしょ。

 作戦、命を大事に。



 なんて安心していると、問題が発生した。

 わたしたちの国の王さまが、物凄い言いにくそうに わたしたちに紹介したのだ。

「じ、じつは、こやつがどうしても参戦したいと言ってきてな」

 そして登場した人物にわたしは目を丸くした。

「ハァーイ。キミたちぃ、チョー 久し振りぃー。ボクちゃんさまが参戦したからには、ヨユーで大魔王なんか バシッとやっつけちゃうからねー。イェーイ」

 と 脳天気に そう言ったのは 王子 だった。

 繰り返そう。

 王子だ。

 え? 王子って誰?

 と 謎に思った方も多いだろう。

 よって説明させていただく。

 目の前にいる王子は、この小説の発端になった王子だ。

 忘れている方も多いだろうが、この世界は乙女ゲームの世界だ。

 憶えている人がいるのだろうか と疑問に思うほど懐かしい設定だけど、とにかく乙女ゲームの世界なんです。

 そして わたしは その乙女ゲームの悪役令嬢に転生し、王子は ゲームで悪役令嬢に婚約破棄して断罪する役割だった。

 だけど わたしは破滅を回避するために、王子にもてあそばれたという大嘘ぶっこいて逆断罪し、その後 王子は王さまの命令で修道院に入った。

 そして 王子は修道院で真の兄弟愛に目覚めて幸せに暮らしましたとさ。

 その 王子が目の前にいた。

「どうしちゃったのー? ボクちゃんさまに再会できたのが そんなに嬉しいのー? イヤー、まいっちゃうなー。ヒュー」

 わたしは正気に返って、

「いやいやいや! 王子 どうしちゃったんですか?! キャラが変わりすぎてますよ!」

「これがホントのボクちゃんさまなんだよー。ウィー」

「ボクちゃんさまってなに?! いったい 王子になにがあったの!?」

 ふと兄貴を見ると、怒りを押し殺した表情で、

「この者がマイシスターを陵辱したとかいう王子でござるか……拙者の前に現れることが出来るとは良い度胸でござるな。いったいどうしてくれよう……」

 王子は余裕の素敵な良い笑顔で、

「なーに、嫉妬しちゃってるのー。これだから童貞は困るんだよねー。イェー」

 中隊長さんは目を点にして、

「え? 王子? こいつは本当に王子なのか? 似ているだけの別人ではないのか?」

「もう ヤダなー。ボクちゃんさまは本物の王子だヨー。ヒュー」

 マジでなにがあったっていうの?!



 その時、港から連絡が入った。

「報告します! 北極大陸へ侵攻するための大型軍艦に 何者かが攻撃をしかけているとのこと!」

 賢姫さまが、

「大魔王軍の攻撃ですわね。勇者さまたちの上陸を阻止するつもりなのですわ」

 すると王子が、

「じゃあ ボクちゃんさまが一人で倒しちゃってあげるヨー」

 と 一人で先に港へ向かった。

 わたしは頭を抱えて、

「なんか一人で先走ってる! あー!もう! 皆さんもいきましょう」

 しかし兄貴が、怒りを押し殺した表情のまま、

「放っておいてもよいのではござらんか。一人で倒せるというのならば、その言葉の真偽、見せて貰おうではないか。運が良ければ 返り討ちに遭ってくれそうでござるしな」

 わたしは兄貴の頭を叩く。

「なに どさくさに紛れて亡き者にしようとしてんのよ。さっさと行くわよ」

「フォオオオオオ!」

 突然 兄貴は号泣しだした。

「マイシスター! なぜにあんな男を助けようとしているでござるか! まさか体を重ねて情がわいたというのではござるまいな!?」

「んなわけないでしょ。一国の王子が死んだらさすがに大問題で、わたしに責任追及されたらヤバいのよ」

 兄貴は安堵の表情に変わった。

「うむ、さすがはマイシスター。身の保身を第一に考えるとは、兄として逆に安心でござる」

「兄貴って 何気にわたしの本性 わかってるわね」

「前世からの付き合いでござるからな」

「「ハッハッハッ」」

 なんとなく兄妹の絆を確かめ合うと、

「と いうわけで 行くわよ!」

 わたしたちは王子を追いかけて港へ向かった。




 わたしたち 大魔宮殿出撃メンバーが港に到着すると、すでに軍艦は大破し、警護兵はみんな倒されていた。

 そして沈みかけの軍艦の側には、破邪の力を宿した五体の造魔。

 獣鬼が兄貴と中隊長さんの姿を見ると、

「よう、遅かったな。もう船をぶっ壊した後だぜ」

 王子が剣を抜いて、

「キミたちが話題の破邪の力を宿した造魔だね。でも ボクちゃんさまが倒しちゃうから覚悟しちゃってねー」

 相変わらず変なノリで向かっていく。

 それに対し、獣鬼が前に出る。

「俺が相手になってやる」

 そして変なノリの王子と、いかにもな雰囲気の獣鬼の戦いが始まった。

 王子が剣を天へ掲げると、その剣が輝き始めた。

気功剣オーラソード!」

 なんか予想外に凄そうな技が出てきた!

 これ 意外といけるんじゃない!?

「タァアアア!」

 王子が剣を振りかざして獣鬼へ走った。

「ベプゥッ!」

 そしてカウンターで顔面をぶん殴られて吹っ飛んだ。

 王子 気絶。

「ちょっとー! かっこつけといて なにアッサリやられてるんですかー!」



 獣鬼はあきれて、

「こりゃ 他の奴らもたいしたことなさそうだな」

 魔鬼が獣鬼を諫める。

「油断してはいけません。偶然 一番弱い者に当たっただけです」

 戦鬼が大魔宮殿出撃メンバーを見渡し、

「そうは言うが、他の奴らも似たり寄ったりといった感じだ」

 闘鬼が訂正する。

「しかし、さすがに 破邪の戦士は かなりの者だぞ」

 竜鬼が手にするいわくありげな盾を撫でて、

「とにかく 作戦を実行するぞ。大魔王様の宮殿を ザコなどに汚されてはならん」

 そして 五体の造魔の体が輝き始めた。

 なにをする気?

 わたしが疑問に思うと、オッサンがボソッっと呟いた。

「あ、まずいです」

 聞き捨てならない感じのセリフだった。

「まずいってなにがですか?」

「あの人たち、お互いの力を共鳴させることで増幅させていますです。あの力が臨界点に達して爆発したら、周囲の僕たちは大ダメージです」

「それって 他の人はどうでも良いけど わたしはどうなるんですか?」

「聖女さま、さりげなく自分一人のことしか考えてないですね」

「いや! だから どうなるんですか!?」

「もちろん大ダメージです」

「なんとかしてください!」

「わかりました。なんとかしますです」

 するとオッサンは 自分とわたしに 魔法で防御結界を張った。

「僕一人ではこれが限界です。他の人たちは自分でなんとかするしかないです」

「どうやって?!」

「あの五人の力を 自分の力で耐えるしかありませんです」

 わたしは大声で叫ぶ。

「みなさん! 思いっきり耐えてください!」



 そして五体の鬼の力が爆発した。



 残っていたのは、中隊長さんと兄貴。

 姫騎士さんと精霊将軍。

 そして魔兵将くんだった。

 他の人たちはみんな倒れていた。

「み、みんな、し、死んじゃった?」

 わたしの言葉に獣鬼が答える。

「死んじゃいねえが、かなりのダメージだ。大魔宮殿に乗り込むことはできねえだろうな」

 中隊長さんが剣を抜いて、

「貴様ら! 許さん!」

 兄貴が無数の魔法を放つ。

雷光電撃ライトニングボルト!連発!!」

 竜鬼が前に出て盾を構えると、電撃を全て跳ね返し、電撃があちこちに散らばった。

「俺の盾は魔法を跳ね返すことが出来る」

 そして魔鬼がみんなを一通り見て、

「残ったのは五人ですね」

 戦鬼が拳を作り、

「ちょうど数も合っている。戦闘力を測るにはちょうど良い」

 闘鬼は剣を構え、

「そうだな。遊んでやるとするか」



 闘いが始まった。

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