間違いでしょ

 私の前世からの友人は悪役令嬢に転生した。

 ゲーム通りに進めば、彼女は卒業式の時に破滅するはずだったんだけど、友人は前世の18禁同人誌作家の知識を駆使して切り抜けた。

 現在はマンガ家を目指して奮闘中……なんだけど……

「あんたのマンガ、あいかわらず つっまんないわねー」

「ぐはっ! 言葉のナイフが胸を刺す!」

 私はマンガの感想を、オブラードに包んで伝えたのに、悪役令嬢の彼女はそれでも精神的ダメージを受けている。

 このマンガ、そんなに自信あったの?

 悪役令嬢の彼女は泣きそうな顔で、

「お願い。どこが悪いのか教えて」

「教える前に、中隊長さんとかヒロインちゃんの感想はどうなのよ? 読んでもらったんでしょ」

「読んでもらったけど、全部 褒めるだけだし。しかも褒めてくれたマンガ 全部 没になってるし。いくらなんでも気を遣われてるだけってわかるし」

「そうよね。気を遣うわよね。あんた陵辱された身ってことになってるんだから」

 だからこんな、いくらなんでもあり得ないだろうと突っ込みどころありまくりのろくに青春を送れずに婚期を逃した喪女の妄想みたいなマンガを褒めるのよね。

「じゃあ、どこが悪いのか教えるわね」

「教えてください」

「全部ダメ」

「はぐうっ!! 一言で無数の刃が全身を切り刻む!」

 こいつホントに このマンガのなにに自信を持ってたの?

 悪役令嬢の彼女はしばらくしてから、

「じゃあ どうすればよくなるのかアドバイスをちょうだい」

 アドバイス、ねぇ……

「あのさ、あんた マンガにオリジナリティだそうとするのやめた方が良いと思う」

「はっ? なに言ってんのよ? オリジナリティを出さないでなにを出すのよ?」

「オリジナリティを出そうとして逆にベタベタになってつまんないから」

「ゲフゥッ! 忌憚のない意見を容赦なく言ってくれるだろうと期待したけど、ここまでとは……」

「ベタベタのベッタベタすぎて、いくらなんでもこれはありえないだろうとつっこみどころありまくりのろくな青春を送れずにそのまま婚期を逃した喪女の妄想みたいな恋愛マンガ、おもしろいわけないじゃない」

「もうやめて……心へのボディーブローの連打で私は胃液を吐いてるわ……」



「私さ、前世であんたが死んでからマンガを何冊か出したんだけど、その内容って実は他の作品のパクリなんだよね」

「パクリ! あんた盗作したの!? 創作者としてのプライドがないわけ!」

「話は最後まで聞きなさい。

 パクルと言っても、世界設定とかキャラとかをそのままパクルわけじゃないの。

 物語の本質をパクルのよ」

「物語の本質をパクル……」

「例えば、ルーカス監督の超有名映画、星戦争。あれって、神話学研究者ジョーゼフ・キャンベルの英雄の旅路っていう論文をパクッタそうなの」

「え!? あの映画 パクリなの!?」

「落ち着いて。パクッタのは本質よ。本質をパクッタの。

 いい、あの映画の本質的なストーリーを説明するわね。

 主人公は自分の現在おかれている状況になじめない。

 そこに冒険への扉が開かれる。

 賢者に導かれる。

 仲間を集め、武器や道具などを揃えて、冒険に出発する。

 こんな具合に」

「えっと……ちょっと待って、思い出すから。あれがあーなって、ここがこーなって……ホントだ」

「この話を知って、私 それまで読んだ話を読み直して研究して、マンガで描いたのよ。結構売れたんだから。

 それに あんたも同じことやってるはずよ」

「え? 私そんなことしてないよ」

「エロマンガよ。あんた前世で童貞オタクのお兄さんのエロゲーとかを研究して、それを同人誌にしたら、一生 遊んで暮らせるほどの金を稼げたじゃない。

 ようするに、あんたの描いた同人誌は、エロゲーとかの話の本質をパクッタってわけでしょ」

「言われてみれば……」

「そして物語の本質をパクッテ、その上でオリジナリティを加えるのよ」

「なるほど。わかった! 前世のヒット作の本質をパクってオリジナリティを加えるわ!」



 二週間後、悪役令嬢に転生した彼女からお呼ばれした。

「完成したわ。前世の大ヒット作を わたしなりにアレンジしてみたの」

 悪役令嬢の彼女はいい目をしていた。

 どうやらコツを掴んだみたい。

 私は早速 読ませてもらう。

 どうやら、パクリ元はパヤオ監督の天空の城のようだ。

 いいチョイスね。

 どれどれ……



 出会いのシーン。

 空から男の子が落ちてくる。

「女将さん! 空から綺麗な男の子が!」


 家で男の子を泊まらせた。

「私ったら、こんな綺麗な男の子と一晩 過ごしちゃった。なにもしてないけど、イケナイ感じがして、私 胸がドキドキちゃった」


 洞窟にて。

「ズーパと手が触れちゃった」

「ターシってこんなに可愛いんだ」

「このままだとキスしちゃう」

「子鬼がおる」

「キャッ、キスするところ見られちゃうところだった」



 天空の城を見つけたシーン。

「天空の城は本当にあったのよ!」

「わあ、ターシ、危ないよ」

「私ったら、ズーパに抱きついちゃった。ズーパにふしだらな子って思われちゃう」



 私は原稿を地面にバシッと叩きつけ さらにゲシゲシと踏みつけた。

「ちょっとなにするのよ?! わたしの大傑作を!」

「あんたふざけてんの!?」

「なにかふざけてるように見えたっていうの?! 乙女の欲望を満たす大傑作じゃない!」

「だからだめなのよ! なによこの飛行石を持った美少年が空から落ちてきたのに 大冒険が始まらないで恋愛になる話!

 明らかに天空の城のパクリなのに なんで恋愛なのよ!?

 私は本質をパクリなさいといったのよ! これ本質を掴めてないじゃない!

 私がオタク道を進むきっかけになったアニメ映画を汚された気分よ!」

「そ、そこまで言わなくても……」

「言いかえるなら、あんたのアレンジがつまらないの」

「わ、わたしのアレンジがつまらない」

「そうよ。あんた、余計な要素を入れ過ぎてるのよ。

 空から落ちてきた美少年に一目ぼれしたり、手がちょっと触れただけでドキドキしたり、洞窟の中で二人っきりになった途端キスしそうになったり、なんでそう無駄に恋愛要素を入れてるのよ。

 あのアニメのテーマは冒険よ。

 主人公二人の関係は恋愛じゃなくて、あくまで子供同士の親友として描かれてたじゃない。

 なのになんで恋愛少女マンガみたいになってるのよ」

「いや わたし 恋愛マンガ描きたいから」

「その恋愛マンガにしてもダメじゃない」

「ガーン」

「あんた一回 恋愛要素完全に抜きにして描いてみなさい」

「わ、わかった」

「天空の城のパクリはダメよ。変なイメージが入っちゃってるだろうから、他の話にしなさい」



 で、描いた。

 甲殻機動隊。ゴースト・アンド・ソウル。

 頭脳が電子世界と直結した近未来、最新技術を利用した犯罪の増加に対抗して結成された、ハイテク特殊部隊の活躍を描く。

 キメゼリフ。

「ネットは広がっていくわ」



「あんたどこまでふざけてんの!」

「な、なに怒ってんのよ? 今度は恋愛要素 入れなかったじゃない」

「それ以前にあの作品 世界的にヒットしたけど 理解できる人と理解できない人に思いっきり分かれた作品じゃない!

 なんでそういう難解な話をこのファンタジーな世界でやろうとしてるのよ!?

 っていうかSFをファンタジーな世界でやろうとすること自体間違いでしょ!

 なんであんたはそう極端なのよ!?」

「わ、わかったわよ。次は無難なのを選ぶわよ」



 山奥で暮らしていた武道家少女が、金持ちのお嬢様と一緒に、七つの竜の玉を集める冒険の旅に出るという話。

「まあ、無難なところね。主人公も女の子とお嬢様だから恋愛には発展しないだろうし」

「そ、そんなに わたしの恋愛話ってダメなの?」

「全然ダメ。間違っても恋愛を描こうとしないこと。良いわね」

「わ、わかったわよぉ。シクシク……」



 マンガは出版され、売れ行きも良いそうだ。

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