下・そして……

 わたしは王子に玩ばれた悲劇の公爵令嬢となり、修道院送りは免れた。

 今は実家で療養しているということになっている。

 まあ、この中世のような世界、汚された貴族女性が結婚できる望みは無いに等しいので、一生 独身ということになるだろう。

 だけど 早死にするよりかはましだ。

 それに やりたい事もある。

 前世でかなわなかった夢。

 マンガ家になることだ。

 この世界にはマンガはまだ存在しないのだけれど、絵本の類はある。

 だから、それを発展させたという感じで、わたしがこの世界にマンガの存在を広めようと思うのだ。

 もちろん 18禁などではない、一般向けのマンガだ。

 わたしがこの世界のマンガ家 第一号。

 夢が広がるじゃない。



 王子は国王の命令で修道士となり、現在 修道院にいるという。

 そこで自分の行いと反省しろと言うことらしい。

 やりすぎたかな?



 ある日、同級生の男子が一人、館を訪ねてきた。

 わたしが怖がるといけないからって、メイドさんと一緒にその人とお茶をする。

 この人は学園を卒業後、騎士団に入り、早くも中隊長になったエリートだけど、なんの用だろう?

「単刀直入に言うよ。君と結婚したい」

 わたしは口に含んでいたお茶を吹き出してしまった。

「な、な、な、なにを言い出すのですか!? だって、わたし、その……」

 どういう事?

 婚姻前の貴族女性が汚されたら結婚の望みは無くなるんじゃないの?

「分かっている。君があいつのせいで男が怖くなっている事は。

 だが、あんな男ばかりじゃないことを知って欲しい。

 俺は君を幸せにしたいんだ」

 そう言って彼は わたしの右手に手を添えようとしてきた。

 わたしは思わず手を引っ込める。

「そうだね。焦ってはいけないよね。

 ゆっくりと時間をかけて君の心を解きほぐしていくよ。

 そして、必ず君を幸せにしてみせる」



 次の日、同級生の、同じ公爵令嬢が館を訪れた。

「うふふ、男なんて みんな下品で下劣な欲望の塊。女は女同士で仲良くするのが一番よ。

 さあ、わたくしが汚された貴方を綺麗にしてあげる」

 そう言いながら、妖艶な笑みを浮かべて、わたしの頬を指でなぞる。

「い、いえ。結構です。わたし、そういうのは、ちょっと」

 私が断ると彼女は、

「そうね。焦ってはいけないわね。

 ゆっくりと時間をかけて女の良さを教えてあげるわ。

 そして汚らわしい男から貴女を守ってあげる」



 さらに次の日。

 ヒロインが館にやってきた。

「貴女のおかげで助かりました。貴女の勇気ある告発がなかったら、私は今頃 あのゲス王子に酷い事をされている所でした。

 貴女は私の恩人です。だから恩返しに、貴女が立ち直るお手伝いをさせていただきたいのです」

「だ、大丈夫よ。わたしは平気だから」

「そうですね。焦ってはいけませんよね。

 ゆっくりと時間をかけて立ち直りましょう。

 今度は私が貴女を助けます」



 どうしよう。

 これで全部 嘘だってばれたら、今度こそ身の破滅。

 絶対にばれないようにしないと!



 こうして、悪役令嬢に転生した18禁同人誌作家は破滅を回避するために奮闘する。

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