2022年 1月

サルビアの花 ~季節外れの脳内記憶~

 中学校3年生のときに、初めて、僕はこの曲をラジオで聴いた。

 小学生の時に、さんざ、花弁の真ん中を抜き取って蜜をちゅうちゅう吸い取っては捨てて、花壇の周りを汚くして先生に怒られていたあのサルビアの花を“部屋に投げ入れた”り、“ベッドに敷き詰め”たりするってどんななんだろ? と当時、思ったけど、その一方で、一途で、そして、儚すぎる男の想いに自分を重ねていた記憶もある。

 思えば思うほど、それは、叶えられない現実が待っているのではないか… なんていう想像の湖で溺れていたこともしばしばだったようにも思う。



 時を同じくした中3の夏休みに、僕は学級花壇に植えられたサルビアの花の世話をした。

 別に、お世話係ではなかったけれど、この曲を聴いて以来、(僕がサルビアの花壇を守らなきゃ)と、なぜか思ってしまったからだ。

 毎夕、部活動をする後輩たちが帰る時間に合わせて自転車を飛ばしてグランドへ。

大き目のジョウロで水をやり、どんな小さな草も見逃さないで取った。


 ところが、夏休み明け、一番花盛りになるはずの2学期に、僕のクラスの花壇のサルビアは他のクラスの花壇よりも元気がなかった。幹は細く短く、ついた花もほんの僅かだった。なぜなのかわからないまま、それでも元気になるように下校前には水をやり、草を抜き続けた。


 しかし、花は元気になるどころかますます痩せ衰えていって、とうとう、茶色く枯れてしまった。

 別段、学級花壇の花が他のクラスよりも真っ先に枯れたことを話題にするクラスメイトは居なかったけど、当時、自分の世話のせいで枯らしたかもしれないことをクラスメイトに言えず終いで、僕は、すごく後ろめたさを感じた。

 おそらく、水をやりすぎて根腐れしてしまったんだろうけど、当時の僕には枯れてしまった原因がわからなかった。草ぼうぼうのままの他のクラスの花壇にサルビアは赤々として咲き誇っているのに対し、僕のクラスの花壇は一生懸命に世話をしたのに枯れてしまうという不条理な事実が何よりも哀しかった。


 だから、サルビアの花を見掛けると哀しい気持ちになるのだけど、それを振り払うかのように、「これを抜いてちゅうちゅう吸ってごらん。蜜がほんのり甘いから。」って子どもたちに教える僕なのでした。




「サルビアの花」早川義夫

https://www.youtube.com/watch?v=qsbu1O2Qkss




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