前代未聞の共犯者

半社会人

前代未聞の共犯者

あいつが憎い。殺してやりたい。


ことあるごとにその機会を伺っていた。


待ち伏せして殺す。


人気のない場所で殺す。


逆に雑踏の中で殺す。


あらゆるところで殺してやる。


だが、あいつは運がいい。


結局、俺はあいつを殺せなかった。


だから、俺は、共犯者を作ることにした……



※※※※※※


あいつの家の前に佇む。


もう何回脅迫状を投げ込んだだろうか。


決まっていつも二文字。


「殺す」


それだけだ。


俺だけではしかし難しい。


だから俺は、前代未聞の協力者に頼むことにした。


ほら、あいつが出てくる……


※※※※


「殺してやる」


俺は叫んだ。


そしてきらりと光るものを振りかざす。


相手の方にダッシュした。


途端に、あいつの顔が歪む。


そこには憎悪があった。


「ふざけるな!!お前ごときに殺されてたまるか!!」


そしてあいつはナイフを取り出した。


グサッ。


鮮血。


目の前がまっくらになっていく。


薄れゆく意識の中で、俺はしかし勝利を確信していた。


後は頼んだぞ……


※※※※


『被告を懲役10年の形に処す』


ぶるぶると震える男の顔。


うなだれ、涙を流す。


しかしもう遅いのだ。


いくら脅迫を繰り返されていたとはいえ、オモチャの刃物を突き立ててきたあいつに本物のナイフを突き刺したのはこちらなのだから。


男は震えながら、社会の視線を感じていた。


※※※※※※※


救急車の音が聞こえる。


俺は死ぬだろう。


だが、後悔はない。


死んでこそ、俺の殺人は完成するのだ。


殺されてこそ、俺の殺人は果たされるのだ。


なあ、そうだろう?


殺人を犯した奴は、『社会的』に死ぬ。


誰もが後ろ指を指す。


共犯者はお前らさ。




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