心霊スポット


クルマの灯りが何かを照らす。

それは白装束の女、真っ黒な髪を長く伸ばしている。

そういえば聞いたことがあるぞ、ここは心霊スポットらしい。

初めて通る道だ。

にしても本物を見てしまったのは初めての事だ。

取り憑かれては、たまったものではない。

アクセルをさらに強く踏む。

その瞬間、女が飛び出してくる。

「あっ」と声を上げてハンドルを切り、ブレーキを踏むのだが、木にぶつかって運転席はぺしゃんこになってしまった。


「あーあ、俺は死んでしまったのか。なんて情けないんだろう、まだ家族も持てていなかったのに」


体を見ると、白く煙のようになっていて、半透明になっている。

プカプカと車の周りを飛んでみる。


「ここまでなってしまっては、俺の体も大変な事になっているに違いない。好奇心もあるが、覗いて見るには勇気がない…」


「やった、ついにやった!ありがとうございます」


ふと横を見ると、俺と同じような状態のものが浮いているではないか。

それは長い黒髪を持った男だった。


「これはどうした事だ。さっきの幽霊か?てっきり女だと思っていたのだが」


「そんなこと、どうでもいいじゃないですか。一杯奢らせてくださいよ。あ、もう死んでるんでしたね」


「冗談じゃない。君のせいで私はこんなになってしまったんだぞ。いったい、どう責任をとってくれるつもりなんだ」


だんだん、怒りが湧き上がってくる。


「怒らないでくださいよ、私も被害者の一人。あなたに話をしなければいけませんね」


髪を後ろに束ねながら男の幽霊は言う。


「これは6年くらい前のことなのですが、私は会社に言われて、この近くにある小屋に隠してある金庫から金をとりに来たのです」


「なるほど、こんな山の中に金庫があるとは誰も思わないだろうな。それに道も悪いし」


「他の人に見つからないよう、夜中に来たのですが、ここはほとんど車が通らないので楽でした。そして、私もここを通りかかったのです」


「それで?」


「ライトの向こうに、長い髪の女がいたんですよ。ちょうど、幽霊みたいなのが」


「君だってそうじゃないか」


「まあまあ、焦らず。それは突然飛び出してきて、慌てて避けようとハンドルを切ったのですが、その方向が谷底。多分即死だったでしょうね」


「そうすると…」


「私は今より髪の短い姿で幽霊になってしまいました。別にこの世に恨みがあったわけでもないのに。

すると、先ほどの幽霊が私に謝りに来たのです。申し訳ない、昇天するにはこれしかないのだと」


「…」


「どうでしょう、その幽霊は跡形もなく消えてしまったのです。私はどうしようもなくなり、ここを離れようとしたのですが出来ませんでした。地縛霊になってしまったのでしょう」


「そうするとだな、つまり…」


男は頷きながら言う。


「ここは心霊スポットなのです。だから誰か幽霊が残っていなければならない。今度はあなたの番というわけです」


「まて、俺はどうすればいいんだ」


「髪を伸ばしなさい。短髪では、誰も驚いてくれませんのでね。では」


そういうと、男の幽霊は昇天してしまった。

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