泥沼のなかの蛙

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第1話 決断

「ふぅ・・・」


細いため息が出た。


時刻は朝方4時。

こんな時間まで何をしていたかといえば、ただただ目の前の棒グラフとにらめっこしていた。


今日で外国為替証拠金取引(FX)を初めて一年。

累計損失額は、およそ2800万円。

本日はすでに150万の含み損があり、確定させると損失3000万円が目前となるだろう。


ふふ。


乾いた笑いが出た。


頭がおかしくなりそうだ。


本日はクリスマス。

世間はお祝いモード。

そんな中、PCの前で俺は一人、毎分更新され続ける損失にどう対処すべきか悩み続け、頭を抱えている。


一般的に12月は上昇相場となりやすいと言われている。

お祝いムードが消費を生み、株価が上がるためだ。


そのため、俺はドル円を買い目線で入れ続けたが

12月半ばにまさかの暴落で、多大な負債ポジションを抱えてしまった。


しかし、本日ももう4時半ば


「そろそろスワップ狙いで売り勢が利確する頃だろ・・・」


ここでナンピン。追加のドル買を決断。


「ふぅ・・・」


コーヒーでも入れに行くか。


一度席を外す。

コーヒーブレイク。


数分後、席に戻り相場を確認。


愕然。


無情にも予想が外れ、損切りラインを大きく抜けて、さらなる売り先行。


その流れは止まらず、ただただ増え続ける損失を眺めながら、呆然とした。


そして、静かにPCを閉じた。


「ふぅ・・・」


また、ため息。


・・・ふと、ため息をつく回数が増えたことに気づく。


ここのところ頭の回転も落ちている気がする。


頭だけじゃない。

体にも老化が進んだ痕跡がいくつかみられる。

(あれ、白髪が増えた?)


一度、目を閉じる。


「ふぅ・・・・・・・・・」


今度は、深いため息。


しばしの沈黙ののち、答えを出す。


「・・・FX・・・やめよう」


この決断はいままで何回もしている。


でも結局やめるところまで届かなかった。


でも、今回こそは本気でやめようと心に決めた。


俺は目の前の大損ポジションを切る決断をし、もう一度PCを開いた。


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