逆転太平洋戦争
神谷萌
序章
「Pearl Harbor is under attack, is not a drill.」
1941年12月7日(現地時間)、7時前後。
ハワイ、ホノルルにあるパールハーバー海軍基地は、アメリカ合衆国海軍の一大拠点だった。
そのはず、だ。
だが、その上空を乱舞しているのは、翼と胴体にでかでかとミートボール──日の丸を入れた、日本軍機だった。
3機種。いずれも中国大陸義勇空軍「フライングタイガース」のクレア・シェンノートの報告により識別されていた機体だ。スマートな戦闘機はゼロ、固定脚の攻撃機はメイベル。そしてディック。
ディックは見たことも多い米軍人もそれなりに多かったろう。
近代的急降下爆撃機の開発に難航していた日本軍は、元々長距離掩護機として輸入したアメリカ製のセバスキー2PAをベースに、性能評価用に購入したダグラスBD艦上爆撃機を参考にして、急降下爆撃機として再設計したものだった。
連合軍コードネームも、元々米軍では採用実績の少ないセバスキー2PAを判別するために付けられたものである。
ただ、セバスキー2PAは単座戦闘機のP-35をベースとしており、シルエットは酷似している。
そのディック──九九式艦上爆撃機は水面付近に舞い降りたかと思うと、停泊中の米戦艦めがけて突進していく。
「!?」
艦上爆撃機とは急降下爆撃を行う機種だ。雷撃機ではない。目の前の機体が後者ではないことは、米軍人の方がよく知っている。
だが、その見ている前で、九九艦爆は抱えていた2発の250kg爆弾を投下した。
「!?」
米軍の水兵が再びあっけにとられる。
投下された爆弾は木製の橇を履いていた。そしてそれは海面にあたるとそのまま沈没……せず、飛び跳ねて直進してくる。
「逃げろ! 爆弾がスキップしてくるぞ!」
誰かが叫んだ。次の瞬間、爆弾は戦艦『オクラホマ』の舷側対空指揮所に飛び込んだ。対空機銃は千切れて吹き飛んだ。いや、千切れて吹き飛んだのは機銃だけではない。床や壁面に血や肉片がこびりついていた。
どうにか後部甲板に逃げ出した人間は、照り付ける熱波に気が付いた。
「Oh my god……」
誰かがつぶやいた。それは常夏のハワイの日差しなどではなかった。
給油施設が燃えていた。
「アリゾナが!」
誰かが叫んだ、次の瞬間、大爆発がオクラホマの船体をも揺すった。
戦艦『アリゾナ』は湾内のフォード島と、巡洋艦『ヴェスタル』に挟まれていたため、それほど直撃弾は受けていなかった。だが、命中した数発が運悪く弾薬庫に飛び込みでもしたのか、大爆発を起こし、一瞬、光球を生み出したかと思うと、次の瞬間にはキールを叩き折られた無残な姿で“へたり込んでいた”。
その光景の前に、自らも負傷しながら呆然としていた水兵が、空に向かって叫んだ。
「Jaaaap!! Son of a bitch!!」
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