Twitterでのワンライやお題から

桜良ぱぴこ

わたしだけの刻印

 あの子はわたしのものなのよ、と誇示するように印をつける。

 脇腹、胸の上、内太腿。首筋には絆創膏を貼って。

 ほんとはね、首輪をつけさせたいのだけど、それじゃあんまりだから、かわいいチョーカーを買ってあげたわ。

 元々の語源はご存知? 「窒息させる」なんて意味があるくらい、支配者にはたまらないアイテムなのよ。そう、あの子にもピッタリね。


 決して自分で外さないのがわたしたちの掟。お床での一瞬に外すことはあるけれど、あの子が触ることはない。それはあくまでわたしの役目。

 ついつい新しいものが欲しくなって次々と買い与えてしまうのだけど、それを付け替えるのはベッドの中でだけ。

 どう、いいでしょう。羨ましいのなら素直にそう言って構わないのよ?

 素直で従順で裏切らない。わたしだけのかわいいペット。

 今日はどんな躾をしてやろうかしら。ああ、考えるだけでゾクゾクする。

 このたまらない快感を得るために、わたしは一体どれほどの時間を費やしてきたのかしら。


 ほんのりと上気した頬を撫で上げて、耳元でこう囁くの。

「ほら、早く言いなさいよ。わたしはあなたのものです、ってね」

 クラクラしているのが見て取れる。馬鹿な子。でも、愛しい子。

「いい子ね。ご褒美をあげるわ」

 わたしは用意していたスカーフを目元に巻きつけ、簡易の目隠しをする。

 両手を上にあげさせて、わたしは片手でそれを押さえつける。

 軽いキスから深いキスへ。身体の自由を奪われた彼女は、もうなすがままになるしかない。わかってるくせに。なんて浅ましい子なの。そしてそんな子を愛するわたしは、もっと卑しいのね。


 先にシャワーを浴びさせて、わたしは煙草に火をつける。

 こういうことのあとだけ、吸う習慣なのだ。


 かわいいペットは今日も白のベビードールに身を包む。

 黒のチョーカーが映えて、わたしがそれを気に入ってることも当然彼女は知っている。

「こっちにいらっしゃいな」

 隣に座らせてからヤニの味のする舌を与えて、ひとしきり愉しんだあとで、わたしもお風呂場へ向かう。


 我が家の風呂場にはシャンプーとコンディショナーは1本ずつしかないが、ボディーソープはふたつある。お互いが好きな香りに包まれて、それを互いが感じるためにわざと用意したものだ。

 プラスチックのコップには歯ブラシが2本。いつの間にかそれが当たり前になっていて、それが日常になった。


 あの子はわたしが拾ってきたようなものだった。

 雨の降りしきる夜、傘もささずにうちのマンションの前に立っていたのがあの子だった。

 なんとなく放って置けないオーラがあった。事情は聞かなかった。ただ家へあげて、風呂に入れさせ、わたしの服を着せた。

 きっかけなんてそんなものなんだと、こうやってたまに思い出しては、そのままシャワーのお湯で泡ごと洗い流す。


 わたしがお風呂からあがるのをきっちりと待っていた彼女は、ふたりにしては狭いシングルベッドに潜り込み、しばらくの甘えたモードから一転、寝息を立て始めた。


 そう、これでいいんだ。

 彼女は明日も会社へ行くだろう。そこで首筋の絆創膏をからかわれるだろう。いくらチョーカーをしていても絆創膏は目立つものだ。

 わたしだけのかわいい彼女。また今度、次は新しいベビードールを買いに行こうかしらと思いを馳せたところで、わたしも眠りに落ちた。

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