ふたりぼっち。
桜良ぱぴこ
第1話
少女はいつも見ていた。風に揺れる長い髪。少し厚い唇。華奢な首筋。抱きしめたら、壊れてしまいそうな細い腰。
笑うときに少し首を傾げる癖まで愛おしくて、ただ、ただずっと見ていた。彼女を見かけて以来もう一年になる。
最初はただの好奇心だった。
新学期早々、クラスメイトの男子を玉砕させたというのでわざわざ見に行ったのがきっかけだった。
そのときのことを今でも強く覚えている。
「かわいい、じゃん」
ふいに口をついて出た言葉だったが、あれが一目惚れだったのだと今でははっきりと自覚している。
そうして一年も声をかけられないまま、こうして彼女の影を追いかけながら秘めた想いを抱えているのである。
転機は思いがけずやってきた。
ニ年生のクラス替えで、見事同じクラスになれたのだ。
わたしは歓喜に震えた。どう友達になろうかとか、一緒にお弁当を食べたりできるだろうかとか、そんなことをま
だ始まってもないうちから考えては悶絶していた。
一年からのクラス替えで一緒になった友人は上辺だけの付き合いしかなく、何の足しにもならない。やるなら自
分から。そう言い聞かせて、その日は眠りについた。
しかし女付き合いとは難しいもので、既に出来上がっているグループでの行動がほとんどになるためニ週間ほどは
孤独なものだった。
ぼっち飯を教室でそそくさと済ませ、残り時間は中庭で過ごすのがいつしか日課になっていた。
さすがにニ週間もそうしていると元々からそうだったように感じられるほどには逞しくもなる。
今度からはこっそりここでお弁当も食べようかな、という具合には。
「上野さん」
いきなり声をかけられて、思わずむせこんだ。
誰よ、この聖域を侵すの……は……、
「隣、座ってもいい?」
わたしは心からたまげて声にならない声を出す。頷くのに精一杯でなかなか顔が見られない。
そう、そこに現れたのは、
「や、山崎さん」
「うん?」
彼女だ。紛れも無く、正真正銘の、山崎里子だ。
「どうしてここに?」
「上野さん、教室でご飯食べたあとすっといなくなっちゃうでしょう? どこに行くのかなーってこっそりついてきたら、ここへ」
横目でちら見した彼女の横顔は相変わらず整っていて、くすくすと笑っていた。
「いいところだね」
「う、うん」
どう会話をしたものか。イメージトレーニングなんて何の役にも立たないことを知った。
まごつくわたしに微笑む彼女。そして、驚くべき提案が彼女の方からなされた。
「ねえ、今度からここでこそっとお昼食べちゃおうか!」
「えっ……!」
でも友達は、と言いかけたところで見透かされたように言葉を遮られた。
「私もね、ちょっと窮屈だったんだ、あそこ」
籠の鳥は飛べない。
外へ羽ばたいてこそ美しくその羽根を広げるのだ。
わたしは彼女を解放できるのだろうか。
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