第21話

 先ほど文太郎の車が追い越していったトラックから突然エンジンをかける音が聞こえた。

 どうやらそのトラックには人が乗っているようだった。


「隊長、今通り過ぎた車がそうです。やはり名戸ヶ谷病院に向かっています」


 運転席に乗っている男が助手席にいる男に話しかけた。 


「そうですか…… やはり、理由はわかりませんが我々と目的地は一緒のようですね。ところで、柏木と島木はどうなりました?」


「はい、あの二人は予定通り捕獲できそうです、あの二人が乗っていた車はもう壊れて乗れません、Bチームが捕獲に向かっています」


「そうですか、あの二人を捕まえたら予定通り名戸ヶ谷病院に連れてきてください。あと、"レア"はどうですか?」


「" レア"は隊長がおっしゃるように捕獲は無理なので殺してその遺体を連れてくる予定です。Cチームがそろそろ攻撃を開始します」


「わかりました、最初に予定していたよりも仕事が増えましたが、必ず任務は成功させましょう。とりあえず柏木と島木を捕まえることが最優先です」


「わかりました。Bチームには伝えておきます」


「さっ、私たちはさっきの車を追いますよ。おそらくあの車には伊達文太郎が乗ってるはずです。私たちは名戸ヶ谷病院で彼を捕獲します」


「わかりました」


 運転席の男がダッシュボードにあるスイッチを押すとさっきまで真っ黒だったトラックのフロントガラスとサイドガラスが透明になった。


 すると、助手席にいた隊長と呼ばれた男がヘッドセットのスイッチを押す。


「さてみなさん、そろそろ仕事も終わりが近づいてきました。けど、油断せず必ず任務を成功させましょう。それでは行きますよ」


 運転席の男は隊長の方を見て頷くとギアをドライブに入れアクセルと踏み車を発進させた。



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「柏木さん、こっちに学校があります。一旦この学校の校舎に入りましょう」


「島木! その校舎に逃げ込んでもゾンビどもに囲まれたら出れねーかもしれんぞ」


「わかってます。でも、とりあえず命を守らなきゃ」


「……仕方ねーか」


 柏木と島木は学校の正門の前に着くと正門が閉まっていることに気が付いた。


 正門はかなり大きく登ることはできなかった。


「島木、そっちの塀から登って中に入れるぞ」


 柏木と島木は塀を登って中に入る。そして、校庭を横切り校舎に向かった。


「この学校の周りは塀で囲んであるからゾンビは入ってこれないでしょうね」


 島木はホッと胸をなでおろした


「ああ、だが油断するなビルからゾロゾロ出て来たソンビどもは100匹以上はいたぞ、あれだけのゾンビが学校の正門にぶつかって来たら門が破壊されちまうかもしれん。とりあえず校舎に身を隠してそこから逃げる方法を考えよう」


 柏木と島木は校舎の入り口から中に入る。


「島木、慎重にな」


「はい」


「柏木さん、あそこ見てください。ゾンビが…… その奥にも何匹かいますね」


 校舎の廊下にジャージを着たゾンビがうつむいて動かずジッとしている。


 そしてさらに奥の方、暗くてよく見えないが野球のユニフォームを着た2匹のゾンビが同じようにジッとして動かずにうつむいている。


「どうやらこの学校の教師のようだな。奥にいるのは生徒か…… 島木、始末できそうか?」


「とりあえず手前にいる奴はなんとか。でも、銃で撃てば倒れる音で奥にいるゾンビに気づかれるかもしれませんね。奥にいるゾンビどもが俺らに気づいたら一気に襲ってきますよ」


「確かになぁ。奥にいるゾンビどもは遠くて銃で撃っても当たるかどうか…… もう少し近づけば当てる自信はあるんだがな」


「どうします。あのゾンビども厄介ですね」


「よし俺に任せろ」


 そういうと柏木はしゃがみながら気配を消しゆっくりゾンビの方へ向かって歩き出した。


 柏木はジョージ姿のゾンビの後ろまでくると、腰から軍用ナイフをゆっくり取り出す。


 そしてそこから一気に立ち上がりゾンビの喉をかき切った。


 ゾンビは後ろを振り向いて柏木の襲いかかろうとした。ゾンビは喉を切ったぐらいでは死なない、頭を切り離すか潰すか以外に動きを止める方法はない。


 しかし、それを予測していた柏木は、ゾンビのこめかみにナイフを突き刺した。するとゾンビはピタッと動きを止めズルズルと崩れ落ちた。


 柏木はゾンビの体を支えながらゆっくりと仰向けに体を倒した。


 柏木は島木にこっちにくるよう合図する。


 島木が柏木の方へ向かった。


「柏木さん、流石ですね。まずゾンビの喉をかっ切って唸り声を上げさえないようにしてから始末するなんて」


「ああ、この方法なら奥のゾンビに気づかれずに始末できる」


 柏木はナイフを腰にしまうと、今度はハンドガンを取り出した。


「島木、この距離ならあそこにいるゾンビ撃てるな?」


「はい」


 柏木と島木は暗視スコープをつけてサイレンサーがついたハンドガンで奥にいるゾンビを撃つ。一瞬でバタバタと倒れていくゾンビ。


「とりあえずここにいるゾンビはこれだけか?」


 柏木が銃をしまいながら辺りを見回した。


「みたいっすね」


「外はどうだ?」


「ゾンビどもは中に入ってきてないですね。どうやら俺らの事は見失ったみてーっすよ」


「そうか、危なかったな。よし、裏門から出るぞ」


「了解っす。だけど、ワゴン車に武器を置いてきちゃいましたよ、武器は今持ってるだけです。どうします?」


「ああ、残念だがもう取りに戻れねーこのまま病院に行くぞ」


「そうっすか…… なんかヤバイかもしれないっすね」


「ああ、俺らの車に銃を撃ち込んだ奴らも気になるしな。まあ、とりあえず行くぞ」


「はい」


 柏木と島木が校舎の裏へと向かう。


「柏木さん、どうやらここは高校みたいですね。いや、イイすね駅の近くに高校があるなんて。登校が楽だったろうなぁ。あ〜なんか高校時代に戻りてーっすね」


 島木は自分を落ち着かせようとしているのか、いつものように軽口を始めた。


「お前、高校時代、楽しかったのかよ」


 柏木が軽く微笑みながら聞いた。


「ええ、毎日、勉強もしないで遊びまくってましたからねぇ」


「どーせ、ナンパとかしてたんだろ」


「いや、「どーせ」って…… まあ確かにしてましたけど」


「なんだ、お前、いま流行りのリア充ってやつかよ。な〜んか許せーねなぁ」


「え〜、柏木さんは違ったんですか? すげーイケメンで高身長だから俺以上にリア充だったんじゃねーすか?」


「俺は親が厳しかったから高校時代は勉強ばっかやってたよ。お前みたいにチャラチャラしてねーぞ。まあ、女にはモテたけどな」


「うわ〜、ひでぇ言い方。しかも、さりげなく自慢してるし」


 柏木がフッと笑いながら島木を横目で見た。しばらく歩いていると校舎の裏に出た。その先に裏門が見える。


「おしゃべりは終わりだ。行くぞ」


「へ〜い」


 柏木と島木が辺りを警戒した。


「どうやらこっちにはゾンビどもはいねーみてーっす」


「よし」


 柏木と島木が慎重に歩きながら裏門へと進む。すると突然、銃声が鳴る。


 柏木の足元で土煙があがった。


「島木、校舎に戻れ!」


 柏木と島木は急いで校舎に戻った。


「柏木さん、校舎の上の階から撃ってきてましたよ」


「ああ、島木、上へ上がるぞ! 撃ってきたやつを捕まえるんだ」


「ええ」

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