第19話

 柏木と島木は文太郎の家の庭で数匹のゾンビと戦っていた。


「柏木さん、イムらしき奴があっちの建物で死んでましたよ。頭が潰れてました」

 

 島木は向かってくるゾンビを撃ちながら言った。


「そっか、全員死亡ってわけか……嫌な予感が当たっちまったな」

 

 柏木もゾンビを撃ち殺している。


「島木、ここにいるゾンビを始末したら本部に連絡するぞ」


「了解です」


 柏木と島木が文太郎の庭にいるゾンビを全部始末すると、本部に連絡をした。


「――はい、自分と島木が到着した時にはチャン含め全員死んでいました」

「はい……はい……。え? わかりました。はい、すぐ追います」

 

 柏木は本部との通信を切った。


「島木、どうやらソンイムの車を誰かが運転しているらしい。本部が車に備え付けてあった追跡装置で追ってる、その車を追って運転しているやつを捕まえろって命令だ」


「やっぱり……。ここに到着した時、ワゴン車が一台しかなかったから、もしかしたらと思ってんすよね。了解っす。今度は俺が運転しますよ」


 柏木と島木は自分たちの車に乗り込んだ。


「それにしても、全員、どうすればあんな無残な殺され方になるんですか? やっぱ、"レア"はとんでもないですよ。良かったっすよ、俺も無理に須藤を追っていたら今頃、あいつらと同じ運命だったかもしれませんよ」


「島木、お前は能天気に見えて実は慎重派だからなぁ。まあ、お前の判断は正しかったよ。須藤は怪物中の怪物だ」


「なんか、褒めてんだか微妙にけなしてんだかわかんないっすけど、まあ、一応、ありがとうございますっす」

「ところでソンイムの車に乗ってんのはやっぱ、伊達ってやつですかね?」


 島木は先ほどまでふざけた顔で柏木と話していたが、突然、神妙な面持ち柏木に聞いた。


「だろうな。伊達って奴、大したもんだよ。チャンや須藤を相手にして逃げ切ったんだからな。本部の話によると、伊達は吉田恭子って女と一緒だったようだ、その女は須藤の元彼女だ。さっきの伊達の家には女の死体はババアだけだったから、その女、伊達と一緒に逃げてんだろうなぁ。まあ、よく女連れで逃げられたよ」


「ええ、でも、俺達の目的は須藤でしょ? 伊達が須藤から逃げ切ったんなら、もう、伊達を追っても意味ないんじゃないですか?」


「島木、須藤を探す手がかりはもうないぞ。本部はもう須藤は追わなくていいってよ。てか、正直、須藤みたいな怪物は俺らの手には負えねーよ。ともかく、なんで本部が伊達を追えって言ってのかわからねーが、俺らは言われた通りの事をしてりゃあいいさ、それにまだ伊達を追ってる方が気が楽だ」


「俺も正直、このまま須藤を追っていいいのかって迷ってたんですよ。あれですよね、ぶっちゃけ、小坂と立花と一緒に逃げた方が良かったかもしれないっすよね?」


「おいおい、滅多なこと言うな。お前はまだよく知らないかもしれないが、組織からは逃げられねーよ。この組織と関わっちまったら、死ぬか大金貰うかのどっちかだぞ。俺は大金の方を選ぶね」


「そうなんすか?まあ、自分も大金の方っすね。だけど、本当に須藤を追わなくていーんすか?」


「ああ、もう、この町には俺とお前、そして本部の人間しか組織の者はいない。須藤を捕まえるのは多分無理だ。いくら何でも俺たちだけで"レア"を捕まえろなんて、そこまで無茶な命令は言わねーよ。まあ、後にでも、こんな田舎の本部じゃなくて本当の組織の本部が須藤を捕獲するために動くんじゃねーの?」


「そうですか。まあ、自分としては須藤を追わない方が願ったり叶ったりでいいんすけどね」

 

 島木はアクセルを踏むと、本部から連絡がきた。


「柏木、島木、どうやらワゴン車は名戸ヶ谷病院に向かっている。それと、そろそろこの町に自衛隊と米軍が突入してくると言う情報が入った。急いでワゴン車を運転しているやつを捕まえてくれ」


「な…… 名戸ヶ谷病院ですか。なんで……またなんで、そこに向かってるんですか?」

 

 柏木が初めて本部の男に質問した。


「さあな…… だだの偶然だと思うが…… とりあえず向かってくれ。まあ、こっちには好都合だ」


「了解」

 

 柏木は少し解せないといった顔で答えた。


「……島木、行くぞ」


「名戸ヶ谷病院とはね〜 偶然だと思いますよ。でも、了解っす!」

 

 島木はアクセルを踏んでスピードを出した。


 だが突然、数発の銃声が聞こえた。それと同時に前輪のタイヤがパンクする。

 

 車は右に左に蛇行し始める。島木はコントロールが効かなくなった車を懸命に立て直そうとしていたが、その努力も虚しく車は横転してしまった。


「う、う……な、何が起こった……。おい、島木! 大丈夫か?」


「ええ、大丈夫っす」


 柏木と島木はヘルメットをしていたおかげで大事には至らずに済んだ。


「どうやら撃たれたようだ。島木、車から出るぞ!気をつけろ!」


「りょ、了解です」


 柏木と島木はフロントガラスを何度か蹴ると「バーン」という音とともにフロントガラスが粉々になった。


 島木が車から頭を低くして射撃されないよう慎重に出る。そして、柏木の手を取り車から出るのを手伝った。


「くそ! どっから撃って来やがった」


 島木が辺りを見回した、この通りは、駅が近いせいか田舎町のわりにビルがたくさん建っている。流石の島木も撃ってきた場所を特定するのはできなかった。だが、すでに車を撃った人物はいないようだった。


「島木、もう、この車は使えん、どっからから車を盗んでこよう。行くぞ」


「了解です」


 柏木と島木が車を盗みに行ことして走り出した瞬間、どこからともなく唸り声が聞こえてきた。


 二人は警戒して周りを見るとあちこちのビルの入り口からゾンビが大量に出てくる。


「おお、こりゃ、やばい。島木、流石にこれだけの数のゾンビは相手すんのは無理だ。逃げるぞ!こっちだ!」


「りょ、了解っす!」


 二人は比較的にゾンビが少ない方へと走り出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る