ゾンビアウト
黒咲
プロローグ
男が一人、山の中をゆっくりと慎重に歩いていた。
男は山道なので転ばないように慎重に歩いてるかに見えたが、実はそうではなかった。
よく見ると男は木の枝や石などを踏んで音が出ないよう足元を見ながら慎重に、そして周りを警戒しながら歩いていた。
また、男の手には猟銃が抱えられていた。
男の名前は田中良造、彼は猟友会のハンターだ。
最近、熊の被害が多発していた町の依頼で害獣駆除に来ていたのだ。
良造が慎重に音を立てずにいたのは熊に気づかれないようするためだった。良造はベテランのハンターだが、最近は年齢的な衰えから若いハンターを帯同させている事が多かったが、今回は、帯同する若者が誰もいなかったため良造一人で駆除に来ていた。
なぜ良造一人で害虫駆除に来てるかというと、人手不足が原因だった。正直、良造は内心、その事に不満を思っていた。
最近の猟友会のハンターは人手不足が深刻化している。その理由の一つとしては動物愛護団体の抗議は非常に激しいというのがある。
そのため最近のハンターは批判の対象になることが多い。
危険な害獣退治をしてわざわざ批判されるのが馬鹿馬鹿しいと思う人が増えて来た。
時代は変化するもんだと良造はわかっていたが、嫌な変わり方になったもんだと嘆いていた。
良造の若い頃は人間に危害を加え脅かす害獣を仕留めるハンターは英雄だった。
しかし今は違う、だが、良造はハンターを辞める気は無かった。
子供の頃からハンターは憧れだったし人の役に立ってる、その気持ちが57歳の今でもハンターを続けている動機になっている。
あたりを警戒しながら歩いていると、遠くに何かが見えた。遠くからなので何かは分からなかったが、山の中で明らかに違和感がある肌色のものが見えた。
何だろうと思い慎重に近づいて見ると、だんだんとそれが何かわかり始めて来た。
それは裸の人間だった。なぜ裸の人間がこんなところでウロウロしているんだろう。良造は不思議に思いつつも、少しずつその裸の人間に近づいていく。
すると、その人間がただの人間でないことに気がついた。かすかだが獣のような唸り声をあげているからだ。
良造は何か危険なものを感じ、すぐさま大きな木の後ろに身を隠した。そしてしばらく様子を見ていると裸の人間がこちらの方に顔を向けた。良造はその顔を見て思わず声をあげそうになった。その人間はとても普通とは言えない顔をしていたからだ。
まず、目玉が真っ赤だった。目が充血しているとかではなく黒目の部分が完全に赤くなっていた。そしてその目はどこを見ているのか分からず焦点があっていなかった。
唸り声をあげながら半開きになっている口をよく見ると、小さな牙が見えた。それは人間ではなく化け物だった。
良造は夢でも見ているような感覚に囚われたが、これは現実だった。
化け物はこちらには気づいていない。
良造は何とかこの場から逃げる方法を考えていたが、恐怖心で体が動かない。しかし、何とか勇気を振り絞りその場から離れようとした。
そして化け物が違う方を向いたのを見て後ずさりした。その瞬間、バギッという音がした。木の枝を踏んでしまったのだ。
化け物が良造に気がつき唸り声を上げながらこちらに向かって走り出す。
良造は恐怖にかられ必死になって逃げる。しかし、化け物はものすごいスピードでこちらに向かってくる。
化け物がだんだんと近づくと良造の肩に手をかけようとした。が、その瞬間、良造は振り向き猟銃をぶっ放す。
銃声が鳴った瞬間、化け物がくの字になって吹っ飛んだ。
「ハァハァハァ……死んだか……」
化け物に近づくと銃弾は胸に当たっていた。
「心臓に当たったか……」
ホッとしてポケットからスマホを出して電源を入れる。害獣駆除の最中にスマホが鳴ってしまわないように事前に電源を OFFにしていたのだ。森の中で電波が入るか不安だったが、良造はスマホの電源を入れ、警察に電話しようとした。だが、スマホは電源が入るのに時間がかかる。
イライラしながらスマホを見ているとやっと電源が入った。
急いで警察に電話しようとすると恐怖心でずっと手が震えていた為、スマホを落としてしまった。
良造は舌打ちしながらスマホを拾い警察に電話しようとして起き上がった瞬間、驚く事が起きた。
何と目の前にさっきの化け物が立っていたのだ。
良造は心臓が喉から出るほど驚いた。何でこの化け物死んでないんだと思った瞬間、化け物の拳が良造の顔面に飛んできてヒットした。
今度は良造が吹っ飛ぶ。
「うう……」
良造は立ち上がろうとしたが全く足に力が入らず立つ事ができない。
化け物がこちらに向かってくる。
「や……やめろ……た……たすけ……」
化け物は良造が何か言おうとしたが全く聞かず馬乗りになり良造を何度も殴る。良造の意識はなくなるが化け物は関係なく殴り続ける。
そして、最後に化け物は良造の首に牙を突き立てた。
しばらくして化け物がすっと立ち上がると、化け物はもう良造には全く興味を持たなくなり、唸り声を上げて歩き始める。
そして化け物は、しばらく歩き続けると山の木々の隙間から明かりが溢れているのを見つける。
その明かりは町の明かりだった。
化け物はその明かりに興味を示したのか、町の方へ向かって歩き始めた。
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