新しい家族が増える時

ゆらのと

本編

 ママは不妊治療を受けていたが、中々子を授かることが叶わず悩んでいたらしい。そして記憶も残っていないような幼い時期に、私はこの家に引き取られ家族の一員となった。私が引き取られてからの六年間、パパとママと私で一家族であった。


 ママはその日とても嬉しそうだった。鼻歌が出るほどに。ママのそんな様子をみると私まで何故か嬉しい気持ちになったものだが、それはパパが帰ってくると一変した。ママがパパに嬉しそうに懐妊を報告したのだ。それにパパは過剰に反応してしまった。

「妊娠したんだから抱っこは止めた方が良いんじゃないか?」

パパがそう言い出したのだ。ママに抱っこしている私をパパはそっと隣に降ろす。今までは家族でテレビを見ている時、私の席はママの膝の上だったのに、それからはママとパパの間が私の席になった。数日後には私用のベッドが用意され、寝るのも別々になった。万一の事があると困るらしい。それでも暫くはママの隣に潜り込んだけど。


 それから数ヵ月の時が経ち、ママのお腹は凄く大きくなった。風船が入ってるようで割れそうで怖い。ママは少し動くと辛そうに休むということを繰り返しているが、小さい私では何も手伝うことが出来ない。その日はママに勧められて散歩に行くことにした。私がいるとママも休めないと思ったのだ。公園まで行って芝生の上に寝転がる。突然の「キーン」という音に目が覚めると、寝そべっている私に白球が迫っていた。驚き、慌てて飛び跳ねて避けると、外野を守っていた男の子がボールを取りに来て「そんな所に寝てるとあぶねーぞ」と言ってきた。仕方なく私は家に帰ることにした。


 家に帰ると誰も居なかった。パパは帰ってくるなり彼方此方に電話をしてママが産気づいて病院に行ったと説明していた。その後パパも病院に向かい、私はお留守番だ。


 昨晩なかなか寝付けなかったからだろうか、昼に漸く起きるとパパが疲れた様子でソファーに座っていた。寝ている間に帰ってきたらしい。

「今度新しい家族が増えるぞ」と私に言ってきた。新しい家族、イマイチ実感がわかない。


 一週間程経つとママと一緒に男の子が帰ってきて「さくらのぞむと仲良くしてあげてね」と言われた。そんなの言われなくても大丈夫だ。


 望は可愛い、うるさいけれど。そして望はすぐオムツを汚す、とても臭い。

そんな望にパパもママも掛かりきりだ。以前はパパもママも私の頭を撫でてくれていたのに、最近はそれもあまりない。ママの膝という私の場所も望に取られてしまった。


 望は可愛いけれど、パパもママも盗られてしまった様で少し悔しい。

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