幕間

在りし日の日記

〇月×日

今日、不思議なことが起きた。何時もやってるめんどくさい検査が簡易化された。元々待ち時間が長すぎるし、アリスや先生をずっと待たせる事にもなってたからちょうど良かった。そして今日、検査が陰性で一時的な退院許可が出た。院長先生がお祝いにこの日記帳をくれた。嬉しい。またみんなと過ごせる。長い白い部屋生活に飽き飽きしてたまに屋上に行ってたくらいには退屈してた。

日記の付け方はこれでいいのだろうか?

なんだか頭が痛いし、明日にでも誰かに聞いてみよう。


○月△日

今日もやらかしてしまった。みんなと外で遊べるのが新鮮で、ついつい走りすぎて喘息がぶり返してしまった。

どうせ症状が発症するなら全部死ぬ間際だけでいいのに。どうせなら死に様はカッコつけたい。


○月□日

アリスはもう学校に通っているらしい。俺は病院生活ゆえ通えなかったが、暇だったから本は読んでた。だから日記はかける。文字はかける。算数とかは分からないけど、識字率なら負けない。アリスは友達に囲まれて幸せそうだった。そんなアリスが健やかに過ごせますように。


○月&日

毎日が楽しい。こんな日ができるだけ長く続けばいい。そうすれば俺も…


○月@日

最近は春の月も段々夏の月に変わりつつある。あと2ヶ月と少し。この春の十二ヶ月は色々なことがあって楽しかった。…俺も学校行ってみたいな。


○月$日

最近はアリスに学校の話ばかり聞いている気がする。そんなアリスは宿題がやっぱりあるらしい。変な記号が羅列されててよく分からない。学校に行けなくてもいいかも。でも、魔法は学んでみたい。わがままだけれど。


○月☆日

アリスは学校に行く理由を『自分の病気』について知りたいからって言ってた。そういえばこれは不治の病だった。幸せすぎて忘れてたよ。そんな話を夕食の食卓を囲みながらしてたら、春樹が「俺も医者になる!みんなを治す!」って言ってた。春樹ならきっと凄い医者になれると思う。こんな一人の日記の中だけど頑張れと書いておこう。


○月?日

今日桜が熱を出して、病院に行って精密検査されてた。みんな桜くらいの年齢になると熱をだす。謎だ。普通の人はなんの理由もなくあんな高熱は出ないらしい。辛そうだった。でもきっと、明日には元気になってる。


○月¥日

桜はやっぱり元気だった。今日はこれだけしか書けない。なぜなら最近慢性的な頭痛に悩まされている。フラフラする。早く寝たい。ふとした時に殴られたみたいに痛い。幸せの対価だったり…?


○月♡日

かねてから望んでいた学校への入学が叶いそう。なんでも少し前から院長先生が掛け合ってくれたらしい。けれど途中から編入してってのもなんだから魔法専修に近い形で、第三学園に入れてくれるらしい。勉強、しなきゃな


○月#日

学校に行くにあたって字の読み書きはできるから、最低限の必須科目である数学、理科、社会、物理を勉強してる。最初は初等教育レベルのドリルから初めて、社会、理科はもう中等レベル。というか社会理科に関しては最初から中等レベルでも問題なかった。内容被ってるし。読解力さえあればなんとかなる。そしてアリスが暇な日には物理や数学を教えてもらった。これは…難しい。公式を覚えることから始めて活用するパターンや想像力、つまりはどこでどの公式を使えばどこがわかるみたいな数学力が必要だった。ひたすら演習あるのみらしい。


↑月〇日

もう夏の月まで一ヶ月をきった。あと2年と37ヶ月で俺も高等教育を受けられる。一度も経験したことがない学校生活を俺も体験できる。楽しみでもあり、不安でもある。友達付き合いができるか不安だ。アリスは、きっといい友達に囲まれるだろう。…囲まれて欲しい。最近は俺に対して当たりが強い時もあるし、欲求に対して素直でないことも多いから誤解されそうではある。あと幽霊でビビる。でも根はいい子だ。良い彼氏が出来たら紹介して欲しい。


↑月☆日

おかしい。確かに俺は昨日間違ってアリスのプリンを食べたはずだ。なのに食べた後に「食わなければよかった」なんて思いながら寝て、起きたらプリンがあった。アリスって容器の底に書いてあったプリンが復活してた。製造日と賞味期限も同じで。しかもスプーンも洗わなかったのにスプーンの洗い物も容器のゴミもなかった。過去が書き変わっている?い やち

きっと 忘れ そも 女でも男でも

思 王 力

だが 異

元気そう きっと


↑月¥日

おかしい。買い物に出かけたはずのアリスが帰ってこない!夕方にはお使いが終わって数学を教えてもらう予定だったのに帰ってこない。アリスは何の連絡もなしにすっぽかすはずも無い。街に探しに行ってみよう。


↑月♡日

今日も、いない。でもきっと明日は俺が見つける。待っててくれ。


↑月#日

アリスを見つけた。でも怒りで狂いそうだ。アリスは廃ビルで吐き気を催すような残酷な人体実験をされていた。身体中ボロボロで、美しかった顔も体も変色したり、変形したりして、人間らしくない。でも俺は一目でわかった。心が通じあった。そんなことはどうでもいい。ぶっ殺す。あいつら全員。アリスは女としての役目を果たせないどころか人間として生きれるかも怪しい、なんて旭先生は言ってた。実際アリスはそこだけは変わらない美しい声で「殺して」「やめて!」「嫌!」「見ないで」なんて譫言を繰り返すばかりだった。だから願った「俺の大切な人達からこの辛い記憶を消してくれ。そしてアリスの身に起こったことを無かったことにしてくれ」って。そしたら──も喜んで協力してくれた。対価は多分、寿命だろう。それはそうだ。痛みの対価は嫌という程貰ったから。こんな重い願いの代償は命で支払う。幸い、自分が死ぬ前にあいつらを滅することができるだろう。協力者も解放した。明日から、開始だ。









+月=日

今日も、奴らを殺した。けれど、三人やられた。錆まみれで死んでた。ごめん。救えなかった。お墓を立てなきゃ。


+月±日

今日も、十二人やられた。みんな目を抉り抜いて発狂してた。奴らの反撃も手痛くなってきた。仲間も、俺も疲弊してる。でもみんな着いてくる。はやくぶっ倒しに行こう。


+月ღ日

ついに仲間の数も二桁を割った。もう何回願ったか分からない。頭いたすぎてぼーっとしてくる日も増えた。みんな、元気にしてるのかな。それと、もう俺の寿命もあと少し。願いは慎重ににしなきゃ。でないとみんな元に戻ってしまう。


+月♦日

今日、親玉らしき存在を討つ。もう五人しか居ないけれど、彼らの死は無駄じゃなかった。


-月〇日

ごめん、しゅうじ。おれがぼーっとするばかりにけがさせた。あしきれて、ちがどばどばでてた。ごめん、れっさー。ごめん、にー。おまえらのことすくえなかった。あがら、しーな…ごめん、おれもだめそうだ。もじがふるえてよくかけないし、みえない。あたまもいたい。ぜんしんがだるい。びょういんにいることしかできなさそう。ふがいない。ごめん、ありす…やくそくはたせそうにない。


-月×日

ありすとせんせいがみまいにきた。うれしかった。なんでそんなになきそうになってるの?こうして、かえってこれたよ。みんな、なにもしらないんだっけ。あぁ、がっこうかぁ…いきたかったなぁ。もっとちゃんとしたみんなのはかもたててあげたかった。みんなのせいふくすがたとかもみたかったなぁ。ありす元気、よかった。もう、おれはしぬよ。


-月△日

しにたくない。いやだ。こわい。たすけて。こわいやだごめんこわい。やくそくまもれない。だれかたすけておねがいしにたくない。まだ、しにたくない。いやだ。もういたいのはいやだ。


-月□日

ありす、ごめん。やくそくまもれなかった。どうか、すこやかに、しあわせに。さようなら。


月 日




月 日




月 日




月 日

王としての使命が私を、救わない。ごめんね、スピネル。君は私になってしまった


そしてこれは都合のいい、偽りの物語だよ

月 日




月 日




月 日





月 日








月 日





月 日

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る