Pretender

たまマヨ

Prolog

少女の願い

――ねぇ、アシュ。あなたは、今自分たちは治療を受けられているから幸せだ、て言ってましたよね?

――それ以外の幸せを知らないまま。

――あなたはいつも病室から出歩いて屋上から夕焼けを見ていましたよね。そして屋上へ上がって来た私に世界の美しさについて目を輝かせて話してくれましたよね。

――白い箱庭の外から見える夕焼けだけを見て。それ以外は何も見れずに。盲目に。

――ねぇアシュ。幸せってなんですか。

――ねぇアシュ。…幸せでしたか?

――ねぇ…アシュ。――私を、ひとりにしないで…。



星空が描く幻想的な夜に少女は願う。

幸せな日々がまた戻ってくるように、と。

仄かな幸せは瞬く星のように淡く、消えていく。

幾度、幾つの願い事をしただろうか。

幾星霜、闇の中をさまよっただろうか。

幾度涙を流しただろうか。

幾つもの願いを犠牲にしても少女は生き残ってだけれども幾度幸せな夢を願ったって少年は自分を犠牲に少女を助けてしまった。

決して裁けない罪。

しかし少女を未来永劫蝕む罪。

決して消えない咎人を示す手枷。

あぁ、と少女は嘆く。



――何故あなたなのですか。

と、代わりに残された少女は憤る。


――何故悠々と日々を生きている人ではなくて幸せを知らない子羊を神は御元へ連れ帰るのですか。


と、神など信じていない少女は泣き叫ぶ。


――何度悔み、贖えばこの罪は許されるのですか。

と、罪人である少女は縋る。


――赦しを乞うその相手は誰なのですか。

と、泣き腫らした少女は問いかける。


――私は…どうすれば…。

と、孤独な少女は――絶望する。


何度も懺悔し、後悔するうちに涙は枯れ、善も悪も神も感情すらも凍りついたのかもしれない。

それでもそれを溶かしてくれる暖かさが確かにあった。

しかし、それで満足するには決定的に足りないものがある。

篝火に当たるには孤独である事はあまりにも小さすぎた。

大切な人を失うには少女は幼すぎた。

ただ自分自身に対する怒りとあの日の光景が脳裏に焼き付いて渦巻く。

激情は枯れ果てて悪戯に時を過ごして星空に願い事をする事が増えた。

そこに存在するのは美しくて儚くてそして―


――誰かいっその事全て壊して――夢だと言ってください。でないと私は――世界を―。


――それは破滅の予兆であった。

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