声を出せない僕は、愛を語る資格があるのか

寿々樹ノ葵

プロローグ

 僕は、56階にあるダンジョンにいる。

 何をしているかといえば、底なし沼に一人で、はまっている。

 モンスターが底なし沼にはまり、助けたまではよかったが、同じようにはまってしまったのだ。モンスターも、底なし沼から助けられると、直ぐにいなくなってしまった。


 あと三時間もすれば、確実に頭まで、沈んでいるだろう。

 三時間前は、膝まで沈んでいる状態だったが、今は、腰まで沈んでいる。

 普通なら、声をだして助けを呼ぶんだろうが、

僕には声を出せない理由があった。


 これまでの出来事を、振り返りはじめた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 思い起こせば、3か月前、この世界に転移したきた所からだ。


 僕は、運が良かった。

 転移した際に、必殺箇所点検知のユニークスキルを貰えたんだから。


 このスキルは、モンスターの弱点の位置がわかるスキルだ。

 この弱点(点穴)を通過することができれば、どんなモンスターだろうが、全部一撃で倒せる。


 動かない相手であれば、絶対に勝てる。

 どんなに苦戦してても、一撃入れれば倒せるんだから、

ワンチャンスが毎度あるみたいなものだ。


 だけど、ただの高校生だった僕には、動いているモンスターに一撃をいれることは、簡単ではなかった。

 ゴブリンを相手に一撃をいれることすら、難いんだから、

退治することなんか、無理ってもんだ。


 だから、早々に僕の代わりに攻撃してくれるメンバーを探すことにした。

 だが、直ぐに挫折した。LV1の冒険者を組んでくれる

パーティなんか存在しなかった。当然だ、戦力にならないんだから。


 だから、自分のスキルが如何に有用かをどんなに説明しても、誰も信じてくれない。それでも、初めて出発する冒険者のパーティに報酬はいらないからといって

紛れ込むことに成功した。


 これも、思惑通りにはいかなかった。

 相手がゴブリンのためか、かけだしの戦士でも一撃で、倒してしまう。

 後ろで、僧侶と一緒に歩いているだけの人だった。

 それでも、ご飯がもらえたから、その日は満足した。


 この冒険をつづけることで状況が好転した。

 同じパーティに参加することで、たまに、違う冒険者が参加することがあった。そういったことで、顔をうれていった。


 そこから、彼に付いて、いろんな人のパーティに紛れ込むことができた。

 今考えると、安価なポーターの役割だったんじゃないかと思う。

 報酬なしで、危険なところにつきあうんだから。


 一か月ぐらいを過ぎたころには、中級パーティに紛れ込むことができた。

これが大きな転機になった。

 なぜかっていうと、アーチャーがいたからだ。

 アーチャーは、不人気な職業だ、矢が無くなった時点で、戦力外になってしまう。だから、今までアーチャーのいたパーティはいなかった。


 僕は、アーチャーにユニークスキルの話をした。やはり、最初のうちは信じてもらえなかった。

 事態が変わったのは、数戦後のトロール戦だ。


 トロールは、戦士が必死に攻撃しても、直ぐに回復していた。

 アーチャーの矢傷なんて、何も価値がなかった。

 邪魔にならないように僕と後ろで眺める事しかできなかった。


 この時に、スキルの事を再度話し、駄目もとで、攻撃してもらった。

 動きの遅いトロールに 狙い通りの所に、矢を当てるなんて、簡単な作業のようだ。

 あんなに、戦士が何回も攻撃しても倒れなかったトロールが、

肩に一矢いれるだけで、倒したんだから、驚愕し、そして、絶賛した。


 アーチャーが、事の次第を周りに説明をしたことで、パーティのみんなが、僕と僕のスキルを信じてくれるようになった。


 これで、おかれている状況は一転した。足手まといから、戦力に格上げになった。

 アーチャーは、戦闘が始まる前に、どこに矢をうてばいいか聞いてくる。

 戦士がモンスターの足を止める。

一矢いれるの繰り返しで、短時間にモンスターを討伐できた。


 アーチャーの集中力が無くなるまで、倒し続け、大量の報酬をうけとり、

うはうはのまま、ダンジョンを後にした。


 みんなで、酒場にいって、祝勝会をした。

 僕は初めて涙が出るほどに喜んだ。転移してから、はじめてだ。

 嬉しくて興奮し、夜はなかなか眠れなかった。


 リーダーは、他のパーティにも吹聴して、稼ぎを自慢した。

 次の日からは、他のパーティからの誘いが増えていくことになった。


 昨日のアーチャーに断りをいれ、違うアーチャーに付いて行くことにした。

 そちらの方が装備がよかったからだ。きっと、強いところまで、ダンジョンを潜っていくだろう。この時の僕は、目先の報酬しか目に入っていなかった。


 想像は、当たっており、より高い階層のダンジョンに上がっていった。

 戦いは、常にスピーディに決着がつき、より多くの報酬をゲットすることができた。この日も、ぎりぎりまで戦うと、沢山の報酬を分け合った。


 毎度毎度、最高報酬となることが分かっているため、

アーチャーがいるパーティからの依頼は、途切れることはなかった。


 そんな日が、一か月ぐらいすると、さらなる好機が訪れた。

 それは、勇者のパーティへの参加だ。

 評判をききつけて、わざわざ僕に会いにきたのだ。

 僕は、心が躍った。


 だが、そんな思いも、ダンジョンに入る前だけだった。

 相手が怖すぎるのだ。

 巨大なミノタウロスが振るう斧、デーモンが放つ巨大な火玉。

 一回でも掠ったら即死な状況だけに、心が落ち着く暇がない。


 そんな強敵も、魔法使いの魔法で、一回で戦闘が終わっていった。

彼女は圧倒的の強さだった。勇者も、アーチャーも、出番はなかった。


 勇者のパーティは、男性は、僕と魔法剣士だけだった。

 彼と雑談を話すことで、理由が分かった。

 ダンジョンを知るガイドがほしかっただけだった。


 そんな僕とアーチャーにもチャンスが出てきた。巨大なドラゴンが寝ている部屋にはいったのだ。

 40メートル級の大きさに、彼も魔法使いも手を出さないで、戻ることを相談している。


 ここぞとばかりに、提案をした。

一撃さえ入れることができれば、討伐することができるのだ、


 フロアにある無数のお宝もゲットできる。

 魔法使いが欲がでたのか話をきくと、協力的になった。

 当然出番のなかったアーチャーは、やる気満々だ。


 ドラゴンをじっくりとみて、点穴の場所をさぐった。そこは、瞳の下だった、アーチャーに伝えると、ゆっくりとうなずき、弓をつがえた。

 貫通させるかのように、最大まで弦をひくと、解き放った。


 流石に勇者が連れている最上級のアーチャーだ、

 寸分違わず、狙ったところに射抜き、ドラゴンは一撃のもと、討伐された。


 勇者を含め、みんなは、面白かったのか、喜んでいる。

 やってよかったんだと、自分が納得できた。


 ドラゴンは、いろいろな武器や防具、お金や宝石をもっていた。

 勇者たちは、宝物にまったく興味を示さず、そのまま、通り過ぎようとしている。


 僕は、財宝のなかにあった、一つの指輪が目にはいった。


 おもむろに、指輪に指を通すと、

 <<あなたは、呪われました。>>

 と脳内に聞こえてきた。


 驚き、声を上げようとするが、話すことができない。


 指輪を付ける様子をみていたパーティに、

 ジェスチャーで伝えると、意図を感じ取ってくれた。

 僕は、慌てて、指輪を外そうとしたが、外れなかった。

 魔法使いが魔法で、見てくれると、

 「沈黙」のスキルが指輪にかけられているとのことだった。

 僧侶が解呪の呪文を唱えてくれたが、何も解決はできなかった。


 直に街に戻り、呪いのことを、魔法剣士から、教えてもらった。

 勇者パーティは、呪いのプロフッショナルで、特殊な条件をクリアできないと、解呪できないことや、西の大陸にいくと、何でも叶えてくれる青竜がいることなんかを教えてくれた。青竜にあうのは、難しいってことも教えてくれた。


 勇者のパーティ全員は、心配してくれていたが、

この後、北の大陸に行く必要があるとかで、解散をした後は、2度と会うことはなかった。


 ありがたかったのは、ドラゴンの討伐で得たゴールドや財宝、魔法のバックを全て僕に譲ってくれたことだ。

 これで、僕はこの町の誰よりも、お金もちになった。

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