第139話魔王とモフと結婚記念日と3
「いらっしゃいま、わわわ、魔王様!」
「こんにちは、初めてなんですが」
「あ、はい!お二人…………でよろしかったですか?」
「はい」
受付には人間の女の子がいて、二人を見て驚いたようだったが直ぐに全て分かったような顔をして手続きをしてくれた。
女の子に二階へ案内されて階段を上がっている間も、クロは口数が少ない。
「人間の国で流行っていたカフェなんだけど、先月うちの国にも遂にオープンしたの!忙しくてなかなか来れなかったから、マジ嬉しい!クロも楽しもうね」
「……………………レティ。楽しむって、お前…………」
「ん?」
何やら二人に気付いた店員とお客がざわついている。
「あの二人、魔王様夫婦だわ!」
「やっぱり来たのね、魔王様はモフ好きだって話本当だったんだ!」
レティは立ち止まると、きょとんと首を傾げた。
「クロ、いつから私よりモフ好きになったの?」
「お前のことだろ」
「え?」
頬を染める旦那を訝しげに眺める彼女の耳に、おかしなことが聞こえてきた。
「結婚されてから、毎夜毎夜レイ様はレティシア様にモフられて癖になっているんだって!もうモフられないと生きていけない体になってるって話だから、レティシア様は、さすが魔王よね」
「そのモフ手腕は、自ら尻尾を差し出してしまう程堕落させてしまうらしいよ。凄いよね、魔王レティシア様は!」
なんですと!!
「そんな風に言われてたなんて知らなかった。わあ、最高の賛辞もらっちゃったよ」
「くっ、俺の奥さんは『モフ魔、王』…………良いんだ、事実を否定することはない。だがなぜそんな夫婦の秘め事が知られているんだ?」
ブツブツと呟くクロより先に二階に上がったご機嫌なレティの前に、夢と希望の世界が広がっていた。
猫ぐらいのヒヨコ、マイクロブタ、長い毛のふわふわした犬、犬ぐらいのポニー…………………のような下級魔族が愛想を振り撒いていた。
「………………なんてことだ」
一応魔王のはずのクロの支配下に置かれていなければ、農作物を荒らして人間を傷つける危険のある下級魔族が「え、牙や爪なんて抜かれました」みたいなあざと可愛く尻尾をフリフリ客に媚を売っている。
「お前達それでいいのか!魔族としての誇りはどうした?」
客層は主にこの国に移住してきた人間向けのようで、若い女の子のグループやカップルやファミリーと多くの人々が、下級魔族の毛を撫でたりペット用のオモチャで遊んでいる。よく見れば上級魔族の親子もいて、母親はこちらに気付くと目を逸らした。
レイは呆然とそれを見つつ、自分の言ったことに「あんたが言うんかい?」とツッコミを入れると期待したはずのレティが何も反応しないことに違和感を感じて彼女を窺った。
「レティ?」
名を呼ばれてレティは我に帰った。
「は………………ハアハア、も、モフ、モフモフモフモフモフモフ」
「おい、正気に戻れ!」
「モフううううううう!!」
ダメだ目がイッテる。
クロの声も届かないようだ。フラフラと下級魔族の元へと吸い寄せられた彼女は、夢中になってモフり始めた。
「うへへ、モフっ、モフっ、くふふ」
「れ、レティ……………」
恍惚とした目。ヨダレを垂らしかけただらしなく半開きになった口元。そこから「モフ」が呪詛のように流れている。
そしてそんな彼女のモフりのテクニックに、まんざらでもなさそうに膝の上で目を細める下級魔族を見たクロは、グッと拳を強く握り締めた。
彼の心は、どす黒く醜い感情で染まっていった。
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