第137話魔王とモフと結婚記念日と
王様がこんなに大変な仕事だとは思わなかった。
元聖女深紅ことレイ・レティシア国の女王レティシアは、執務室のテーブルにガクリと顔を沈めた。
今日、彼女は馴染みの竜に乗り地方へ公務に出掛け、終わったらトンボ返りで書類仕事に追われていた。
「ギルさん、私には荷が重いです」
隣でビシバシとあれこれ指示を出す部下のはずのギールバゼアレント。
「まあそうでしょうね、あなた馬鹿ですから。この一年ほど、よくボロが出ずにやってこれましたよね。流石は元聖女の奇跡とでも言っておきましょうか。まあ長くもった方です、馬鹿な割には」
「そんなはっきり本当のことを!」
「認めてるんですね。物質的にも重そうですしね」
「ふえっ?」
そう言われたら、ズシリと背中が重い気がした。
「クロ、いつの間に、きゃう!」
レティシアの背中にベッタリと元魔王ネーデルファウストが貼り付いている。
「ハアハア、ほ、補充…………補充しなければ。レティ最近構ってくれない、もっと………もっと」
「ひゃあ!」
首をベロリと舐められて、驚きと共になぜか虚しさを感じるレティシア。
「うう、ギルさん王様変わってえ。もうやだあ。心身共に色々と疲れたよ」
「嫌ですよ、面倒臭い」
魔族特有の獣のような耳を後ろに撫で付けながら、ギールバ(以外略)は疲れたように拒否った。彼は魔王不在の数百年間、ほぼ一人で元魔界の政を遣り繰りしてきた陰の実力者だったりする。
「え、俺を忘れてないか?」
レティを後ろから抱き締めながら、元魔王(通称レイ)は不思議そうに彼女の頭に頬擦りしている。
「…………………知ってますか?最近世間ではレイ様はレティシア女王の飼いイヌだと言われているんですよ?」
「は?」
「え、そうなの?皆よく分かってるね」
特に否定する部分は欠片もないので、レティシアは納得していたら、クロは不満そうに彼女の髪の匂いをくんかくんかと嗅いだ。
「飼い犬だと?ふっ、堕犬の間違いではないのか?」
「えっと…………」
自ら宣言されたりしたら、何も言えない。君は本当にそれでいいのか、マイダーリン。
「分かっていないようですね、いいですか!」
目の前でベタベタされても慣れてしまったギルは、バンッとテーブルを叩いた。
「巷では、レイ様は嫁の尻ばかり追い掛けるのに夢中で、政務を嫁に任せて飼われていると言われているんですよ。良いんですかそれで」
「…………………間違いではないな」
うんうん、と頷くレイに、レティ(段々と略称)も一緒に頷いた。
冷めた目でそれを見るギル。
二人はこの国では一目置かれるイチャイチャバカップ…………おしどり夫婦なのだ。
「だがレティに政務を押し付けてるように言われるのは癪だな。よし、協力する」
レイはレティから一旦身体を離すと、彼女の隣に椅子を持って来て書類に目を通しだした。
なんかブツブツ言いながら仕事をしているので、レティが耳を寄せると「夜に一人寝の寂しさを味わうのは嫌だからな、俺はレティのあったかくて滑らかな肌を、あ、味わって舐めまくって、ハアハア」と息を荒くしながら書類にペンを走らせていた。
「れ、レイ君」
「お前は休んでいていいぞ。今・の・内・に・にゆっくりしていろ」
「待ってください、この溜まった書類を消化してからにして下さい。後でレイ様には、他に橋の視察とか他国との交易についての説明とか色々してもらいますから」
「え!?これだけじゃないのか?」
「うちの王は、馬鹿ですからね。なかなか仕事が終わってないんですよ。まあ元魔王も犬ですからあまり期待していませんが」
月日を重ねるごとに、辛辣さに磨きがかかっていくギル。なぜだろう。
「ほら、二人でこれチャッチャッとやっちゃって下さい。頑張ったら来週は1日休みをあげますから。もうすぐ御結婚一周年ですよね?」
ギルが、ドサッドサッと書類を重ねながら言ったことに、二人は顔を見合わせた。
「そうだね!レイもう一年だね!」
「一年……………そうなのか?結婚して半年ほど不在だった気がするが、まだ新婚な気持ちなんだが?」
お祝いどうするかなあ?
今思い出したレティは、堕犬の頭を撫でながら考えを巡らした。
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