第127話君が戴く世界の明日

「…く、は、放して」




 私は部屋から出ようともがいていた。


 早朝の魔王の部屋の前。


 私は扉にしがみつき、部屋の中へと両足を引っ張られるのに抵抗していた。




 私の足を魔力で巻き付けた変態の息が荒い。




「はあはあ、離さないからな。まだレティが足りない。久し振りなんだ、今日は1日俺とイチャイチャしよう」




 なんとか気付かれないように、眠っている彼を置いて部屋を出たところで、いきなり魔力によって足を掴まれたのだ。何このホラー!




「や、やだ!ダメだって!今日は大事な日で」


「俺よりも大事なことがあるのか?いやだ、ずっと一緒にいるって言ったじゃないか!」


「いやいや、だからってホントにべったり一緒じゃなくても」




 ズルズルと部屋に連れ込まれかけて、そういえばこういうシーンって本なんかじゃ、引きずり込まれたらお仕舞いなんだよなと思った。




「ぎゃあ、助けて、喰われるう!!」


「うん、間違いじゃない、観念して俺の元へ来い!」


「うきゃあああ」




 次第にやり取りに楽しくなってきた頃、顔を上げると直ぐ前にギル兄が立っていた。




「は、ぎ、ギルさん!」


「…………何やってんですか。朝からイチャイチャと騒がしい」




 冷たい眼差しが、私に降り注ぐ。




「いや、あの、放してくれなくて」


「……気持ちは分かりますよ。ようやく再会して1日しか経っていませんからね………ですがレイ様、レティシア様を放して差し上げて下さい」




 扉の向こうから、不服そうな唸り声がした。




「イヤだ、なぜだ?」


「今日は忙しい日なんです。主役がいなければ始まらないでしょう?」


「何のことだ?」




 レイの問いに、ギル兄が私を睨む。




「説明してないんですか?」


「……………それどころじゃなくて」




 私は羞恥で目を反らした。


 ギル兄は呆れた顔をして私を跨いで部屋へと入り、バコっ、とレイの頭を叩いた。




「目を覚ましなさい!彼女を放しなさい!ついでに服を着なさい!」




 驚いたのか、緩んだレイの魔力から抜け出すと、私はギル兄の背後に回った。




「あ、レティ!ちっ、ギル、この俺に楯突くのか?!」




 偉そうに言ってるけど、レイ君、あんた下にシーツ巻き付けただけの姿だかんね。




「ええ、私は魔王に従いますからね。今日は魔王様生誕19年の祝いの日、レティシア様は忙しいのですから邪魔をなさらずに」


「…………………………………んな?」




 ぽかんとしたレイが私をじっと見ている。




「え、ええと、レイ君、あのね……」




 ギル兄がくいっと顔を上げて、私の手を恭しく支えた。


 こ、これは、出るか、厨二が!




「こちらにおわす方をどなたと心得る?先の魔王にして、魔界改めレイ・レティシア国女王レティシア陛下であらせられるぞ!」


「ひゃああ!それ印篭出すやつ!」




 いたたまれずに悲鳴を上げている私を見たまま、レイは固まった。




「……………………………………………………………………は?」




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