第75話君を我が手に5
聖女紫は、12人の仲間と共に魔王軍と戦った後、とある国の王子との縁談が持ち上がった。
「え、なんで?うち帰りたいんだけど」
仲間達は、憐れみと呆れの眼差しで彼女を見た。
「帰れないって、ここの人達言ってたよね?聞いてなかったの?」
「だっけ?ええー、まじ?チョーふざけてんな」
仲間達の中には、自由にしたいからとさっさとどこかへ行ってしまった者もいた。あるいは、この世界で直ぐに彼氏を作って、手を取り合って姿をくらました者も。
ぼうっとしていた紫は、縁談に捕まってしまったのだ。
でも一度顔合わせたら、向こうから断ってきて破談になった。
なぜ断られたか、よくわからなくて、でもホッとして彼女は考えた。
「そうだ、魔界行こう!」
周りの言いなりで、振り回されてちゃダメじゃん自分。どこか遠くで暮らそうぜ自分!イコール魔界。
そうして、ひょっこり来てみたわけだが……
普通なら戦った相手のとこなんて行かないだろうけど、紫は軽いノリとおおらかな気質で、そんなこと考えなかった。
そして魔王は超真面目な割りに押しに弱かった。
最初こそ警戒していた魔王だが、直ぐに彼女が頭空っぽだとわかり、放っておけない性格が災いし、あれこれ世話を焼いていたら……いたら、子供ができた。
「あり、まじで?やっば、うちママじゃん!」
「す、すまぬ……取り敢えず責任取る。私と結婚を」
「え、まじで、デキ婚キター!!」
そうして魔王と聖女紫の間に、双子が生まれました……おしまい
*************
「双子?!」
「ああ、俺には妹がいた。メーベルシュライカ、母は一花いちかと呼んでいたな。どうせなら二つ名って魔王の子供らしくていいんじゃね?みたいなノリで付けられた名だ。『最も初めの者、零の次だから1』みたいな軽さだ」
「へ、へえ……でも意味があるんだよね?」
レイは名前が恥ずかしいらしい。渋い顔で答えた。
「……魔王と聖女の……いや、魔族と人間の間にできた最初の子供達、友好の証みたいな意味だったか……」
「なるほど。お母さんは皆仲良くして欲しくて、レイやイチカちゃんに願いを込めたんだね。良い名前だね」
私の髪を弄るお返しに、私もレイの短い髪を撫でてみた。
「母は90で死んだが、最期まで弾けておかしなヒトだったな。魔王……父とは老いても仲が良くて母を亡くした後は、早く彼女の元へ行きたいなどとほざいていた」
「そうなんだ………」
私は『聖女の術一覧』の開いたページを指で何度かなぞり、手順を頭に叩き込んだ。
解術の方法が示されていて、これを応用すればおそらく封印を解くことができるかもしれない。
あとは、自分の実力の問題だ。
レイは話を切ると、私が本を閉じるのを待って身を寄せてきた。
「レイ、イチカちゃんはどうしたの?」
「……もういない」
「………レイ」
私の肩の辺りに顔を埋めて、レイはそれっきり黙ってしまった。そんな彼の髪をしばらく撫でていたが、レイは目を瞑ったままスリスリと甘えるような仕草をとる。そして次第に移動して、胸に頬擦りを始めだした。
大人ワンコが甘えるのは可愛いだけじゃなくて、破壊力がヤバい。
「レ、レイ君、あの…」
「んー」
「そ、そういえば私のお母さん達に何を話していたの?」
心臓の音が聴こえるのを誤魔化そうと、話題を変えてみる。同時にレイを引き剥がす為、体を捻ろうとした。
「明日話す……妹のことも」
がっちり私の頭と肩をホールドしつつ告げるレイの沈んだ声音に、話しにくいことなのだと気付いた。
「レイ」
「………レティ、モフらせて」
「へ?」
「前言っただろ、褒美で」
「あ、うん、わかった!」
私は素早くレイの尻尾を掴んだ。
「うあ!ち、ちがっ、俺が、俺が!」
「何も考えられなくなるぐらい良くしてあげるね!」
力が入らなくなるらしく、レイはホールドの腕を弛めた。抜け出した私は、ズルリとベッドに突っ伏したレイの背中に頭を預けて横になり、尻尾をモフることに集中した。
「ほら、気持ちいいでしょ?ご褒美だよ。レイ君。あれ、これ私のご褒美だっけ?まあいいか」
「い、いい加減……俺に、モフらせ、あ!」
「明日なんとかするから、今だけは快楽で忘れていいんだよ。ひひ、さあイキなさい。快楽の虜となるがいい」
レイは赤い顔をして、ぷるぷると体を震わせ私を睨んだ。
「お前、セリフだけ聞いたら、それ……ああっ」
「はあはあ、ありがとう、もう二度とできないと覚悟したモフりが、うっ、ありがとう!ほら、力抜いて……」
「俺をモフるなど、お前ぐらいだ……くっ、もうやめ」
こうして私の耽美なモフりな夜は更けていった。(魔界編最初へ続く)
「わざとだろ、あう」
「何が?ここ、好き?」
「ああ!うっうう」
尻尾の根元を指で擦ると、呻いて息を切らした。
「そういえば、レイは耳は普通だよね」
「はあ、はあ」
「ああ、半分人間だから?」
「……今気付いたのか」
「耳もあったら更にモフれたのにね。いや尻尾だけで十分だけど」
「ひ……」
魔王の息子レイは、怯えたように息を呑んだ。
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