第42話君と私の知ってる秘密2

「わあい、海だ!海海!」




 冷めた目をしているクロを放置し、私は子供のようにはしゃいだ。


 砂山を作り、蟹を追いかけて、波から逃げる。




 初めての海だからというのもあるけれど、わざと気持ちを上げてる。


 セリエ様は、私達がいたせいで寿命を縮めたようなものだ。あんな弱った体で魔族と闘って、負担にならないはずがない。




「ひゃあ、冷た!」




 スカートを持ち上げて、バシャバシャ波を蹴って遊んでいたら、クロが近くに座り、じいっと私を見ている。




「クロも入ってごらんよ」


「………」




 首を振り、頬杖を付くとクロは私の足を見続けている。


 まるで絵画でも鑑賞してるような一見真面目な表情で、口元はゆるんでいる。何が楽しいのかよくわからない。




「うりゃ」


「あっ」






 海水を片手で掬って、クロにかけてみる。


 髪と顔を濡らしたクロは、顔を振って水気を払うと、じろっと私を睨んだ。


 よし、掛かった!




 スカートを持ち上げたまま、波打ち際を走る。




「悔しかったら、ここまでおいで」




 だいぶ遠くから呼んでみたら、挑発に乗ったクロが、ゆっくりと立ち上がった。




 私がこの間読んだ恋愛小説であった、ラブな場面が再現できるかもしれない。


 そう確か波打ち際を走る女の子を男の子が、待てよなんて言いながら追い掛けるキラキラシーン。




 夕焼けをバッグに二人で追いかけっこなんて、素敵だよね。一度やってみたかったんだ。相手はクロだけどね。




「へっへーん、追い付けるかな?」




 クロが私を見据え、シュバッと地面を蹴った。




「ク…!!」




 あ、目にも止まらぬ速さってコレだ。気付いた時には、私は砂浜に俯せに倒されていた。




「くっくっくっ」




 私の背中に乗っかったクロが喉を鳴らして笑う。嫌な予感しかしない。




「ク、クロさん!うひゃあ!」




 赤い髪のまま染めるのを忘れたそれを横に流すと、クロはうなじをペロリと舐め上げた。擽ったいのとゾクゾクしたものが背中を伝い、身を捩ろうとするけどできない。




「あ、やめ、んんっ」




 舐められて息と声を乱したら、クロは更にしつこく舐める。




「く、クロ、うなじは、ダメ、なんか変」




 そう言うと、クロは一瞬動きを止めて、益々舐め舐めを繰り返す。




「ハアハア」


「ん、あ、ん、そこ、ダメ」


「ハア…ハアハア」




 異様な雰囲気に涙目で後ろを振り返ると、クロの方が息を乱していた。


 いつかの変態化した私と重なる。




「ク、ロ!?」




 うなじ舐めを止めたと思ったら、一度起き上がったクロは背中を押さえつけながら、私の生足に触った。




 ふくらはぎを、つうっと撫でて、スカートの中に手を入れて太腿に触ろうとするので驚く。




「ク、ロ、それは…」




 ペットは飼い主に似るって言うね。私もクロも、変態か?!




 足をバタバタしてたら、通りすがりのカップルさんが、くすくす笑って見ていた。




「仲が良い姉弟ですね」


「こらこら僕、お姉ちゃん苛めたらダメだぞ」




「わ、わわ…」


「……………………」




 クロが無表情で私を解放してくれて、慌てて起き上がる。去っていくカップルを見送り、なぜか背徳感に打ちのめされる。




「………クロ君、私……なんとなくお嫁にいけなくなるようなことされてる気がしてきました」




 なぜ嬉しそうに頷くのかな……




 やられたらやり返す!取り敢えず10倍返しで。




 私は座るクロの前に手を出す。




「クロ、お手」


「…………」




 仕方無いといった感じで、クロは私の手にポン、と手をのっけた。




「おかわり」


「……………」




 怠そうに、もう片方の手を差し出すクロ。




「3回回ってワン」


「く…」




 屈辱に、命令を無視して私を睨むクロ。にやりと私はほくそ笑んだ。




「あれ、おかしいなあ。服従の術で私の命令に従うはずなんだけどなあ」


「………っ、わん」




 死んだ目をして3回回ってワンをしたクロは、ぎりぎりと歯軋りしそうな様子で悔しそうだ。




 自分でさせたにも関わらず、私は感動にも似た嬉しさが込み上げてきた。ついでにチン**もさせようかと思っていたけど、あまりに健気なクロが可愛すぎるから充分だ。




 何でそこまでして……私に付き合ってくれてるの?




 睨むクロの髪を優しく撫でて、頬を撫でると私の手に擦り寄り、直ぐに目を細めたクロを私は見つめた。




「クロ」




 きゅっと抱き寄せると、応えるように抱き締め返してくる。私を包もうと精一杯腕を伸ばすクロが、泣きたくなるほど嬉しい。




「クロ、私のことが好き、なの?」




 顔を上げて、クロは私を見て口を開こうとした。




「っ、あ」




 途端に自分の肩を押さえて、クロは目を瞑った。




「どうし…」




 痛そうに身体を丸めたと思ったら、クロの身体がみるみるうちに成長を早めた。服がびりびりと破れ、背が伸び、体格も大人へとまた近付く。


 深く息を吐き、ゆるりと上げた顔に息を飲む。




「……い、イケメン」




 14、5歳だろうか。美麗な少年は、同じ高さで私と視線を絡ませた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る