第24話君と共に3
私は緊迫した場面になると、考え事をしてしまう癖がある。どうでもいいことを考えて、不安や緊張感から
逃れようとしちゃう。先生にも指摘されたんだよね、注意力散漫になるからって。
私の体から、白いオーラが立ち上る。
油断してクロを危険な目に遭わせた後悔と怒りに、握った拳が震える。
「…よくも!」
詠唱を唱えようとしたら、巨体に似合わないスピードで『ヨルさん』訂正『へび』の尻尾が私目掛けて振り下ろされた。
「くっ、う」
結界に守られて無事だが、そのまま地面にめり込むような圧力が掛かる。両手を突き出して結界の維持を図るが、へびがぐねぐねと私を潰そうとのし掛かってくる。
その間にも、クロ達はぎりぎりと締め付けられていて、私の張った結界が潰されかかっている。
詠唱には時間がいるし、結界が消えたらクロ達はすぐに潰されてしまうだろう。
一旦下がったへびが私を見据えると、シュル、と周りの木の間から蔦が伸びてきて、私の結界に這うとぐるぐると巻き付いてきた。
「樹木魔法!?」
魔族の中でも上級魔族やレアな魔族だけが行使する力。ヨルムンガンドは、樹木魔法を使えるらしい。
「……クロ」
蔦に覆われた結界が引きちぎられて、衝撃で私は壁に背中を打ち付けた。腕や足に蔦が絡み付く。
私が目を向ければ、へびの頭の後ろで巻き付かれたままのクロと目があった。私の術の中で、今最短の詠唱を唱える。
「我、服従の術を解き、彼の者に自由を与えん」
解くのは簡単。解術を与えたクロの金色の目が鮮やかさを増して、驚いたように見開かれる。
「クロ、私のイヌから解放する。本来の魔族の力を振るうことを許すわ」
両手を蔦に頭上で縛られて、吊るされるような形になって私はクロを見つめた。
「グ……あ?」
体から黒いオーラが勢いを増し、クロは驚きをすぎると、にっと邪悪に笑った。
とぐろから自分の片手をずぼっと引き抜くと、その手に闇の魔力がわだかまる。それは大きな爪の形を取り、軽く振りかざして下ろすと、へびの身体がブチリと両断されてしまった。
どす黒い血がドバッと吹き出し、地面を大量に流れて行く。その中に、クロとデュークさんが降り立った。
「ごほっ、げほっ、嬢ちゃん!」
膝を付いて咳き込むデュークさんの後ろから、悠然とクロが私に向かって歩いてくる。
「……ク…」
吊るされたまま、呼び掛けて黙る私を見上げたクロは、私の手首と足に絡み付いた蔦を魔力で枯らす。
プツン、と途中で蔦が切れて落下した私を、クロは片手で抱き止めた。
子供の力ではない、軽々と私を抱えるクロの腕を腰に感じて私は緊張に身を固くした。
肩に担がれている格好でクロの表情はわからない。
……………遂に下剋上か
観念して、クロの背中に垂れ下がっていたら、前方に半分こになったへびが見えた。
よく見たら、うねうねと動いていてへびはまだ生きている。分断された胴体がぐねぐねしながら互いに寄ると、ピタッと引っ付いた。
「うわっ」
デュークさんが、気持ち悪そうに顔をしかめている。
再び元に戻ったへびが、何事もなかったように金色の目で私達を捉えると、唐突に地面から木の枝が突き出した。
剣で薙ぎ払ったデュークさんが、追いかけるように何度も突き出る枝から走って逃げる。
クロの足元からも、地面を割るようにして枝が飛び出てきた。
それをクロは私を担いだまジャンプして避けると、魔力を操り、へびの目を切り裂く。
その間詠唱を唱えていた私は、クロの背中越しに術を掛けた。
「動きを止めよ!その身を地に伏せよ!」
へびの動きが止まったところを、デュークさんがもう片方の目を剣で突き刺す。
シューシューと口から悲鳴ともつかない鳴き声を上げ、へびが身を揺らす。
「クロ、下ろして!」
腰に回る手を掴んで体を起こすと、クロはへびから離れたところに私を下ろした。
ひょいと私の手首を掴み、絡み付いたままだった蔦を引きちぎった。無言で足首の蔦も同じようにちぎると、痕のついたそこをつつ、と親指で撫でた。
次の詠唱を唱えていた私は、いやに丁寧なその撫で方に動けずにいた。俯いたクロの唇が弧を描いているのだけが見えた。
地面や天井から縦横無尽に蔦が現れて、私達に群がろうとする。
長い詠唱に蔦を見つめるしかない私の前からクロが離れる。
デュークさんとクロが蔦を切りながら、へびに近づく。
足に蔦を絡ませたまま、デュークさんは動けないままのへびの首に剣を突き立てた。
クロの魔力がぐるぐるとへびの胴体に巻き付き、彼が開いた手をぐっと握り込むと同時に魔力がへびを絞め付ける。
ばたんばたんと苦しむへびだが、再生能力が強いらしく弱る気配がない。デュークさんが攻撃を繰り返すが、傷が直ぐに塞がっていく。
「こいつ、ぜいぜい、キリがないぞ!」
中年のデュークさんの体力の方が削られている。
クロは淡々と蔦を切り、へびを切り裂く。
私に向かおうとする枝を瞬時に枯らして、クロが振り返る。
目が合った時、私の詠唱は唱え終わった。
「我は命じる!我が意志、我が生命により、彼の者、その身の時を止めよ!」
ゆらゆらと私の赤い髪がほどけて波打つ。突き出した両手に白いオーラがたゆたい、指先から糸のように放たれた。
「封印!!」
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