第12話君はペット3

それから、夜になっても朝になってもクロは眠り続けた。




 それが結界から解き放たれた影響だとわかっていたので、私は彼が起きるまで見守ることにした。




 1日目と2日目は、眠ってる間にと思って、町中でクロや自分の服やこまごまとした雑貨を買いに出掛けた。




 そして戻ると、眠っているクロに買ってきた人間の幼児用の寝間着を着せた。間近で寝顔をじっと見て楽しんだり、尻尾をブラッシングしたり撫でたりして、やりたい放題のふれあいタイムを繰り広げた。




 特にもふもふのボリュームある黒い尻尾は、艶やかで絹のように手触りがよくて、いくら撫でても飽きなかった。


 でも力を入れすぎると、驚いたようにビクッと体を跳ねさすので弱く撫でるだけにした。何かあかんやつな気がしたから。




 3日目になると、退屈になって宿のお手伝いを始めることにした。客室の清掃から受付や案内。料理はあんまりしたことないので、運ぶだけ。




 黙々とする仕事は、意外に性に合っていて面白かった。




「この仕事、聖女よりも私に合ってるわ」




 気持ちも弛んで一週間目の朝。


 目が覚めたら、クロと目が合った。




「クロ……」




 目覚めないクロに、段々不安になった私は、クロを隣に寝かせて抱き締めて眠っていたのだ。




 まばたきを繰り返して、周りを見渡し、それから私をまた見たクロは、憂鬱そうに深い溜め息を付いた。




「クロ」


「………ワン」




 一声鳴いたら、また顔をしかめるクロ。


 起き上がるクロを捕まえる。




「グルル!ガウッ、ワ…ワウン?」




 暴れるクロを抱き締めて、その小さな胸に顔を押し当てた。




「良かった、やっと起きた……」




 引き剥がそうと、私の赤い髪を引っ張っていたクロの手が力を弱めた。


 涙で滲む目でクロを見上げて、その髪をわしわしと撫でた。




「もう!寂しかったんだから、クロ」


「ワ…ワン」




 ぐきゅうるるる




 クロの腹の虫が鳴って、吹き出してしまった。眠りの次は、空腹がきたみたいだ。


 お腹を押さえて、恥ずかしそうなクロに服を渡す。




「一人で着替えられる?なんなら、私が…」




 服を奪うようにして、クロが洗面所に駆け込んだ。


 しばらくして出て来たクロに、服はよく似合っていた。


 黒の半パンに白いシャツ。その上に赤のラインが入った黒い長袖の上着を着ている。




「わあ、クロ。良い!素敵!」




 私の絶賛の嵐にまんざらでも無さそうなクロ。




「かっわいい!」




 言った途端に、がくっとなるクロ。何で?




「ん?クロ、目が…」




 金色の目が、黒に変わっているのに気付いた。尻尾もない。(あ、尻尾の穴開けてなかった)




 ぱっとお尻を触っても尻尾の感触は無かった。




「ギャウ?!」


「あれ?もしかして魔力が回復してきてるの?」




  姿を僅かに変えるのは、魔族には初歩の力だ。私の手を振り払ったクロを改めて見ると、結界を解いた時に、一旦弱まっていた魔力のオーラが少しだけ増している気がする。


 それに、心無し背が伸びたような……




「………クロ、ご飯食べさせてあげるけど、その前に約束してくれる?」


「ワン?」




 警戒感が芽生えた私は、真剣な表情でかがみこんで、クロを見つめた。




「ここは人の住む所だから、上級魔族の君が魔力を派手に使ったりしたら騒動になるの」


「ワン」


「だからね、人の迷惑になるような…傷つけたり殺したり、物を壊したりするのはダメだよ。約束できる?」




 仕方なく頷いてるような気がするが、クロは私の言葉を理解しているようだった。


 ついでに、人を食べるか聞いてみたら、低く唸って怒ってきた。


 違うみたいで、今さらだけど安心した。




「もし、それが守れなかったら……飼い主の責任として、首輪とリードを付けるからね?いい?」




 念を押すと、潤んだ瞳で私を睨んで吠えた。




「グルルウウ、ワンワン!!」


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