異世界にラップバトルで挑む男

狐狸夢中

第1話

「は!てめぇのラップは届かねぇ!

俺が撃ち抜くかショットガンで

俺こそがふさわしい日本一

俺が教えてやるぜラップの真の意味

所詮お前のラップは自慰行為

どうした?なんだか緊張気味?

頼むからなるなよ自暴自棄

俺は見たくねーぜお前の死亡記事」



くそっ!やっぱマンダは強ぇ。あいつのラップが俺の全身にビシビシ響くぜ。会場も大盛り上りでマンダ寄りだ。だがな、このガブ様は負けねぇ。

俺こそが、日本一のラッパーになる男だ!


「俺は死なねぇ マンダのラップじゃ

君のは未完成 ただのカスだ

本当は怖いんでしょ? 天邪鬼か?

不安ならママの朝ごはん食うか?

震えてろよ わなわなわな くぅーん

それ見て嘲笑う 笑笑笑 ふっ(´<_` )

てめぇは愚かな ワナビーラッパー

ただのワガママな ダサいラッパー

出してみろよ火事場の馬鹿力

葬式にゃ出してやるよ 赤い薔薇」



決まった!...へっ、まだやれるって顔してんな。

マンダァ...日本一を決めるんだ、そうでなきゃなァ!


いくぜぇぇぇぇぇぇ!!!








あぁ?ここはどこだ。会場ではない。そもそも日本じゃない気がする。ビルや道路なんかが見当たらない。江戸時代にタイムスリップしちゃった系?


生えてる木や草も見たことがない。サバンナ?っぽい?


ふざけんな、俺はラップバトルの最中だったんだぞ、日本一をかけた会場で皆が俺のライムを注目していたんだぞ。決勝のあいつは本当に強かった。でも楽しかった。生きてる喜びを感じた。夢なら覚めてくれ。

そもそもなんで俺はラップバトル中に夢を見てんだ。


とにかく人を探そう。


うっわ、なんだこりゃ。砂漠?てことはここは鳥取?

もしくはエジプト?てかあっちーし。くっそあっちーし。今、何度だよ。35度は超えてんじゃねーのかって。


くそが、歩いても歩いても砂しかねーし。

クイズ番組で砂漠にはオアシスがあるって言ってたぞ。どこにもねーじゃねーか。


あ、ムリ。俺死んだ。喉の中が紙やすりみてーにザラザラしてっし、汗がですぎて服びっしょびっしょだし。マジ気持ちわりー。もうムリ、死ぬ。死んだら夢から覚めるかな。


これ以上苦しむぐらいなら諦めよ。おやすみー。



.....死んでない?てか、声がする。誰かに拾われたか?いや、違えや。夢から覚めたんだ。ここは会場の休憩室かどっかか?皆、心配したろーな、ラップバトル中に倒れちまうなんて。ラップバトルに精神的以外のダメージなんかあるわけねーっつーの。


はい、起きます起きます。日本一のラッパー(予定)のガブ様が起きますよっと。


「...すんません、俺、何時間寝てました?体調は大丈夫っす。変な夢見ましたが今からでもラップできます」


「おぉ!お目覚めになられましたか!」

「...?」


は、なにその言葉使い?てか、暗いな。よく見えねー。それにくせーし。どこだここ。


「ちゃんとこちらにお顔をお見せくださいませ」

「誰ですか?暗くてよく見えないんですけど」

「今、明かりを付けますね」


うおっ、眩し。暗いとこから急に明るくすんなよなー。てか何でロウソクに火をつけた。どんな演出だよ。蛍光灯にスイッチでいいじゃん。


「御気分はいかほどで...?」

「うっす、だいじょ ...うわああああああ!!!」

「ど、どうなされましたか!」

「ほ、、骨がァ!骨がァ!」

「はて、骨?」

「あんただよ!なんだその顔!ガイコツマスク!?」


めっちゃビビった。ハロウィンじゃねえよな。だって今日は8月29日。焼き肉の日だったぞ。なんだこいつ、ヤク中か?


「おや、アンデッドは見たことありませんか転生人様?」

「ア、アンデッド?」

「仕方ないですな。転生人様は他の世界から来た御方。他の世界には言葉を話す生物は人間しかいないと聞いております」

「は?転生人?は?他の世界?」


このガイコツマイクは何言ってんだ。人違いか?


「.....おや、導きの声から何も聞いておられないので?」

「いや、なんだしそれ。ドッキリ番組?俺も有名人の仲間になっちゃった的な?」

「ドッキリ...。いや、私たちは嘘などついておりませぬ。珍しいですな、導きの声なしで転生して来るなんて」

「私...たち?」

「はい、周りをご覧下さい」

「え...」


めっちゃ叫んだ。産声依頼だぜあれほど泣き叫んだのはよー。ガイコツマイク一人がいるかと思ったら俺の周りをガイコツやらゾンビやらがうようよ囲んでいるんだからよ。ホラーゲームの中ってこんな感じなんだろーなって思ったぜ。


「どうか、お気を確かに!転生人様!」

「お、俺をここから出せ!家に帰らせてくれ!」

「家と申されましても」

「てかここはどこだ!」

「ここですか?ここはエジャノの国。アンデッドたちが住まう砂漠で囲まれた国でございます」


エジャノ?エジプトじゃないの?そんな国、学校で習った覚えはない。


真面目にこれ、夢でもドッキリでもないのか。マジっぽい。これで演出でしたー、だったらそいつアカデミー賞総ナメできんぞ。はぁ...覚悟決めなきゃダメか。


「ねぇ、、、あんたが分かること、俺に教えてくんない?俺、なんも分かんねーや」

「はい、かしこまりました。それと、私のことは爺じいとおよびください」

「爺...?なにそれ」

「私は昔、王族へ仕えておりました。今は違いますが」

「ふーん、ま、それ諸共教えてよ」

「なんだか急にしゃんとしましたね」

「俺、未だに状況は掴めないけど、メリハリはある方だから。やると決めたらやる男だから」

「素晴らしき心構えでございますね」



いっぱい爺に聞いた。爺にもいっぱい答えてもらった。


なんか知らんけど、俺は死んだらしくて?

で、ここに転生、つまりは生まれ変わってきたと。

そういった人たちはたまに来るんだとか。でもエジャノの国には俺だけらしい。

転生人てのはめっちゃ強い、チートっつー力持ってるらしいんだけど?俺はなんも持ってねーし。


それと今エジャノは大変らしくて、エジャノの王だったアンク2世てやつが最近死んだらしいのよ。しかもそれが俺と同じ転生人てやつに殺されたとか。キルトとか言ったか?


アンク2世は暴力的で、国民からも嫌われていたからあまり悲しむやつはいなかったんだけど、王が居ないのはやっぱ大変らしくて、時期王を決めていたんだけど、それが


「は、俺が?王?」

「そうです。アンク2世は皆から嫌われていたましたが、あなた様ならきっと皆から好かれる王へと」

「いやムリムリムリ!俺政治とかわっかんねーし!ニュースもスポーツしか見なかったし!エジャノのこととか知らねーし!」


「大丈夫です。あなた様には王の席についてもらうだけでいいです。行政などは私たちに全てお任せください。『エジャノの王は強い』そう国民が思ってくれれば、それだけでよいのです。我が国の民はバカですから」

「俺強くもねーし」

「あなたにもチートという力が備わっているはずです」

「特に強くなった感じはねーぞ」

「生前、他の世界にいた時に得意だったこととかは」

「そりゃお前、俺はラップの日本い」



その時、外から大きな爆発音がした。アクション映画みてーなでっけー音だった。空気が揺れた。

すると外から急いで部下らしきガイコツが入ってきた。


「賊です!」


賊ってなんだ。


「またか...」

「どうしたんだ、爺」

「それがですね。この国にいたアンク2世は嫌われておりましたが、圧倒的な強さはありました。そのおかげでこの国が攻め入られることはなかったのですが、殺されてしまったのを聞いた盗賊どもがこの国を狙うようになったのです」


「え、じゃあここもやべーんじゃねーの」

「大丈夫です。ここにいる部下たちが必ず賊を倒してみせます」


だけど聞こえて来るのはガイコツやゾンビ共の悲鳴だ。それと同時に人間の笑い声も聞こえてきた。


「おい、やられてねーか」

「ふむ...。どうやら今回の賊はなかなかやるようですね」

「それに人間の声っぽいのも聞こえたけど」

「冒険者ですね。冒険者と呼ばれる戦闘集団です。今、この世界は人間とその他の種族が抗争状態にあります」

「へ、戦争?」

「大丈夫です。ガブ様に危害は加えま」


その時、俺たちがいた小屋の壁が吹き飛ばされた。その時、爺が身をていして俺を瓦礫や破片から守ってくれた。爺には肉や皮膚はなくすっかすかだったが、確かに温もりを感じた。


「ぎょええええ!爺!」

「大丈夫ですガブ様...!私が直々に」


すると賊と思われる人間がこっちに話しかけてきた。


「あ、おいそこの君!大丈夫か!アンデッドに捕らわれている青年がいたぞ!皆、助け出すんだ!」


アンデッドに捕われた青年て俺のこと?俺、別に捕まってるわけじゃねーんだけど。


「おい、俺は別に捕まっ」


《爆発魔法:ガチ・ボンバー》


賊は四人組だった。そのうちの一人が何かを唱えた。すると漫画とかで見た魔法陣?てのが現れた。

そして爺の近くで爆発した


「ガブ様、お怪我は」

「いや、平気。爺が守ってくれたから」


爺は爆発から俺を守るために避けられるであろう攻撃をわざと受けた。


「くそ!その人を離せアンデッド」


《太古の悪霊:ボックス・イン・ザ・デッド》


爺も何か唱えた。すると冒険者の一人の近くに棺が出てきて冒険者を吸い込んだ。


「よし、まずは一人。げふっ」

爺は、一人倒すのにも精一杯なようだった。あと三人。とてもじゃないけど無理だ。


「てめぇ!ハッジをどこにやった」

冒険者の一人が言った。

「冥界へ直送させて貰った。蘇生魔法で生き返るさ。さぁ、これ以上冥界へ行きたくなかったら、ここから立ち去れ!」

それは冒険者のことを思ってのことではなく、爺も限界だったのだと俺には分かった。息切れがすごい。歳なのだ。一つの技だけで体力を大幅に消費する。


「皆、ハッジの仇をとるんだ!」

《光攻撃魔法:ヘブンリーレーザー》

《水攻撃魔法:ダ・ポンプ》

《闇剣:ダークスラッシュ》


「爺!避けろ!」

素人の俺から見てもその三つの技の威力はやばかった。なのに、爺は俺を守るために全て受け切った。


「爺!」

「ご無事でよかった。ですが、すみません。私はこれ以上戦うことはできないようです。お逃げ...ください」

爺は倒れた。まだ息はある。


「よし、倒したぞ!君、怪我はないかい?何もされてないかい?」

冒険者の一人が駆け寄って来た。


「なんでだ?」

俺は言った。


「なんでって、どうしたんだい」

「なんでエジャノを襲う」

「そりゃ、君、アンデッドは人間の敵だから」

「エジャノは、お前らに何かしたのか」

「いや、でも、危険な存在だから」


俺はキレた。立ち上がった。拳を握りしめた。


「俺は聞いたぞ、お前ら、笑いながらアンデッドたちを殺しただろ」

「...そんなことは」

「お前たちは、王がいなくなったエジャノをせめて強盗する気だったんだろ」

「.....君、何かアンデッドたちに言い聞かされたろ。洗脳魔法かな?教会に行って直してもらおう」


そいつは俺に手を差し伸べた。

だけど


「なりませぬ、ガブ様!罠です!」

「え」


俺は身を引いた。


「ちっ!ここで目撃者を殺っときゃ俺たちのことがバレることもなかったのによ!」


そいつは急に豹変した。


「邪魔すんな、このくたばりぞこないが!」

爺を踏みつけようとした

「やめろてめぇ!」

俺はそいつを蹴っ飛ばした。


「いって...。てんめー、人間のくせにアンデッドの肩を持つのか!ぶっ殺すぞ!」

俺は拳をぎゅっと握りしめた。


「あ?ぶっ殺す?やってみろ俺がぶっ飛ばす!

お前にゃ言わねぇぜグッドラック

足りないんだよ素敵なユーモラス そして身軽なフットワーク

何も感じねぇぜ無常観 hoo」


しまった。癖で韻踏んじまった。ぶっ殺すぞというお決まりのリリックに体が反応しちまった。ふざけてる場合じゃねーのに。あれ?なんであいつあそこまで移動してんだ?てかぶっ飛んでる?


「ぐああああああっ!」

「だ、大丈夫かブリュ」

仲間が駆け寄る。

「な、なんだ、ぐはっ!あいつが、なんかリズムに乗って意味わかんねぇこと言ったと思ったら、凄まじい、ダメージが...!気を、付けろ...」

そいつは血を噴いて倒れた。


「よくもブリュを!」

仲間二人が迫ってきた。


「ガブ様!それです!先ほどの言霊こそがあなた様のチート能力です!もう一度それを!」

「えっ、マジで?」


「うおおお、光攻撃魔法...」

攻撃しようとしてきてる。爺を信じて急がないと


「Yo!お前らにゃ俺には、勝てねーし

微塵もねーぜ勝利のパーセンテージ

俺のライムはまさに天変地異

圧倒的に足りねぇぜ経験値 とアベレージ

気をつけな出てるぜ エマージェンシー

俺こそがラッパーの完成系で

この才能は生まれ持った先天性

逃げなくていいんですかHey!Hey!Hey!

切れかけてるぜお前らの生命戦!」


「な、なにぃ!この威力は!」

「グギャァァア!」


俺のラップをまともに受けた冒険者共は彼方まで吹き飛んでいった。



「助かりました。ガブ様。あれほどの御力をお待ちでしたとは」

「爺、お前、普通に生きてんのかよ」

「はい、我らはアンデッド。あれしきで事切れるほどやわじゃありません」


「心配して損したぜ」

「それでも危なかったですよ。追撃されてたらどうなっていたか」

「ま、無事でよかった」


「...ガブ様にお願いがあります」

爺は突然正座をする。

「どうか、この国の王に、とは言いません。でもせめてこの国を敵から守る用心棒になって下さいませ!」

「そんなの答え決まってんじゃん」


「どう...ですか」

「いいよ。王様になるのはまだいいけど、このエジャノの国は最強ラッパーガブ様が守ってやるよ」

「ありがとうございます!!」


こうして、砂漠の国で、死霊共に囲まれた俺の第二の人生が始まった。

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