部屋の隅っこの闇

夢見 新

終わりの始まり

夢を見ていた。特に変哲も無い夢だ当たり前の日常を過ごし毎日のループの中に少しの光が差している

平凡だ。普通で当たり前で何もおかしく無い。そう、おかしく無いのだ。この夢を夢と認識した時僕は重い瞼を押し上げた。いつもの天井にカーテンの隙間から射す光が僕の瞼をさらに重くする。目をこすりながら布団から出て辺りを見回してカーテンを開け窓を開けた。朝の心地よい風だ。

『ふぁー』なんであくびしながら僕は部屋に視線を戻した。当たり前の日常に一点の違和感があった。

そう部屋の隅に闇がある。闇があるなんて言う表現をするのは実に不可思議だが文字通り闇なのだ。そこに黒い何かがある、いやいるだがそれは何かと言えば暗いわけでもなくただ無がある。俺は不思議に思っただが疲れているのだろうと感じた部屋から出てリビングに出ればゆったりとした空気がリビングを包み込んでいる。

『今日は日曜日だしゆっくりもう一寝入りでもしようかな』なんて言いながら冷蔵庫を開けお茶を飲む。するとまたしても違和感を感じる。そう、いるのだ。いやそこにあるのだ黒い何かが、先ほどよりも大きく人の大きさほどもある闇がそこにはあった。焦りを覚えたなんなんだとこれはなんなんだと

なんだと自分に問いかけるこれはなんだ何が起きているのだと。だが正解は見つからない。なぜならそれは存在し得ない何かではあっても闇でしか無いからだ。不思議に思ったこの闇は動くわけでもなく大きくなるわけでも無いと、必ず原因があるはずだと。外に出てみれば何かがわかるかもと思った。

急いで着替えて靴を履き玄関を開ける、そう開けようとしただが何故か開かない、いや開けられない。

鍵は空いているし扉も動くはずただ開かない。まるで体が開けることを拒否しているかのように、背筋が凍った。おかしいこんなのはあり得ない開けたく無いと言う気持ちを押し殺して扉を無理やり開けた。そこにはいつも通りの廊下があった。廊下から見える商店街にはいつも通り人が賑わっている。いるはずだった。誰もいないいやだが何かはいる。

またしても闇だ違和感はあっても認識はできない闇

しかも動いているいや蠢いている大多数の闇が商店街を動き回っている。吐き気がした俺の頭はおかしくなってしまったのかと、そこでふと気がついた。

家族はどこへ?母に妹に父までもがいないそんなはずはない、色んな部屋を探す。クローゼットに父の書斎にトイレ。それでも尚いなあ諦めかけた時ぽちゃんと音がした水の音だこの音はお風呂の方だと理解した。風呂のドアを開けカーテンを開けるとそこには浴槽にある何か、またしても闇だ。俺は叫んだ。おかしい、こんなのはあり得ない、何が起こっているんだみんなはどこに行ったんだ。

僕は自室に戻り布団に潜り考えた。

まだ夢の中にいるんじゃないか?これはそうだ

きっと夢なんだともう一度寝れば夢から覚める。

そんな気がした。

心を落ち着かせるとすぐに疲れからか眠気が来た。

僕は夢を見ていたいつも賑やかな家族幸せな笑顔で旅行の話やこれからのことを相談する家族団欒だ。

何か忘れている気がした。大切な何かを忘れている気がする。そこで1つの違和感を感じる。家族団欒。娘の将来や学校の話すごく幸せそうな家族なのになぜか少し悲しげな顔をしている。こんなにも幸せなのにどうして悲しそうなのだろうと感じた。

俺は気づいてしまった。いや、気付きたくはなかったが気づかされてしまった。この場に僕は存在しないと。娘の話父の仕事の話母の料理の話をする中で僕の話は何もない何もないのだ。背中に寒気を感じた。後ろをふと振り返ると黒い何かがいた人なんて大きさじゃない天井をも貫く大きな何かがまたしても恐怖する。

『俺の家族に手を出すな』ふと口にした言葉だった。闇はこちらに近づき僕の耳元で囁く。

『君が殺したんじゃないか』聞き覚えがあったこの声は、俺の声だ。頭が痛くなった。ものすごく痛く痛く辛く重くのしかかってくる。

『ケケケケケ』不気味な声がこちらを笑う。

『やめてくれ、もうやめてくれよ。』咄嗟に出たはずの言葉は不気味な笑い声にかき消されてる。

そうずっと笑っているのは俺自身だった。

重い瞼を開けて現実に目を向けた。部屋の隅にある妹の死体、キッチンにいる母の死体、浴槽に入っている父の死体。俺は全てを受け入れた。家族に監禁されていた日々を思い出し荒れ狂った感情で

『ケケケケケ』と笑う笑う笑う笑う笑う笑う笑う。

『もっと殺さなきゃ』ふと出た言葉に全身全霊を込めて体についた返り血を洗い流し服を着て玄関にてをかけた。開かない開かない開くはずのドアは開かず鍵がついているわけでもなく開かない今度は体が

拒否しているわけではなく単純に開かないのだ。

『開け、開け、開けよ』と言っても言っても開く気配はなく僕は心を落ち着かせた時またしても背中に寒気を感じた。振り返らなかった。振り返ってはならない気がして振り返ったら全てが終わる気がして。後ろから声が聞こえた。

『お前なんて最初から存在しないんだよ』父の声だった。そんなことを考えていると突如頭に痛みを感じ倒れた。

重い瞼を開け見たものは当たり前の天井いつも通りの部屋そこには黒い影がある。この当たり前の日々をどれだけの時間繰り返したのだろう。

そう、長い長い夢の中で、僕は真実にたどり着いた。

僕はこの家族に拉致された。監禁をされ暴力を受け毎日を必死に生きていた、そんなある日俺はこの家族の父親に後ろから頭を殴られ何度も何度もなんども殴られゆったりと意識が遠のいて行く中でそれでも尚殴り続けられている自分を僕は惨めだと感じた。絶対に復讐してやるなんて思いながら僕は死んだ。いや殺されたのだ。

僕は夢を見ている。この無限に繰り返される復讐劇に。あの人間たちの最後を迎えさせるために、僕はこの夢の世界を生き抜いていく。





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