第一六五話 脳筋砲、発射!
「退屈じゃのぅ。一気に攻め落とせばよいではないか! 妾たちなら、あの城程度の城門はぶち破れるのじゃ!」
城内の裏切者が発覚して、ドットナム城からは罵り合う声が、風に乗って俺たちのいる陣地まで聞こえてきていた。
まだ、強攻する時じゃない。
混乱を拡げる時期だ。
「マリーダ様、事前の軍議で先に新型鋳造火砲の試射をさせてもらうと申していたはず。その後、エルウィン家が先陣として攻めると決まっておりますぞ」
「じゃがのぅ。早く戦わせて欲しいのじゃ! ここに来るまで誰一人斬っておらぬのだぞ! 象もこのように戦いたくてソワソワしておるのじゃ」
「まだです! そろそろ、試射が始まるので象を落ち着けといてくださいね。暴走させたら、お留守番ですから!」
「きひぃっ! 嫌じゃ! ここまで来てお預けなどあり得ぬ!」
象を連れて出撃の催促にきていたマリーダにぴしゃりと言い渡すと、俺は大きく手を挙げた。
木の柵で囲まれた陣地には、銅と錫の合金であるを熱して液体にして、型に流し込み、冷やして目的の形状に固める鋳造で作られた青銅砲が10門ほどならんでいる。
据えられている青銅砲は、車輪を付けた前装式の一体成形の滑腔砲である。
射程距離は仰角5度で最大1500メートル、4キロの弾を飛ばす、頼もしいやつだ。
前世の知識を動員して、鋳造の型を起こし、何度か失敗はあったものの、優秀な職人たちの頑張りで完成した。
そして、今日がその青銅砲のお披露目だ。
「距離750、目標ドットナム城! 放て!」
俺が手を振り下ろすと、左から順番に点火され、発砲音と煙とともに砲弾がドットナム城へ撃ち込まれていく。
砲弾が城壁に突き刺さるたび、城壁から煙が上がるが、さすがに破壊できるまでの威力はないらしい。
まぁ、そこそこの射速で撃ち出される4キロの鉄球だしな。
狙いは城壁よりも、城内の建物だな。
「次弾装填始め!」
砲の周りにいた兵たちが、砲口の清掃と火薬・弾の装填をキビキビを行っていく。
「仰角上げ! 目標、敵城の建物!」
先ほどよりも仰角が上がるため、山なりの弾道を描き、城内に鉄球が飛び込むようになるはずだ。
修正が終わるのを見届けると、俺は挙げた手を下ろす。
「放て!」
ドン、ドン、ドンと連続した射撃音が続き、山なりの弾道を描き、城壁を超えると城内に飛び込んでいった。
ふむ、敵もいきなり空から鉄球が降ってこれば、狼狽するだろうな。
内応者潰しに奔走してる暇もなくなるはずだ。
「連続10射、各砲門自由砲撃始め!」
俺が指示を下すと、各砲門ごとに装填作業を始め、終わったところから、連続で射撃を開始していった。
ふぅ、これで相手がビビッて門を開けて降伏してくれるといいんだが……。
移動は車輪付きにしたことでスムーズ、弾はまだ改善の必要ありだな。
次々と城内に撃ち込まれていく鉄球を見ながら、青銅砲の改善点を手帳に書き込んでいく。
そんな俺のもとへ、象の暴走を止めていたマリーダが戻ってきた。
「地味な武器なのじゃ! 我らエルウィン家が使うような武器ではないのぅ。爆発はせんのか? 爆発は!」
「現状はしないですね」
「たまっころを撃ち込んでも効果は低いじゃろ。そろそろ、妾らの仕事――」
「マリーダ、ワシがド派手な武器を持って来てやったぞ! これだ!」
マリーダと同じく手持ち無沙汰だったブレストが、手にしていた物は手投げ用の手榴弾だった。
いやいや、さすがに脳筋がすごいからって、手投げで750メートルなんて飛ばないだろ。
「叔父上、それをどうするつもりじゃ?」
「実はな暇すぎて、ラトールとバルトラートたちの部下と投石器を作っておったのだ。おーい、ラトールやれ!」
ブレストが声をかけた方に視線を向けると、巨大な投石器がそこに鎮座していた。
あれは俺が改良した投石器! 別のところで使おうと材料だけもってきたが、いつのまに完成させたのだ!
というか、手投げ弾を石に巻きつけてあるように見えるんだが?
「おっしゃ! 行くぞ! お前ら!」
脳筋たちが綱を引き始めたと思ったら、グイグイと投石器がしなっていく。
飛距離アップのため各部に固く粘り強い金属を使用しているが、一般の兵では引く力がそこまで強くないので青銅砲よりは飛距離がでないと思われる。
まさか、さすがに脳筋の力で届かないって。
でも、みたことないくらいしなっているんだが……。
「点火しろ」
火を持った兵が手榴弾の導火線をまとめた縄に火を付けると、しなっている投石器を止めて縄を切った。
ぶぉんという音がしたと思うと、空を手榴弾を巻きつけた岩が飛んでいく。
岩は城壁を超え城内に飛び込むと、爆発音が連続して響いた。
しばらくすると白煙とともに火災の煙が場内から立ち上り始める。
嘘だろ! 届きやがった! どれだけ強く縄を引いたんだよっ!
「おぉ! すごいのじゃ! ド派手な砲撃なのじゃ! これぞ、エルウィン家が使う武器じゃ!」
「おぉ! 火災が発生するよう黒い水を入れた壷も一緒にしておいた甲斐があるな! よう燃えておる!」
脳筋たちは悪辣すぎる。
手榴弾の爆破だけじゃなくて、火災まで見越し、可燃性の燃料までぶっこみやがった。
鬼すぎる砲撃だろ!
「二発目行くぞ! ワシも引くから、マリーダも綱を引け!」
「分かったのじゃ! 次はもっとデカい岩に大量の手榴弾と黒い水の壷を巻きつけてやるのじゃ!」
「「「承知」」」
脳筋たちがいそいそと新たな岩を投石器に載せ、手榴弾と黒い水の壷を巻きつけていく。
いやいや、量が多すぎ!
「マリーダ様、危ないので――」
「引くのじゃ! 引け―!」
脳筋たちが綱を引くと、グイグイと投石器がしなり始め、さっきよりもさらにしなりを見せていた。
「点火! 放て!」
さっきよりもさらに空気の切り裂いた音を纏い、大きな岩が城へむかって打ち出された。
巨石が城内に飛び込むと、しばらくして連続した爆発音と火災の煙がさらに立ち昇った。
「うひひっ! 燃えておるのじゃ! これくらい派手にやらねば砲撃する意味はないのじゃ!」
マジで城内にいた連中可哀想。
二弾の投石が終わると、青銅砲の自由射撃も終わりを告げた。
「アルベルト、今こそ、敵城へ強攻をかける時じゃと思うぞ!」
「ですね。カルア、バルトラート隊、突撃開始! ラトール、ブレスト殿、マリーダ様も突入準備!」
「いくさじゃあああああああっ! 手向かう者はなで斬りにするのじゃ!」
「「「「「おぅ!」」」」」
投石機の綱を引いていた脳筋たちは、即座に戦闘準備にとりかかり、瞬く間に整え終えると、ドッドナム城の城門に向け駆け出していた。
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