第一六四話 歩く災厄なんて言われてしまった。

 帝国歴二六七年 金剛石月(四月)



 スラト城にエルウィン家2500名とファルブラウ家5000名の総勢7500名が集結している。


 すでに臨戦態勢で、脳筋たちはすぐにでも戦闘状態に入れそうな殺気を放ち、その脳筋を竜麟族の兵士たちがガクブルしながら遠巻きにしていた。


「アルベルト、農兵どもも連れていくとなると、ややゆるりとした進軍になるがよいのか?」


「ええ、降伏勧告に応じる貴族もいるでしょうし、邪魔は入りませんからね。今回は農兵を鍛えつつゆるりと王都ルチューンまでまいりましょう」


 ヒックス領にはゴランの2500名がすでに入って待機しており、うちが先陣となって王都ルチューン攻略の第一関門となるグライスター領になだれ込む予定になっていた。


 南部諸部族も部族長会で、ロアレス帝国の寄港地の破壊を決議したようで、盛んに兵を集め始めているそうだ。


 おかげでロアレス帝国は、寄港地の防衛に気を取られ、アレクサ王国の援護どころではなくなっている。


「アレクサ王国だけじゃ物足りぬ気がするが、刃向かうやつらは皆殺しにしてやるしかないのぅ」


「マリーダ殿、できれば穏便に頼みます。後方を守る私に敵地の殺意が集まらぬようにして頂きたいのです」


 上席の貴族である大公家当主デニスであるが、やたらと俺とマリーダに対し腰が低い態度を取る。


 そうしろと、オリアーヌから言われるようで、彼は律義にそれを守っていた。


 さすがお坊ちゃん育ちなだけはある。


「分かっておる。敵意を見せた者しか斬らぬから、安心するのじゃ。妾らが通った後は敵意を持つ者は残っておらぬからのぅ」


 マリーダさん、デニスはそういう意味で言ったわけじゃないんですよ。


 極力、人を斬らず、恨みを増やさないでくれって意味ですからね。


 心配そうなデニスを横目に、マリーダは意気揚々と象に乗ると、自らの大剣を高々と突き上げた。


「いくさじゃ! いくさじゃ! 皆の者! 手柄を挙げよ! 抵抗する者は打ち倒すのじゃ!」


「「「「おぉ!!!」」」」


 最先陣を務めるカルアとバルトラートの隊が喚声をあげ、スラト城から出陣していく。


 さて、どれくらい偽の書状に騙されて降伏してくるかな。


「アルベルト様、馬車の用意ができております」


「ああ、すぐに行く。リゼたちと緊密に連絡を取り、デニス殿はゆるりと進軍してきてください」


「承知した。ご武運を祈っておりますぞ」


 俺はデニスに頭を下げると、リシェールとともに馬車に乗り、アレクサ王国の王都ルチューンを落とすための遠征に出ることにした。



 一週間後、ゴランの軍と合流した俺たちは、第一関門であるグライスター領の堅城名高いドットナム城を視野におさめるところまで一戦もせず侵攻していた。


 アレクサ王国は大軍の侵攻に驚き、籠城を選んだ。


 周囲の貴族たちが率いた兵が籠り、2000名ほどの兵が立て籠もっている。


 力押しすれば、こっちの被害はとんでもないものになる。


 俺は野営用の天幕でリシェールからの報告を受けていた。


「リシェール、あっちの籠城してるやつらで、うちの偽書状を持ってるやつらは何人いる?」


「えっと、日和見してる間に召集されちゃった人が3名ほどドットナム城にいるそうですね」


「じゃあ、その3人がドッドナム城を手土産として、うちに寝返ってるって怪文書を城に射込んできてもらって」


「いいんですか? マリーダ様たちがやる気ですよ? ほら、新型火砲も試したいって申請が出てましたし」


 マリーダたちが堅城として名高いドッドナム城をどう落とすか、朝から軍議を重ねているのは知っているが、遠征もまだ序盤戦。


 無駄に兵力を減らすわけにはいかないのである。


「内応でゴタゴタしたところをマリーダ様たちに攻めてもらえば、被害は減ると思うから、自由にやらせるつもりさ」


 内でもゴタゴタ、外からは猛攻に曝されては、さすがの堅城も機能を十分に発揮できないはずだ。


「相変わらずえげつないですね。アレクサ王国の民からは、アルベルト様を歩く災厄って言ってますよ」


「また、大分出世したな。俺は魔王陛下の御指図で侵攻してるだけなんだが」


 俺の悪名も極まれりってところだ。


 おかげで恐れをなして、よく確かめのせず偽書状を手に掴んで駆け込んでくる愚か者もそれなりの数に昇っている。


 ちなみに俺は降伏を認めるとだけしか言っていないし、書状の件は知らないフリをしている。


 ロアレス帝国の謀略部隊(という名の俺の密偵たち)が、魔王陛下の名を騙り直接動いていることにしているからだ。


 魔王陛下が直接指示し、エルウィン家に内密に動いているため、普通に降伏したようにしろとの文言付きの書状である。


 降伏してきた連中からしてみれば、戦後にエランシア帝国最上位者である魔王陛下から本領を安堵してもらえると思ってるはずだ。


 なので、食糧の支援を積極的に申し出てくれたり、軍勢を出そうとしてくれたり、娘を差し出してくる者もいるが、大軍にビビッて旗を変えたり、甘い言葉を信用する連中を残すつもりは一切ない。


「今回の遠征で、騙し討ちのアルベルトって名も追記されそうな気もするがね。とりあえず、偽書状を受け取って降伏してきた連中は、ドッドナム城が落城した時、処分する。偽書状の謀略がロアレス帝国発だったことがオルグスに伝わるよう細工を仕込んでおくのも忘れずに頼むぞ」


「承知しました。そちらも進めておきます」


 リシェールは一礼すると、天幕から去っていった。



―――――――――


書籍第一巻も売れ行き良さそうで、読者の皆様の応援感謝しております!


書籍も続きが出せるよう更新頑張ります!

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