第一五七話 帝国歴二六六年決算報告書


 半泣きで帝都から戻った俺に、さらに追い打ちをかけるように山積みの決算作業が襲いかかってきた。


 主力であるイレーナが産休のため、ミレビス君が筆頭内政官として取り仕切ってくれていたが、やはり領地の拡大に対し、文官の補充は足りていないようで、書類が一向に減っていかないでいる。


 でも、まぁ、今年は大きな出兵もなかったことで、領内は脳筋がいくさをさせろと叫ぶだけで、穏やかに治まった一年だった。


 領内の人口も結婚奨励と子作り奨励政策の成果が出て、順調に増えているし、アシュレイ領の農地の開拓もかなり進み、食糧も引き続き生産量が増大している。


 だが、同時に産業も拡大し、要求される労働人口には足りていない。


 食い物も作りつつ、産業もってなると、人が足りねぇ。


 とはいえ、産業に人口割り振って、食い物を輸入する事態にはしたくない。


 食い物の確保は領地運営の要だしな。


 領地経営は順調であるものの、順調であるが故の問題も発生しつつあった。


 その辺も上手く舵取りをしつつ、エルウィン家をエランシア帝国内の上級貴族に押し上げていかねばならない。


 でも、辺境伯家になると、鬼人族たちがいくさを仕掛けるための大義名分探しに躍起になる気しかしない。


 はぁ、マジめんどくせぇ。


 脳筋たちは血を浴びないと生きていけない生物なのか、一回ちゃんと調査する必要があるかもしれん。


「アルベルト様、手が止まっております! アルベルト様が物思いに耽って仕事の手を止めぬようイレーナ様より、きつく申し付けられておられますので、手を動かしてくださいませ!」


 産休のイレーナの代わりの秘書官として仕事をしているフリンの眉間に見覚えのある皺が見えた。


 あの皺は、俺の秘書官になると必ず出るものなんだろうか?


 気になるところだ――


「アルベルト様! 聞いておられますか?」


「え? ああ、仕事の手は止めないだろ?」


「そうです! このままでは、年越し作業になってしまいます!」


 お呼び出しもあり、遅れに遅れた作業で、年末最終日でも決算の報告書ができ上っていなかった。


 そのため、越年の残業の可能性もでてきている。


「それは、なんとしても阻止せねばならない。仕事の処理速度を上げる。フリン、書類を」


「は、はい! すぐに!」


 文官たちのところから戻ったフリンが、決裁待ちの書類を執務机の上にドンとおく。


 山は高く積み上がっているが、年末を家族と過ごしたい俺を止められるほどはではない!


 再度、集中すると瞬く間に一つの山を消し去るスピードで、書類の決裁を済ませていった。


 



 エルウィン家 帝国歴二六六年決算書


 人口:アシュレイ城(本領)32263名(1830名増) スラト城(アルコー家保護領)5812名(321名増) アルカナ城 5154名(443名増) ヒックス城 838名(42名増) ビックファーム領580名(40名増) メトロワ市(保護領) 3119名(289名増) ラルブデリン領1194名(361名増) リリンド領1280名 合計50240名


 租税収入(帝国金貨換算)


 ・入市税……帝国金貨15904枚

 ・施設使用税……帝国金貨2298枚

 ・相続税……帝国金貨543枚

 ・土地売買税……帝国金貨579枚

 ・賦役免除税……帝国金貨1011枚

 ・売り上げ税……帝国金貨18501枚

 ・生活必需品税……帝国金貨5432枚


 租税収入総計(金納分):帝国金貨43689枚(+14428枚)


 租税外収入(帝国金貨換算)


 ・放出品売却益……帝国金貨14830枚

 ・香油専売利益……帝国金貨10002枚

 ・精練金属売却益(銅・錫)……帝国金貨8500枚

 ・精練金属売却益(銀)……帝国金貨30590枚

 ・精練金属売却益(鉄)……帝国金貨4800枚

 ・ヴァンドラ用心棒代……帝国金貨35000枚

 ・軍馬オーナー登録料……帝国金貨3200枚

 ・軍馬買い上げ予約金……帝国金貨3300枚

 ・競走馬育成供託費……帝国金貨3900枚

 ・特別温浴施設会員費……帝国金貨14900枚

 ・競馬事業収入……帝国金貨4000枚

 ・武具販売代……帝国金貨12000枚



 租税外収入総計:帝国金貨145022枚


 収入総計:帝国金貨188711枚(-23239枚)


 人件費(帝国金貨換算)


 ・小者……帝国金貨1枚×12ヵ月×450名=帝国金貨5400枚

 ・小者頭……帝国金貨3枚×12ヵ月×110名=帝国金貨3960枚

 ・従士……帝国金貨3枚×12ヵ月×420名=帝国金貨15120枚

 ・戦士……帝国金貨4枚×12ヵ月×600名=帝国金貨28800枚

 ・戦士長……帝国金貨10枚×12ヵ月×22名=帝国金貨2640枚

 ・家老……帝国金貨15枚×12ヵ月×3名=帝国金貨540枚


 家臣総数:1605名(132名増)


 人件費総計:帝国金貨枚56460枚(+3420枚)


 諸雑費(帝国金貨換算)


 ・当主生活費……帝国金貨2000枚

 ・飼料代……帝国金貨1880枚

 ・城修繕費……帝国金貨1250枚

 ・装備修繕費(調達費含む)……帝国金貨5488枚

 ・大牧場改修費……帝国金貨500枚

 ・港湾整備費……帝国金貨4890枚

 ・船大工養成機関施設費……帝国金貨2000枚

 ・鉱山施設整備費……帝国金貨2100枚

 ・ノット家鉄鉱山捕虜への食費補助……帝国金貨3000枚

 ・火砲鋳造所建造費……帝国金貨5000枚

 ・動物園建設費(戦象用象舎込み)……帝国金貨7500枚

 ・リリンド領新街道敷設費……帝国金貨4500枚

 ・水軍建造費……帝国金貨60000枚


 諸雑費総計:帝国金貨100108枚


 支出総計:帝国金貨156568枚(-18425枚)


 収支差し引き:帝国金貨32143枚増


 繰り越し金:帝国金貨229699枚(本年度32143枚増)


 本年度地代+人頭税として(食糧物納分):1190万食


 備蓄食料 620万食(+20万食積み増し)


 全人口籠城時:60日分(一日二食配給)



 なんとか、年末の家族団らんの時間に間に合い、俺の癒しタイムは守られることになった。


 今年は大きないくさがなく、赤字が出るかなと危惧したが、なんとか黒字にできた。


 武具の販売ができたのがデカかったと思う。


 今後も、定期的に品評会を開催し、エルウィン家の所蔵品から漏れたものはオークションと販売に回されることになる。


 他家からも、もっと販売して欲しいとの話も来ており、できる限り対応するつもりだ。


 お金稼ぎは常時していかないと、人件費過多のエルウィン家は倒産してしまう。


 とりあえず、今年のハイライト!


・ヨゼフたちに鉄砲200丁を渡し、ヴェーザー河沿いの要塞での防衛作戦の演習を行った。


・新領地リリンド領から帝都へ繋がる新街道敷設計画を策定!


・アレスティナが獣使いの才能を持っており、エルウィン家に戦象部隊と動物園ができることになった。


・アシュレイの造船所の増設と船大工養成機関の設置計画。


・武具品評会とオークションを開催し、輸出用の武具を販売することに成功した。


・ロアレス帝国の食指が南部諸部族とアレクサ王国に伸びてきてるのを確認。


・魔王陛下から明年、アレクサ王国の王都ルチューン攻略を命ぜられた。



 来年のやることリスト


・アレクサ王国に出兵して王都ルチューンの攻略完遂


・火砲鋳造所の建設


・水軍の要員確保


・造船所の拡張


・リリンド領の新街道敷設


・ロアレス帝国内の反黒虎大将軍派への接触


・ロアレス帝国への謀略


・人口増加政策の維持



 来年はアレクサ王国に攻め込まねばならないため、食指を伸ばしているロアレス帝国との関係も悪くなることが予想されている。


 そのため、ロアレス帝国と全面戦争にならないよう、皇帝派と黒虎大将軍派の間を割く策を実行したいところだが――


 あの夫人がこっちの手に易々と乗ってくれるとは思えない。


 そのため、準備は入念に行わないといけないだろう。


 俺が準備した毒を飲まざるを得ない状況まで追い込めるかが、成功か失敗かの分かれ道になりそうだ。


 ふぅ、来年はまた大変な年になりそうだな。


 でも、まぁ、家族、領民たちを守るには頑張るしかねぇ。

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