第三十一話 流民
さて、というわけで、俺の方はスラト方面に押し寄せている流民の対応をすることにした。
流民たちが求める物、それは何か?
飯、家、金の三種類でしょ。あ、もう一個あるわ。安全な場所。この四つを求めて、土地を棄て逃げ出してきた者たち。
大半が真面目な元農民で、四つの保証さえ与えてあげれば、うちの家での良き納税者となってくれるはずだ。
そのための初期投資に多少金がかかろうが、後からガッポリと入るので、問題ナッシング。
金というのは溜め込むべき時は溜め込み、使うべき時は一気に使うのに限る。
エルウィン家躍進のための投資資金を惜しむ時ではない。
アルコー家の家臣たちを引き連れた俺は、アレクサ王国との国境としたアルコ―家の砦近くにキャンプをしている流民たちの元に到着する。
「貴様らの身柄はこのアルベルト・フォン・エルウィンがもらい受けることにした。私に出会ったことを後悔するんだな……ククク」
アルコー家の武装兵を引き連れた俺をおっかなビックリに見ている流民たちがガクブルと震えて身を寄せ合っていた。
着る物も食事も不足しているようで、皆やせ衰えて力仕事をする前に倒れかねないようにも見える。
「ククク、そのような痩せっぽちの身体では我が領の民として迎え入れるのは恥ずかしさを感じる。こうなれば、皆には肥え太ってもらわねばならぬなっ! よし、飯を配れ! ハハハッ!! 遠慮せずに喰うが良い!! そして喰って肥え太るのだ!!」
武装兵たちに持参させた食糧を流民たちに配るように視線を送る。
完全武装の武装兵がガタガタと怯えて身を寄せ合う流民たちに向かい、パンや温かいスープを配り始めていた。
流民たちは怯えながらも腹が減っているのには抗えないようで、受け取ると貪るように食事を食い散らかしていく。
「ククク、我が家の食料を喰いおったな。これで、お前らは我がエルウィン家の領民である。アレクサに帰れると思うなよ。ククク、さぁ、もっと喰え。喰うのだ」
更に目配せを送り、追加の食料を流民たちに分け与えていく。
今年もエルウィン領は豊作だったこともあり、城の倉庫に食料は腐るほど余っているのだ。
しばらくして腹を膨らませた流民たちがチラチラと俺の方を見て様子を伺っている。
「どうやら、腹は満たしたようだな。ならば次はその汚らしい恰好をどうにかするとしよう。汚い恰好で疫病をまき散らされては叶わぬからな」
俺がパチンと指を鳴らすと、武装兵たちが流民に綺麗な衣服一式を渡していく。
「それに着替えよ。従わぬものは切り捨てるっ!!」
威圧するように着替えを強要すると、怯えた流民たちは自らの衣服を脱ぎ捨て、綺麗な衣服に着替え終えていく。
武装兵たちは流民たちが脱ぎ捨てた服を一カ所に集め、火をかけて燃やしていった。
「ククク、これでお前らは食も衣料も我が家の物になったぞ。どうだ」
俺の言葉に流民たちはキョトンとした顔をしている。
「クッ、強情な奴らだ。ならば、これでどうだ。エルウィン領の民になりたい者は銀貨を拾え、食い物、寝る場所、安全をこのアルベルト・フォン・エルウィンが保証してやる」
武装兵によって地面に撒かれたエランシア帝国銀貨を流民たちが奪い合うように取り合い始めた。
「慌てるな。金はいっぱいある。飯もだ。うちはアレクサ王国とは違うぞ。さぁ、金を取った者は砦の入り口に並べ。我がエルウィン領で豊かな生活を得たい奴は並ぶが良い!」
エルウィン領には未だに農地にされていない場所も多数あり、今回水路開削に人手さえ投入すれば、農村開発を更に進められるため、かなりの財貨を獲得できる見通しが立っている。
なので、この流民たちには水路開削や新規の農村整備をやってもらうつもりだ。
既存の農村に取り込めば、問題が発生するが、流民たちで作った新たな農村であればそういった軋轢は生まれにくく、皆が一緒になって新しい農村を作り出してくれるはずだ。
「ほら、ほら、受け取れぇ! 金だ! 金!」
押し寄せる流民に銀貨をばら撒いていく。
アレクサ王国の無能な国家運営によって、土地を棄てた者たちへ、新たな希望を与える。
この世界。人口は力だ。多くの人の口を養える領主が大きな軍事力を持ち、そして権力を持つ。
そんな世界に生きている俺は何としても人を増やして、嫁が当主をするエルウィン家の安泰をはかりたい。
そのためなら、どんな手だって使ってうちの脳筋女将軍を出世させてやるさ。
こうして敗残兵狩りと流民狩りは大成功に終わった。
報告書が来ているので、確認してみよう。
敗残兵討伐報告書
シュトラール……捕縛一二五名、討ち取り数二五名、損害なし
ノーマン……捕縛一三九名、討ち取り数三一名、損害なし
ラトール隊……捕縛二四五名 討ち取り数四五名 損害軽傷二名
総計:捕縛五〇九名、討ち取り数一〇一名、損害軽傷二名
まずまずの戦果だ。そして、討ち取った数の分は賞罰から差し引きさせてもらおう。
そうしないと調練させろとうるさいからね。
捕虜五〇九名は堤防担当として頑張ってもらおう。
え? 人権無視だ? いやぁ、むかしから悪人に人権は無いって某美少女魔導士が言ってたじゃないですか。
この世界も犯罪者に人権なんて認められてないっすよ。
まぁ、俺も鬼じゃないんで、三年くらい真面目に堤防作りすれば、人を殺していない限り放免してもいいかなと思っている。
次は流民の方の報告書だ。
流民戸籍登録報告書
成人男性……四五八名
成人女性……三四六名
子供男子……一九二名
子供女子……一一二名
総計:一一〇八名
水路の建設組:五四〇名
新規農村建設組:五六八名
一〇〇〇名以上の流民がうちの領民として新たに登録された。
今回登録した流民に限り、三年間租税免除だ。
贔屓だって? いや、彼らには資材の援助があるとはいえ、農村をゼロから作るという大きな負担を背負っているわけさ。
それに税を課したら、また逃げ出して流民に戻る。
水路の開削に成功すれば、彼らから三年くらいは租税取らなくてもエルウィン家は揺るがない。
元々はうちの領民ではないからね。投資した金がリターンされれば後は利益しか産まなくなるし。
肥沃な土地であるエルウィン領は水路の充実により、農産物の生産が劇的に増え、数年後にはエルウィン家の財力は、エランシア帝国南部の国境領主で有数のものになっているだろう。
今年は投資の年だ。
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