第二十六話 貨幣と俸給

 さて、魔王城から麗しの我が家に帰還。


 ミレビスとイレーナから早速、不在時の報告書を頂いて仕事に精励しているところだ。


 帰り路の馬車で嫁マリーダの励まし(激しい)によってやる気がでた俺は、やることリストの作成に取りかかることにした。


 やることリスト。


 ・領内の度量衡の統一の推進

 ・領内の農村の正確な収穫量把握及び納税基礎台帳の作成

 ・領内の水利充実

 ・領内の税制改革


 とりあえず、緊急性の高い四つを書き出した。


 戦闘系がない? そんなもん、あの脳筋集団がいれば、そこら辺の雑魚領主軍なんか、触れるだけ粉砕ですよ。


 そっち方面の無双は、この前のアレクサ王国との戦で見せた脳筋一族の戦闘力で確信したから無視でオッケー。


 武力一〇〇のマリーダと武力九八のブレストを打ち破れる領主は少なくとも俺が神殿で周辺諸国の情報を集めていた時に聞いたことはなかったからな。


 ちなみ、ラトールはまだ武力八五くらいだと思われる。一般的な指揮官が武力五〇くらいだとして、平均的鬼人族が七〇後半くらいになり、ラトールはやや強いくらいだ。


 個人の武勇も凄いが鬼人族はいくさでの結束が素晴らしく高く、集団戦でも個人プレーに走らずチームで武勲を上げる役割をキチンとこなすのである。


 惜しむらくはその結束と素晴らしい判断力が内政に対してまったく働かないことだ。


 いくさに関連することは、鬼人族はとても優秀な一族であるが、いくさ以外のことになると途端に一般人以下の作業能力しか発揮しない癖の強い一族である。


 そんな性質を持つ脳筋一族が何代も続けた内政のどんぶり勘定を改めないと、確実に破綻が待ち受けている。


 俺とマリーダの間にできる子に貧乏暮らしをさせるわけにはいかない。


 そのためには、エルウィン家本拠であるアシュレイ城下の開発を進めつつ、内政を立て直し、更なる戦闘力をエルウィン家に持たせ、直属の主君であるマリーダをエランシア帝国内で出世させて、婿であり家臣である俺も富貴栄華を手に入れるんだ。


 主君が多くの戦功をあげ大身になれば、家臣である俺の領地もまた大きなものになるのである。


 今のところ、エルウィン家の家臣で領地を持つのは、家老のブレストであるが。


 これは、マリーダが放逐される際、当主引き受け料としてクライストから騎士爵をもらい、アシュレイ城下の農村三つを譲渡していたらしい。


 ブレストはエルウィン家家老としての俸給の他に、この三つの農村から上がる税分の俸給を支払われており、その金で自分の家臣を雇っている。


 領主の家臣の中でも小領主という立ち位置だ。


 当然、家中の発言力は高い。はずだ。


 逆に俺は当主の婿という立場だが、一介の家臣であり、新規雇用した文官たちの俸給もエルウィン家の懐から出ている。

 

 この城に来た当初、帰参できたお礼にと、マリーダが農村を一つ与えると言ってくれたが辞退しておいた。


 ただでさえ、新参者の俺が当主の入り婿という立場で、好き勝手に領内を引っ掻き回しているのに、領地までもらえば命が危ない。


 圧倒的な成果を出して、家中の皆から認めてもらわねば、命が危ないのだ。


 現状はマリーダの絶対的な支持と家老ブレストの応援、そして婿という立場が俺を守ってくれている。


 ここに実績を積まないと、そのうち反発する者も出てくるだろう。


 とりあえず、マリーダ帰参の知恵だし、備蓄糧食の管理帳簿作成と人口調査、防衛戦争での采配という実績を積んだ。


 実績をドンドンと積んで、ある程度のポジションを確保しないと、当主に取り入ったヒモ男と言われかねないので、実績作りをするため仕事にも更なる頑張りが必要になってくるはずだ。


 ふぅ、それにしても、内政もやれる人材がもっと欲しいなぁ。


 エルウィン家の連中は脳筋なんで、無理だし、新たに保護領になったアルコー家の領地で人材発掘でもしてみるか。


 よし、これもやることリストに追加


 ・アルコー家で人材発掘


 戦で伸びたけど、城下では麦狩りも始まっているし、徴税業務もしないといけなかった。


 やることは山盛り。


 ちなみに戦闘に参加した家臣への褒賞はマリーダにお任せした。当主マリーダの決めた論功行賞は鬼人族にとって絶対であるらしいので、俺が口出しするよりもマリーダに自由に決めてもらった方が揉め事は起きないと思われる。


 もちろん、報奨金の限度額はキッチリと提示しており、これ以上はびた一文出さないと言っておいた。


 新たに得たのはアルコー家の領地は保護領名目であるため、勝手にエルウィン家の家臣たちに渡すことをできない。


 なので、身代金や捕虜売買で得た金を原資に、家臣たちに褒賞を与えるのだ。


 俺はマリーダの婿であるため、妬み回避のため今回の褒賞は一切固辞しておいた。


 一応、マリーダの婿として居城に部屋を与えられているし、それに家臣として俸給ももらっているため、生活費には事欠くことはない。


 え? 俺の俸給がいくらだって?


 その前にこの世界の貨幣の価値を教えておこう。


 エランシア帝国は銀山や銅山が多く、領民の多くは銀貨か銅貨を使用し売買を行っているのだ。


 貨幣の製造は帝国の法に定められた鋳造法、各種金属含有量を満たした物が公定貨幣として流通している。たまに自分の領地で勝手に貨幣を鋳造する馬鹿者がいるらしいが、そういった輩には帝国の鋳造監察官による査察を受け、鋳造法に則した貨幣出なかった場合厳罰に処せられるのだ。


 ちなみに農村では未だに物々交換もされるが、街では貨幣もそこそこ流通している。


 金貨は主に褒賞や、商人の決済用と使用されるのが通例となっていた。


 貨幣は主に使われている地金の価値に依存しているため、金:1グラム=銀:10グラム=銅:100グラムといった地金割合だと思ってもらえると分かりやすいかと。


 日本円換算にする時は、金地金をグラム五〇〇〇円だと換算すると、銀地金グラム五〇〇円、銅地金五〇円となる。


 って、感じで地金の価値を分かってもらうと、貨幣価値が分かってもらえるかと。


 ・帝国小銅貨……銅含有量一グラム。日本円で五〇円。

 ・帝国大銅貨……銅含有量五グラム。日本円で二五〇円。

 ・帝国銀貨……銀含有量五グラム。日本円で二五〇〇円。

 ・帝国大銀貨……銀含有量一〇グラム。日本円で五〇〇〇円。

 ・帝国金貨……純金含有量三・五グラム。日本円で一七五〇〇円。


 で、地金価値で両替されるんで、両替換算表は以下の通りになる。


 帝国金貨一枚=帝国大銀貨三枚半


 帝国金貨一枚=帝国銀貨七枚


 帝国金貨一枚=帝国大銅貨七〇枚


 帝国金貨一枚=帝国小銅貨三五〇枚


 となる。但し、これはエランシア帝国内の換算表なんで、他国にいったらまた全然違ってくる。


 なので、身代金は金地金で要求するし、鹵獲した財貨は大半を鋳つぶして地金にするようにしている。


 ここまで説明すると、やっと、エルウィン家の家臣たちの役職及び俸給ランクをご紹介できるようになるのだ。


 ・従者……平民から徴用した家臣が就く最初の役目。何でも屋の雑務係。月棒帝国大銀貨五枚。日本円で二万五〇〇〇円。

 ・従者頭……小者たちのとりまとめ役。月棒帝国金貨三枚。日本円で五二五〇〇円。

 ・従士……鬼人族一族の者が採用されると就く役目。戦士のお世話係。月棒帝国金貨五枚。日本円で八七五〇〇円。

 ・戦士……戦闘職人たち。従士を数年経験し、昇進すると就く役目。主戦力。月棒帝国金貨六枚。日本円で一〇万五〇〇〇円。

 ・戦士長……戦士たちのとりまとめ役。戦時の小隊長クラス。月棒帝国金貨一〇枚。日本円で一七万五〇〇〇円。

 ・家老……家臣たちのとりまとめ役。戦時、当主の代行も務める。月棒帝国金貨一五枚。二六万二五〇〇円。


 とまぁ、こんな感じだ。お安いサラリーだと思われるかもしれんが、一般人の月のサラリーは大体帝国銀貨七枚程度(一七五〇〇円)なんで、わりと小者でも高給取りなのさ。


 戦士長以上はサラリーとは別に領地を貰えることもあるし、戦士や従士も戦に出れば報奨金という名のボーナスが付く。


 で、本題の俺の俸給だが。現状、役職としては内政担当者の最上位であり、当主の婿で、エルウィン家家の『軍師』という立場だ。


 さぞかしガッポリと貰ってやがるだろうって思うだろ?


 実際は、エルウィン家での俺の身分は従者頭に過ぎない。月棒帝国金貨三枚。日本円で五二五〇〇円のお仕事なのだ。

 

 イレーナは従者身分で採用されているが、実家は裕福な商家で金はたらふく持っている。


 リゼに至っては当主なんで俺なんかより全然収入はある。


 つまり、俺は嫁と嫁の愛人に養ってもらっている状態だ。


 ヒモ生活万歳! って喜んでいいのかは分からんが。一応、身分的にはそのランクにいる。


 が、家中での俺の扱いは当主に準ずる扱いを受けている。当主に準ずる扱いを受ける理由は、内政や外交、謀略に関して当主のマリーダが、すべて俺に対して『よきにはからえ』なので、権限も増大しているからだ。


 お家乗っ取りを企めば、すぐにでも乗っ取れそうだが。


 それをすると怖い兄様とか、戦闘無双内政無能な脳筋一族と真剣に向き合う必要が出てくるので当主になるのはご遠慮させてもらっている。


 嫁であるマリーダの出世に絡んで、エルウィン家本領を安全な領地にしてもらって嫁と子供たちでまったりと暮らす予定だ。


 そのために今日も汗水たらして働くのである。


 出仕前に大事な嫁たちに棄てられないよう、朝のコミュニケーションをたっぷりととっておいた。


 いや、朝のコミュニケーションって何って? いあぁ、ナニですよ。ナニ。ハッスルしすぎて時間延長しちゃったけどさ。


 あーいや。すっきりしてやる気が出たなぁ!


 さてさて、執務室に行ってお仕事しよう。さぁ、今日も頑張るぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る