第二十二話 男装女子
さて、ここで合意しなかった一人のお話をしていこう。
彼の名はリゼ・フォン・アルコー。若干一八歳だ。今回が初陣だったらしい。
彼の領地はエルウィン家と隣接した領地で、先代の当主時はエランシア帝国側に従属していた家らしい。
元は彼の地の村長の一族で、先々代が周囲の農村を実力で支配し、小領主として頭角を現したと言っている。
その家を拡大した先々代が急死すると、身内の内紛で家が乱れ、混乱の最中に先代も病没して内紛が長引いていたそうだ。
新たに当主になったリゼが領地を継いだ時には、エランシア帝国から離脱し、アレクサ王国の勢力圏に取り込まれており、今回の国境紛争に動員されたみたい。
けれど、家は内紛状態を辛うじて脱したところで疲弊しており、身代金額は到底払えないと突っぱねているのだ。
払えなければ死。っていうのも良かったんだけど。実は彼は彼女だったことが判明した。
リゼ・フォン・アルコーは女当主であることを隠していたのだ。
初対面の時から綺麗な顔立ちの男だなと思っていたが、女性だった。
お家騒動で先代当主の嫡男である兄が不審死し、直系子孫が年若い女の子だったリゼだけだったため、アレクサ王国にお家取り潰しをされないため、男装し当主の座に就いたらしい。
「クッ! 殺せ! オレから身代金は取れんぞ」って『クッ! ころ』もしてくれると、大いにそそられてしまう。
「アルベルト。男の娘ってのもいいものじゃのう。妾は男と女も好きじゃが、合いの子みたいなリゼみたいな子は大好物じゃぞ。はぁ、はぁ」
強気なリゼの態度が、両刀使いのマリーダの心のアンテナに触れてしまったようだ。
いくさの後ということもあり、マリーダの色欲は滾っているようで、その発散先を求めている。
その想いがギラつく野獣のような目を、捕虜となったリゼに注いでいた。
「ひぃ。オレは死ぬことは怖くない! 怖くないからな」
捕虜となり、身代金が支払えないとなれば、その身を使ってでも自らの命を守らねばならない世界である。
そういった意味では、リゼには誠に残念だが、マリーダの愛人として滾る色欲を受け止めるという役割が提供できてしまうのであった。
しかも、マリーダの愛人=俺の嫁という図式も自動的に組み合わさるため、もう一つ美味しい効果をエルウィン家にもたらしてくれる。
その美味しい効果とは領地の併合拡大だ。アルコー家はエルウィン家の本拠アシュレイ城から南に下った境が隣接する領主だ。元エランシア帝国側だったこともあり、街道も整備されお互いの領内に縁者もたくさんいるのだ。
近くて遠くなっていたご近所さんだったアルコー家の当主がエルウィン家の手元にいるとなれば、女当主マリーダの入り婿である俺がリゼを孕ませてできた子に、アルコー家を継がせれば領地の併合は事実上問題ナッシングとなる。そうやって緩やかにアルコー家をエルウィン家と一体化させ領土を拡大できる。
そんな美味しい話を背負った子が男の娘。いや、正確に言うと男の言葉遣いをしている男装女性だな。悪くない。実に素晴らしい逸材だ。
「身代金が払えないなら、マリーダ様の側女としてその身体を差し出してもらいましょう」
エルウィン家の発展と嫁への機嫌取りも兼ねて、俺はリゼをマリーダの側女として採用する案を提示した。
「え!? ちょ、ちょっと待て!! オレは!」
急に提案された条件に驚いたリゼが拒絶を示そうとした。
だが、はぁはぁと荒い息を出してリゼを狙っていたマリーダが驚くほどの早業でリゼの身体を抱え上げていた。
「そなたは妾に身代金払えるのか? はぁ、はぁ」
荒い息で獣欲を抑えきれず血走った眼でリゼを見ているマリーダが、騎士が怯むほどの気迫で凄む。
「あぅ、払え……ないです」
マリーダの気迫に抗弁の意欲をへし折られたリゼが半泣きになって顔を逸らしていた。
そんなリゼを抱えていたマリーダが、片手顎クイとして自分の方を向けさせるとトドメの言葉を吐き出す。
「だったら、妾に何をすればいいか子供じゃないから分かるはずじゃな?」
「ううぅ、オレ初めてなんだ。優しく、優しくしてくれよ」
「任せておけ。妾はおなごには優しいのじゃ。ささ、今すぐに極楽に妾が連れて行ってやるからのぅ。さぁ、行くのじゃ」
リゼを抱えていたマリーダがそそくさと自らの寝室として建てられた天幕の中に消えていった。
そして、すぐに中からはリゼのすすり泣く声が聞こえたかと思うと、嗚咽混じりの声に変わり、その声もすぐに喜悦の声に変わったかと思えば、最後の方は獣のような咆哮が聞こえてきていた。
囚われた憐れな貧乏領主の男装娘が色欲大魔王な女当主にコマされてしまいましたとさ。って、話だけども、これじゃあ、リゼが余りにも可哀想だったので、嫁が行った蛮行のアフターフォローは俺がシッカリとしっぽりと行っておいた。
もちろん、リゼに対しハッスルしすぎたマリーダへのフォローという名のお仕置きもリシェールとともにしっかりと濃厚に行っている。
「ううぅ、妾のリゼたんがアルベルトにコマされてしまったのじゃ。イレーナとリゼたんを抱きしめて妾はお家で寝たいのに」
「あら、あたしはお役御免ですか? マリーダ様を気持ちよくさせることに関しては愛人の中で一番だと自負してるんですけど」
「リシェールはアルベルトと一緒でいやらしい子なのじゃ。えっちな子に育った」
「そうさせたのは間違いなくマリーダ様ですよ。マリーダ様があの街に来なければ、あたしはあの街でひっそりと娼婦になってただけですしね」
俺を含めた四名は天幕の中に設えられたベッドでは事後の気怠さを満喫していた。
夜はすでにかなり更けている。
「アルベルト殿は本当にエロい。マリーダ姉様が蕩けさせられるなんて、オレは思わなかったぞ。それにオレもあんなに女として感じさせられるとは……」
すでに事を終え、リゼは俺の腕を枕にピッタリと寄り添って寝ていた。
リゼはマリーダの獣欲に蹂躙されたことでドハマりしたようで、マリーダを『姉様』と呼んですでに慕っている。そして、嫁の獣欲に蹂躙されたリゼをアフターフォローで優しく女性として開花させた俺に対しては絶対的な信頼を寄せてくれていた。
「リゼには俺の子を孕んでもらわないといけないからな。そのために子作りが楽しめる身体にしておいたのさ。リゼのためにも、アルコー家のこれからのためにもね」
俺は腕枕に提供した方の手でリゼの頭を優しく撫でてやる。
「え? アルコー家の未来? でも……今回の戦でオレを当主として推してくれた人たちほとんど死んでるし、領地は貧乏だし、内紛はまだ治まらないし、わりと詰んだ領地だと思うが」
「大丈夫、大丈夫。アルコー家の領地は、エルウィン家が面倒見てやるからさ。エルウィン家の客人という形でリゼを保護し、アルコー家を保護領化する算段をしてるの。だからのアルコー家の税収の上がりをリゼとマリーダが折半。入り婿の俺とリゼの間に男子ができたらアルコー家を継がせるし。反対派も俺とマリーダが黙らせるから、いいだろ?」
男装の女当主リゼは、今回の戦で自分の味方を失い、領地に帰っても女当主反対派に討ち取られる危険性があった。
そこでエルウィン家が後ろ盾となり、アルコー家当主リゼを盛り立て、当主の入り婿で重臣の俺との間に男子をこさえることで、女当主反対派を抑え込み。
俺の子を当主としたところで、なし崩し的に領地併合を果たすつもりだ。
「アルベルト様はただ綺麗な嫁の愛人という名の自分の嫁を増やしたいだけですよね。合法的に」
「アルベルトは女好きのむっつりスケベだからのぅ」
正解です。黒髪ショートで黒い瞳をした、中性的な魅力にあふれるボーイッシュなリゼとキャッキャッウフフしたい。俺は欲望に忠実なのですよ。そこは否定しないぞ。
ただ、エルウィン家とアルコー家の一体化はこの世界で俺たちが安全に生き抜く上では必要になってくるはずではある。
この世は力を持った者しか安全は訪れないのだ。
「本当にオレを守ってくれる?」
「ああ、守るぞ。俺は嫁は大事にする男だ。なぁ、マリーダ?」
「そうじゃのう。アルベルトは嫁をとても可愛がってくれるし、頭も切れる。リゼもアルコ―家の切り盛りはアルベルトを頼ればいいぞ。その方が楽で効率的になるはずなのじゃ。そして、暇な時間は妾とキャッキャウフフと楽しむのじゃぞ。じゅるり」
マリーダ。よだれ、よだれ。
君のことだから、リゼを啼かせて弄びたいのが、抑えきれないのだろう。
その気持ちは俺も分かるぞ。うん、分かる。きっと、イレーナも百合仲間が増えて新たな性癖に目覚めるかもしれんな。
「分かった。オレの身柄はエルウィン家に預けることにする。自由に使ってくれ」
「ならば、今一度祝いをせねばならぬのう。リゼたん」
「あぅ、ま、また?」
マリーダの愛人兼俺の嫁になることを決心したリゼをマリーダが抱き寄せると組み伏せて身体にキスの嵐を降らせていた。
その夜は天幕からはリゼの絶叫が終始聞こえることとなった。
ふぅ、リゼはベッドではちゃんと女の子でしたよ。普段とのギャップがね。もう、辛抱たまらんくらいよかった。
え? そんな情報いらない。だったら、頑張りすぎて俺が腰をやった話も要らないですよね? あいたた。湿布、湿布。
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