第8話 牧場で寝よう
「アスピよ、今日はもう遅い。一晩泊まって行くがよい」
「えっいいのですか?」
「もちろんじゃよ。若い娘をわざわざ追い出して野宿させるほど鬼畜じゃないわい」
「わぁ嬉しいです!」
「素直じゃのう」
そういうわけで牧場で泊まることになったわたしはフリエラさんとガジェドさんと一緒に机を囲み、シチューという小麦粉と牛乳と水でつくったスープで野菜を煮込んだ優しい味のする煮込み料理を口にした。
そして、なぜだか懐かしい味わいに食べているうちに視界がじわりとぼやけてきた。
「どうしたんじゃ?」
「大丈夫か?」
「いえ、何だか懐かしくて」
「なるほどのぅ……」
思い出した――――この味は、お婆ちゃんが居た頃、たまに口にした味だ。材料が底を尽きたとかお婆ちゃんがぼやいていた気がする。いつからか、食べる機会を失った、記憶の奥に眠った思い出の料理の味だ。
それから黙々と木のスプーンでシチューを食べ終えた頃、フリエラさんが口を開いた。
「そういえばお前さん、エインヴェルズの街まで行くのじゃろう」
「はい」
「さっきも言ったのじゃが1週間以上もの道程があるのじゃ。それを熟すのは大変じゃろう?」
「確かに……」
「そこで物は相談じゃが、明日、牧場からエインヴェルズへと馬車を出す予定じゃ。それに同乗してはもらえないじゃろうか?」
「それはどういう……」
「もちろんタダではないぞい。乗せる代わりにお前さんには馬車の護衛をしてもらいたいのじゃ」
「なるほど」「はぁ!?」
納得したわたしの声に被さるように驚いた声をあげるガジェドさん。何か驚くようなことでもあったのだろうか?
「婆ちゃん冗談だろ? こいつに護衛が務まるわけがない!」
「・・・?」
「こてんと首を傾げんじゃねぇよ! 別に乗せてやること自体、反対はしない。だけどお前、聞けば錬金術師じゃないか。錬金術師は物を造るのが仕事だ。戦闘向きじゃない。非戦闘員を矢面に立たせなければならないほど、俺は雑魚じゃないぞ!」
やや怒り気味にそう言い放ったガジェドさんを嗜めるかの如く、フリエラさんが言う。
「ガジェ坊や、落ち着かんか。お前さんの言いたいことも分かるがアスピはただの錬金術師じゃない。プライドを傷つけるような言い方にはなるがのぅ、下手すればお前さんよりも強いじゃろう」
「はっ!まさか!」
信じられないと言いたげに笑うガジェドさんにこれ以上言っても無駄だと判断したのか、フリエラさんは数度頭を振ると話題を変えた。
「ともかく、馬車は日の出と共に出発する予定じゃ。身体を洗ったらささっと床につくのじゃぞ」
「わかりました!」
それから更に幾つか会話を続け、喋り尽くしたわたしたちは席を立った。
そして、与えられた自室で身体を拭い終えたわたしは借り来客者用の寝巻きに着替え、柔らかな布団と毛布に包まれ眠りに就いた――――――
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