第5話 配慮を知ろう


「あの!牛さんの鳴き声がするあそこの建物は何をするところなんですか?」


「黙って歩けと言っただろうが――――」



「色違いの牛さんだ!なんで色が違うんですか?」


「そんなの知るかよ……」



「煉瓦造りの建物なんて初めて見ました!なんだかすごいです!」


「…………馬鹿にしているのか?」


「そういうつもりじゃないんです……わたし、木の中で生活してたのでこういった木造建築や土で組まれた家を見たことがなくて…………」


「―――――マジか」



 話しかける度、何だか鬱陶しそうな声音で返事をする男。でも何だかんだで必ず返事はしてくれる。きっと面倒見のいい人なのだろう。だが時折、呆れたような眼差しや溜息をするのはどうしてだろうか……?



「あの」


「今度は何だ?」


「名前聞いてなかったって思いまして」


「ああ、俺か。俺の名前はガジェドだ」


「へぇ、ガジェドさんって言うんだ」


「それがどうした?」


「いえ、べっつに♪」


「気味の悪いやつだな……」



 そう素っ気ない態度を取りつつもガジェドさんは自身の名前を教えてくれた。


 でも依然として変わらない態度に少し寂しさを覚えた。あまり好感を抱かれてはいないことは分かるけど、理由が分からない。

 最初に挨拶の仕方の間違えたのが後を引いているのか、それとも久しぶりの人との会話で妙に興奮しているせいか、ガジェドさんにドン引きされているのだろうか?


 だがそれだけでは警戒心を抱かれる理由にはならない。過去に初対面の人と何かトラブルでもあったのだろうか・・・?


 二言三言喋っては終わる会話を繰り返しながら辿り着いたのは煙突の生えた三角屋根の家だった。


 ガジェドさんは扉を開けると口を開いた。



 「入れ」



 その言葉に頷きながらわたしは先に家の中へと入って行った――――。



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 家の中には一人の老婆が居た。老婆は暖炉の近くに置かれて椅子に座り、こちらを振り向くや否や言葉を紡いだ。



「おかえりガジェ坊。おや、これは珍しい。もしやお前さんのこれかい?」


「やめてくれ」



 おどけた喋りの老婆の言葉に思いっきり眉を顰めるガジェドさん。「これ」とは何のことなのだろうか全くもって分からない。老婆の楽しげな雰囲気が気になった。

 だから早速「これ」とは何か聞こうとしたところで聞く間もなく、ガジェドさんが矢継ぎ早に言葉を紡いだ。



「それよりこいつ、婆ちゃんにはどう見える?」



 親指でわたしを指すガジェドさんの言葉に老婆は先の様子が嘘のように無表情へと変わる。そして、短く「あいよ」と答えると視線をガジェドさんからわたしの方へと移した。


 ――――目と目が合わさる。まるで深淵を覗き込んでるような深い眼差しがわたしを射抜く。でも何だかクリクリとした瞳が可愛くて、わたしもつい見つめ返す。見ていて飽きない、不思議な目だ。


 見つめ合うことしばし――――老婆はわたしから視線を外すとガジェドさんへと振り向いた。



「そうだね、大丈夫さね。ただの天然記念物さね」


「はぁ~~~」



 その言葉を聞くや否や何やら緊張が解けたような深い溜息を吐いたガジェドさんは木机のすぐ傍に並べられた椅子の1つに座るや否や頭を抱え始めた。


 「天然記念物」という意味深な表現も気になるが、それ以上にガジェドさんの様子の変わりようが気になって仕方がなかった。どうしたのだろうか?



「お前さんとガジェ坊との間に何があったか知らんがどうせガジェ坊のいつものアレが出たんさね。ガジェ坊は無駄に疑り深くて馬鹿らしいほどの心配性なのさ。お前さんが気にする必要はないよ」


「それはどうして――――」


「おっと、みなまで言いなさんな。あんたとガジェ坊は今日が初めてなんだろう?会って間もないほとんど他人な他所様の深い事情に踏み入るのはナンセンスさね。よく覚えとくんだね」


「気をつけます!」


「やれやれ無駄に元気な子だ。あたしゃフリエラっつうのさ。あんたは?」


「わたしはアスピといいます」


「そうかい。まあお前さんだけ立ちっぱなしなんもアレだから座るといいよ」


「ありがとうございます!」



お礼を告げ、わたしは席へと着いた――――――



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