第17話 読書家豆知識

「読書家豆知識だあ」

「おう。どんなのがあるんだ」

「秘密」

「はよ、いえや」

「お、し、え、な、い」

「黙れ」

「豆知識その1。アシモフが書いた本は500冊以上ある」

「どれだけ書くんだ」

「どれだけのタイプライターがぶっ壊れたんだろうね」

「ぜんぶ読んでるやつ、たぶん、いない」

「だろうね」

「読んでやれ」

「恐れ多い」

「しかたないな」

「豆知識その2。シャーロック・ホームズの二次創作は、プロが書いた商業作品だけで、200作以上ある」

「パクられすぎだろ。警察が取り締まれ」

「それが、二次創作が良い文化を産むことがわかって、二十一世紀の日本では、翻案権というものが認められているんだ。翻案権は、二次創作の著作権を認めるもので、政府公認の二次創作、それが翻案権なんだ」

「お兄さん、ついていけないわ」

「法律、超難しいね」

「おれもパクリでベストセラー狙うわ」

「ぼくもそうする」

「マジかよ。おれの時代が来た。この日を待っていた」

「次。豆知識その3。ヒトラーの人生を書いた伝記は3000冊以上ある」

「マジかよ。ヒトラーの読んだ本の数もそれくらいだったな」

「そう。需要があるのはまちがいない歴史上の偉人、ヒトラー」

「これも、読んだやついないな」

「だろうね」

「驚きで、声が出ない」

「気持ちはわかる」

「憂鬱だ」

「豆知識その4。エドガー・ライス・バロウズの「火星のプリンセス」は、生前から、二次創作している素人作家が200人はいた。二次創作のいちばん人気のあるパクリ屋の二次創作作家の二次創作がさらに百個近くあった」

「とにかく、おかしいよ。子供の頃は、この数字が十分の一でも信じなかった」

「ぼくも、始めは嘘だと思ったけど、どうも本当らしい」

「何がそんなによかったんだろう」

「でも、日本のジャンプ漫画の二次創作作家は、数万人いることがわかってるんだね」

「すげえなあ。もう誰も自分で考えようと思わないんだろうなあ」

「独創性の力を信じたい」

「日本ではなんかないの?」

「「八犬伝」の曲亭馬琴の書いた書物は2000冊あるとか」

「アホだ。理解できないが、何かがアホだ。それともおれが時代においていかれているのか」

「独創性ってなんなんだろうね」

「作家とは何か。血をもって書いているとはなんだったのか」

「そういう時代だったでは片付けられない」

「だな」

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