外に出て遊べ

木島別弥(旧:へげぞぞ)

第1話 読書的ディストピア

 ども。

 ここは二十一世紀の日本です。

 文明がどんどん発達して、人類はバラ色の時代になりました。

 永久機関が発明されて、人は働かなくてもよくなりました。

 無人工場が完成して、安倍晋三内閣のもと、日本は地上の楽園になりました。

 ばんざーい。

 やったぞ。人類は労働から解放された。

 勝ったのだ。日本人は総勝ち組社会に突入したのだ。

「おーい。ちょっと待て」

「なんだ」

「労働の必要がなくなったって本当か」

「本当です」

「そんなことになったら、夢の時代じゃないか」

「そうです」

「会社行かなくてよくなったら、毎日遊べるじゃん」

「そうです」

「おおお、やる気出てきた。それじゃあ、きみたち何するんだ」

「ああ、やっぱり気になりますね。休日のすごし方。労働から解放された日本人が何をするか」

「何をするんじゃ。日本人みんなでカバディとかか」

「ちょっとちがいますね」

「せっかく労働から解放されたんだから、有意義なことをしたいなあ」

「はい。それはもう決まってます」

「なんじゃ」

「いっていいですか」

「はよいえや」

「地獄の技術革新を実現して、社畜のごとくサーヴィス残業に耐えた日本人は、踏みしめて踏みしめて屍を越えていったサラリーマンたちによって作られた現代社会で」

「おお、屍を踏み越えてたどりついた現代社会で。何するんじゃ」

「はい」

「なんや」

「はい。では、発表をします」

「はよせえ」

「なんだと思います?」

「知るか。どうせ、くだらないんだろ」

「ええ、まあ、そうです」

「どうするんだ」

「はい。それでは発表です」

「待ってました」

「では、いいます」

「おう」

「労働から解放された人類は」

「労働から解放された人類は?」

「はい。読書をします」

「……」

「どうしました」

「よくわからないねん」

「何が」

「地獄の技術革新を成し遂げ、過酷なサーヴィス残業に耐えて、やっと実現した理想社会で、することが読書なんか」

「はい。そうです」

「もっと他にすることあるだろ」

「いえ、もう、ひたすらに読書をします」

「もったいないで。時間とか、本代とか」

「問題ないです。ただひたすらに読書をするユートピアを実現したのです。ユートピア、あるいは、ディストピア」

「めっちゃディストピアじゃないのか。無人工場を完成させたのに、することが家でみんなで読書とか」

「かまいません」

「ひとこといっていいか」

「はい、どうぞ」

「外に出て遊べや」

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