飛び込む
夕焼けの向こう側に、幼いわたしが隠れているような気がして、
鬼ではないわたしは、その子を見つけに行ってあげられない。
日の入りが、一日の刻限だった時代。
明白な限りが、確かにそこにはあって、
わたしたちはその時間を境に、すべてが変わってしまう。
さようなら、と手を振ったあの日の思い出が、
今もまだ、さようならをするたび、息を吹き返す。
大人になってから、さようならをする機会も少なくなって、
だからあの日の思い出も、もう息をしていない、大人になる。
何も変わらない日に、何かが変わること。
目に見えないものが、天上から降ってきて、わたしたちを包んでいく。
それは、きみのようだと、思いました。
なにをするの、と聞かれて、
明日のことを語れるような時代が、わたしにもありました。
明日が雨だったら、世界が終わるような、そんな時代が。
未来を感じる、未来ではないわたし。
すべてが限りないと知っているのに、
大切なものにはいつも限りがあるこの世界だから、
なにもかもを大事にしているようで、本当は、
あの時両手で抱えたボールしか、大切にしていないのです。
新しい日々に、新しくなれない自分を、
きっといつか、わたしは追い越してしまうのでしょう。
人が死んだとて、何も変わらない空の下、息をしています。
だから今日は、浮かれた気分のまま、
なにかが新しくなったと、言い訳をすることくらい、
今日だから、許してほしい。
スーツに着られていた青年が、
当たり前のようにスーツを着るようになり、
空っぽの令和に佇む私たちも、ようやく、歩いていくのだろう。
人々が、新しい時代へと飛び込み、水面が上昇して、空が高い。
魚が水中を泳いでいるから、今、わたしたちは立っているんだね。
そうなんだよ、と月が言っているので、わたしは水面に飛び込みます。
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